新型コロナウイルス感染症対策として、テレワークに注目が集まっています。テレワークに必要なツールの導入は難しくありません。ただ、導入して成果を上げられる組織には一定の特徴があります。どのような企業であれば、テレワークの運用が円滑に進むのでしょうか?
『2001年宇宙の旅』という有名なSF映画があります。この作品が作られたのは1968年のことですが、作品内で宇宙船から地球の家族とテレビ電話をするシーンが出てきます。当時の夢物語が2020年の現在、一般的になっているということですから、感慨深いですね。一方、私たちの仕事を振り返ってみると、電話やファックスを使っていないでしょうか?これらのツールは1968年にも存在しました。2020年になり、世の中は大きく変わったのにツールが今までのままでは無理が生じるのも頷けます。
テレワークとは?
総務省の定義によれば「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」をテレワークと呼んでいます。今はやりのZoomのようなWebミーティングシステムはもちろん、LINEに代表されるチャットシステム、少し古いですがメールや電話会議システムを活用した働き方も、テレワークといえるでしょう。リモートワークという呼び方がされることもありますが、はっきりとした切り分けはないようです。
その場にいなくても可能なコミュニケーション
例えば、以下のような企業はテレワークで成果を上げられるでしょうか?
- 常時Webミーティングシステムを接続して、いつでも声をかけられるようにしている
- メールやチャットでは心が伝わらないので、やはり電話がよい
- Webミーティングではご挨拶回りができないので不便だ
答えは簡単で、成果は上がりにくいです。なぜかというと、コミュニケーションをする際、いつも相手の手を止めて、作業を中断させているからです。コミュニケーションを観察してみると、会議のようにその場にいなければならない手法(同期的コミュニケーション)と、稟議のようにその場にいなくても可能な手法(非同期的コミュニケーション)があることに気づかされます。
文字の発明以来、人類の歴史は、非同期的コミュニケーション発展の歴史です。この非同期的コミュニケーションの活用こそ、テレワークを機能させるポイントです。
同期的コミュニケーション —会議・Webミーティング—
- 相手と自分の時間を合わせる必要がある
- 時間制限がある
- その場で決められるため、意思決定がしやすい
非同期的コミュニケーション —メール・チャット—
- 相手と自分の時間を合わせる必要がない
- 時間制限がない
- その場で決められないため、意思決定がしにくい
もう一つのポイントは、テレワーク≠オフィスと同じ環境を家で作ること、です。それでは、どのような環境であれば、非同期的コミュニケーションを活用できるのでしょうか?
相手のために時間を使うこと≠美徳
かつて、営業は相手のために時間を使うことが美徳とされてきました。皆さまの職場でも、ご挨拶という名の営業を受けたことがあろうかと思います。しかし、コロナウイルスによる活動制限により、本当にビジネスの成果を上げるミーティングと、単に相手の時間を奪っているミーティングがはっきりしました。これからの社会では、相手にメリットを打ち出せないコミュニケーションはビジネスから淘汰されていくことは間違いありません。急速なテレワークの進展と共に、相手の時間をできるだけ奪わないことが美徳、というような価値観に変化してきているといえるでしょう。そう考えると、ミーティングそのものが相手の時間を奪い、生産性を下げる行為といえます。ここに気づいているかどうかが、非同期的コミュニケーションの活用に大きな差となって表れます。
Webミーティングシステムを導入することがテレワーク?
テレワークの話では、すぐに「~というツールが使いやすいらしい」という話が出てきます。ただし、Zoom、Webex、Teamsといった、現時点で有名なツールであれば、機能に大きな差はありません。むしろ大事なのは、「とりあえずミーティングをする組織風土」でWebミーティングシステムを導入すると、現状がそのままネット上で再現されてしまうことになります。何の改革にもならないどころか、むしろマイナス面が大きいということになります。
チャットが根づく組織風土づくり
成果を上げる組織とは何でしょうか?そのためには、まずは結果に着目して成果を定義しなければなりません。テレワークでは場の空気というような曖昧なコミュニケーションが存在しないため、何でも言葉ではっきりと伝える必要があります。これができれば、チャットはスムーズに導入可能です。~を~までにやってください、注意点は~です、と仕事の内容に応じて、文字ではっきりと説明できる必要があります。
指示を出す側の注意点
- 何を指示するにもきちんと背景や成果物に必要な要点の説明が必要になる
- 安易なOJT(習うより慣れろ)が通用しない
- 部下に資料提出を求めたりすることで仕事を管理しているつもりに陥らず、自分自身がアウトプットの品質向上に貢献する必要がある
指示を受ける側の注意点
- 「(できないけど)がんばっています」が通用しない
- わからないことが曖昧なまま残りがち
- 成果物の納期や内容について、きちんと意見や交渉ができる人以外は成果を出せない
テレワークは「オフィスにいたから働いているように見えていた人たち」が、実は成果を上げていなかったことを、誰の目にも明らかにする働き方といえます。特に管理職といわれている人々に注意が必要です。
なんとなくテレワークを導入すると?
成果が定義できないまま、なんとなくテレワークを導入してしまうと、どのような状況になってしまうのでしょうか?最近、テレワーク業界では従業員の行動を、Webカメラと顔認証技術を用いて、秒単位で自動的に監視するツールが話題となっています。確かに、オフィスであれば常に従業員を見ることもできるでしょう。しかし、それは監視のためでしょうか?今一度、何のために日々の業務をおこなっているのか、検討する時代が来ているといえます。
テレワークに活用できる各種補助施策
テレワーク導入はブームになっており、以下のような補助施策が用意されています。テレワーク用通信機器の導入・運用、就業規則・労使協定等の作成・変更、労務管理担当者や従業員に対する研修、外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティングに活用可能です。 課題はいかに定着させるかであり、これについては長期的な取り組みが必要です。
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