コロナ禍が長期化している。たとえ現在準備が進められているワクチンが成功しても、「コロナ収束に2~3年、経済の回復には3年はかかる」という論者もいる。第3波が収まっても次の冬に感染が広がる可能性も否めない。先行きの見えない状況下で、我々はウィズコロナ時代に成長可能なビジネスモデルを構想し具現していく必要がある。
今回は、経済産業省方針『「新たな日常」(≒ニューノーマルな社会)の先取りによる成長戦略』のポイントを考察し、コロナショックを乗り切るリーダーとして未来を描くヒントとしたい。
地域や企業(事業所)の未来、いかに持続可能な社会を実現するかは、構想力にかかっている。言い換えれば、それぞれの企業(事業所)にとって相応しいニューノーマルとは何かを構想し、実現する! 企業(事業所)のトランスフォーメーションが求められている。
「危機の時代は、まずはリーダーの時代である。誰よりも体を張り、リスクを取り、ハードワークし、結果責任を背負うべきはリーダーである。そんなリーダーがいてはじめて、最前線を担う現場は思い切り闘える。現場力も生きてくる」。『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』(冨山和彦著)に記された至言である。
「新たな日常」の先取り
2020年12月1日、内閣府では「経済財政運営と改革の基本方針2020(令和2年7月17日閣議決定)」に基づき、経済財政諮問会議の方針とウィズコロナ時代を見据えた「新たな日常」の早期実現に向けて、主な施策項目の実行計画を取りまとめた。政府幹部は、この計画を断固たる意志を持って実行に移すことを明文化している。
続いて、経済産業省の令和2年度第3次補正予算(案)が、12月15日に閣議決定された。次の3つの大きな柱で構成されている。
Ⅰ 「新たな日常」の先取りによる成長戦略
Ⅱ 国内政策と一体となった対外経済政策
Ⅲ 廃炉の安全かつ着実な実施 / 福島の復興を着実に進める
そして『「新たな日常」の先取りによる成長戦略』は、5つの柱から成り立っている。
デジタル改革
- デジタルを活用した産業の転換
- デジタル基盤・ルールの整備
グリーン社会の実現
- 脱炭素化に向けたエネルギー転換
- 循環経済への転換
中小企業・地域
- 「新たな日常」下での中小企業支援
- 地域経済の強化と一極集中是正
レジリエンス、健康・医療
- サプライチェーン強靱化・サプライネットの構築
- 経済・安全保障を一体として捉えた政策の推進
- 国民の命を守る物資の確保
- 予防・健康づくりの実現
人材育成、イノベーション・エコシステムの創出
- 変革を実現する人材の育成
- イノベーション・エコシステムの創出
『「新たな日常」の先取りによる成長戦略』は、コロナ禍を契機とした「新たなトレンド(後述)」への対応を加速しなければ世界で埋没するという危機感を反映し、日本の経済がこれまで抱えてきた構造的問題を解決することにつながるとしている。
ポイントは、コロナ禍の厳しい状況でも、守るだけでなく、攻めることが必要であり、ウイズコロナ・ポストコロナにおける「新たな日常」を誰もが意識をしている今こそ、チャンスと捉え、長期視点に立った日本企業の変革、産業構造の転換を図ることにある。
具体的には、経済・社会のデジタル化、脱炭素化に向けたエネルギーの転換、健康な暮らしの確保。強靭なサプライチェーンの構築。中小企業の新陳代謝や地域経済の活性化、イノベーションを生み出す力と、それを支える人材の育成・強化である。
経済産業政策は「成長戦略実行計画や骨太方針の方向性に沿って、在るべき経済社会像を描き、現実の企業行動の変革、産業構造・社会システムの転換を図っていくこと」が重点になっている。
日本には生産性が低い企業が多い。その引き上げが課題であり、デジタル化や技術革新を急速に進めることでギグ・エコノミー(デジタル技術を活用した新しい働き方、無人化・AI化の進展)を始めとした新しい働き方やイノベーションを推し進め、生産性を最大化させるチャンスだと政府は考えている。低労働生産性企業の再編である。ニューノーマルな社会では「構造転換できなければ生き残れない」のだ。
補助施策と新たなトレンド
具体的には改めて次号で紹介するが、Ⅰ『「新たな日常」の先取りによる成長戦略』「中小企業・地域」においては次のような支援が記されている(抜粋)。
- 生産性向上、規模拡大、利益率の向上など新事業やビジネスモデルの転換などを志向する中小事業者、新規事業分野への進出などの新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大など、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業などの挑戦を支援。
- 事業再構築を通じて中小企業等が事業規模を拡大し中堅企業に成長することや、海外展開を強化し市場の新規開拓を志向する企業をより一層強力に支援。
- 新型コロナウイルス感染症の流行が継続している中で、現下及びポストコロナの状況に対応したビジネスモデルへの転換に向けた中小企業等の取組を支援。
本年度も実施された「事業承継補助金」や「経営資源引継ぎ補助金」、地域を再活性化するための需要喚起策、「Go To 商店街事業」なども引き続き実施される予定だ。
その他、都心部への一極集中の緩和に向け、地方移住を捉えたリモートワークの拡大と、地域企業の強化、人材の移転等への様々な支援が計画されている。
今後打ち出される補助施策は、企業(事業所)が、ビジネスモデルやオペレーションをいかに「新たなトレンド」に適応させるかが問われることになる。
「新たなトレンド」とは、「接触回避:デジタル化・オンライン化の加速」「職住不近接:地方居住・生活地選択の自由拡大、労働市場のグローバル化」「ギグ・エコノミー」などである。
未来をデザインし、具現する構想力
不易流行1月号で掲載した小出会頭年頭挨拶のポイントは次の4つである。
- 価値提供の変革/デジタルトランスメーション(DX)への挑戦
デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術による業務やビジネスの変革をいう。行政業務もビジネスの世界においても、デジタル・ICTの進化により従来型のサービスから効率的で生産性の高い仕組みに変革することが喫緊のテーマである。コロナ禍を契機として新たなステップやシステムへの一歩を踏み出し、希望を持って身の丈に合ったマイクロDXへ挑む。 - アニマルスピリット / 先駆的な地域の取り組みへの挑戦
「アニマルスピリット」は、経済学者ケインズが使って有名になった言葉である。これからの時代において広義な意味の「新たな挑戦・野心的な情熱意欲・動物的な野心・合理的な創造」と解釈できる。組織や事業を再構築するとき、経験の重視・安心安定への過度なこだわりを再考し、既得権打破・規制改革などを進めるためには「アニマルスピリット」が必要となる。 - グリーン社会への対応
新政権のひとつの柱となる政策は、「グリーン成長戦略」としての2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現である。気候変動に対応した「経済と環境の好循環」を進める産業政策で、世界中で取り組んでいる課題だ。カーボンニュートラルを始めとしたグリーン社会に寄与するビジネスへと各企業単位で変革する必要があるとしている。地域の事業所では、自社の経営方針にSDGsを始めとした、Environment、Social、Governanceの要素を盛り込んでいくことが第一歩だろう。ESGがファイナンス分野で評価される現代においては、社会的な評価向上とともに資金調達において優位に立つことができる。 - 地域人材の育成
地域においてはジュニア世代・シニア世代を含めた全市民型の人材育成プログラムが重要である。「夢と未来を語れるひとづくり」をテーマに、産官学一体となって取り組む。
デジタルへの流れは不可逆的だ。コロナ禍は人の流れを阻み、観光・宿泊・飲食・小売などローカル産業に甚大な影響を及ぼしているが、デジタルではモノもコトもサービスもグローバルに消費が加速している。存亡をかけ、旧態依然とした企業文化の革新、DX、グリーン社会、地域の人材育成に取り組み、ニューノーマルな社会に適合していかなければならない。
コロナショックを乗り切り、V字回復を可能とする方向は明らかになっている。『「新たな日常」の先取りによる成長戦略』を先取りする!
コロナ禍で疲弊した経済を持ち直すためには思いを一つに政府と地域が一丸となり、全体善、公共善のために、自ら企業(事業所)の未来をデザインし具現する必要があることは言うまでもない。