日本は少子高齢化が加速し、労働人口の減少が深刻な問題となっている。このため多くの企業が労働力確保に苦労し、生産性やサービスの質の低下が懸念されている。対処していくためには、新たな労働力の確保が急務だが、残念ながら即戦力となる若年労働者の数は限られている。このような背景から、高年齢労働者の雇用が注目されている。
厚生労働省のデータでは、昨年度全労働者のうち60歳以上が18・7%を占めており、増加の一途を辿っていることが分かる。高年齢労働者は豊富な経験と知識を持っており、人手不足を補うだけでなく、企業の競争力を維持するためにも貴重な戦力となる。
しかし一方で労働災害による休業4日以上の死傷者数が13万5千371人(前年比3千16人増)と3年連続で増加しており、特に高年齢労働者の労働災害は全体の約半数を占めている。若年者に比べて労働災害の発生率が高く、休業も長期化しやすい傾向にあることから、防止に向けての取り組みは必須となる。企業においては高齢者の特性に配慮した(エイジフレンドリーな)職場で、高年齢労働者がその能力を最大限に発揮できるよう職場環境の整備を進めることが求められている。
※高年齢労働者の定義について
「高年齢者等の雇用の安定などに関する法律」では55歳以上、「雇用保険」では64歳以前から引き続き雇用されていた人が65歳以上になると高年齢継続被保険者など、法令や行政においてもそれぞれで年齢が定められている。
エイジフレンドリーな職場を目指す
高年齢労働者の労働災害の発生は、主に加齢に伴う身体・精神機能の低下が影響している。防止のためには、そうした視点をふまえた労働災害発生のリスク低減対策がポイントになる。
こういった対策は目の前の仕事に追われ、後回しになってしまいがちだが、事故があったときでは遅く、そこから日常に戻るには大きな負荷と努力が必要になる。この機会にエイジフレンドリーな職場づくりに取り組んでみてはどうだろう。
労働の場における加齢と健康に関する課題や世代ごとの特徴に合わせ、事業活動を行うための厚生労働省の定めたガイドライン(抜粋)
安全衛生管理体制の確立
- 企業の経営トップが、高齢者労働災害防止対策に取り組む方針を表明し、対策の担当者や組織を指定して体制を明確化する、そして、対策について労働者の意見を聴く機会や、労使で話し合う機会を設ける
- 職場で気づいた労働安全衛生に関するリスクや働くうえで負担に感じていること、自身の不調等を相談できるよう、社内に相談窓口を設置したり、孤立することなくチームに溶け込んで何でも話せる風通しの良い職場風土づくりが効果的
- 高年齢労働者の身体機能の低下等による労働災害発生リスクについて、災害事例やヒヤリハット事例から洗い出し、対策の優先順位を検討する
➡中央労働災害防止協会による「エイジアクション100」という職場改善のチェックリストの活用が有効
職場環境の改善
安全に働き続けることができるよう、施設や設備、装置等の改善を検討し、必要な対策を講じる
➡ハード面の対策例
- 通路を含め作業場所の照度を確認する
- 警報音等は聞き取りやすい中低音域の音、パトライト等は有効視野を考慮
- 階段には手すりを設け、可能な限り通路の段差を解消する
- 不自然な作業姿勢をなくすよう作業台の高さや作業対象物の配置を改善する
- 涼しい休憩場所を整備し、通気性の良い服装を準備する
- 防滑靴を利用させる
- 水分・油分を放置せず、こまめに清掃する
- 解消できない危険個所に標識等で注意喚起
- リフト、スライディングシート等を導入し、抱え上げ作業を抑制
- 床や通路の滑りやすい箇所に防滑素材(床材や階段用シート)を採用する
- 熱中症の初期症状を把握できるウェアラブルデバイス等のIoT機器を利用する
- パワーアシストスーツ等を導入する
- パソコンを用いた情報機器作業では、照明、文字サイズの調整、必要なメガネの使用等により作業姿勢を確保する等
➡ソフト面の対策例 - 事業所の状況に応じて、勤務形態や勤務時間を工夫することで高年齢労働者が就労しやすくする(短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務等)
- ゆとりのある作業スピード、無理のない作業姿勢等に配慮した作業マニュアルの策定
- 身体的な負担の大きな作業では、定期的な休憩の導入や作業休止時間の運用
- 一般に年齢とともに暑い環境に対処しにくくなるため、意識的な水分補給の推奨
高年齢労働者の健康や体力の状況の把握(自己管理意識の向上)
- 健康状況の把握・労働安全衛生法で定める雇入時および定期の健康診断を確実に実施。その他、高年齢労働者が自らの健康状況を把握できるような取り組みをする
➡厚生労働省作成の「転倒等リスク評価セルフチェック票」等を活用
補助金の活用がベスト
高年齢労働者が安全に働けるような設備導入や労働者の健康保持増進のための取り組みは、企業にとって新たな投資が必要となる。上記に厚生労働省のガイドラインを抜粋しておいた。このような取り組みに対して支援する「エイジフレンドリー補助金」を活用すれば、ハードルが低くなるに違いない。審査後に交付決定され、全ての申請者に補助されるものではないが、最大100万円かつ対象の範囲も広いので、ぜひ申請をご検討いただきたい。
高齢労働者の雇用促進は社会全体の労働力不足の解消にも寄与する。高齢者が働き続けることは、年金や医療費の負担軽減にもつながり、持続可能な社会の実現に貢献することができる。また、高齢者が労働を通じて生きがいを感じ、活躍することによって地域の活性化を進めていくという目的もある。このような社会的背景を知り、エイジフレンドリーに取り組んでいただきたい。
エイジフレンドリー補助金
⾼齢者を含む全ての労働者が安⼼して安全に働くことができるよう、中小企業事業者による高年齢労働者の労働災害防止対策、労働者の転倒や腰痛を予防するための専門家による運動指導等、コラボヘルス等の労働者の健康保持増進のための取り組みに対して補助を行うもの。60歳以上の労働者を常時1名以上雇用しており、労働保険に加入している中小企業事業者で、小売・サービス・卸売業、その他、建設・運輸・農業・金融・保険業など幅広い業種が対象となる。
- 高年齢労働者の労働災害防止コース(60歳以上の労働者の雇用している事業者対象)
- 転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース(年齢制限なし)
- コラボヘルスコース(年齢制限なし)
※コラボヘルス…医療保険者と事業者が積極的に連携し、明確な役割分担と良好な職場環境のもと、労働者の健康づくり等を効果的・効率的に実行すること。
詳しくは、エイジフレンドリー補助金事務センター