2018年10月の彦根商工会議所会報誌特集にて「今さら聞けないFinTech」と題して、政府のキャッシュレス推進施策を打ち出したタイミングで、お金とテクノロジーについて改めて認識することを目的に記事を掲載した。
このタイミングで改めてWeb版としておさらいしたい。 なぜなら、現在世界中を襲っているコロナ禍によって、人の動きが制限されているということは、現在、世界経済はモノとカネを中心に回っていると言っても過言ではないからだ。各国政府のコロナ不況を防ぐための政策マネーがだぶつき、行き場を失ったマネーは株式市場や暗号資産市場へ流入、日経平均はバブル期の30年ぶりの高値水準となった。これをみて「政策バブルは崩壊する」と危機感を煽るアナリストも多い。しかし、そもそもコロナ金融不況を防ぐための施策によってみすみす金融不況を招くような真似を各国政府も見逃さないだろうことを考えると、上昇スピードが緩やかになることはあっても急激な崩壊はしないと考えるのが自然だろう。コロナ禍であるからこそ、改めてFinTechを知り、上手に活用することで資産を防衛する一助になれば地域経済の下支えになるかもしれない。

※1 フィンテック(FinTech)
Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた略語。「ICT(Information and CommunicationTechnology:情報通信技術)を駆使した革新的な金融商品・サービス」の意味で使用される。

フィンテックにより、これまでつながらなかったものが新たに即時につながることで(データ連携、個人と企業、企業データと金融機関等)、電子マネー・スマホ決済等によるキャッシュレス決済、ブロックチェーン技術を活用した仮想通貨、個人から資金調達するクラウドファンディング、会計・取引データ等を活用した融資(トランザクションレンディング等)が進展し、個人や企業における「金融サービス」の利便性が格段に向上するとともに、金融と表裏一体の関係にある「経済活動そのもの」も大きく変化してきている。
中小企業において、フィンテックの進展により、消費者や取引先等の意識・行動が変化することにより、キャッシュレス決済、オンライン受発注、受発注EDIやXML電文・金融EDI等に対応することが求められる。
他方、フィンテックを積極的に活用して、「複数のビジネスアプリ(クラウド会計等)」を駆使し、「業務フロー・会計・決済プロセス全体のデータ連携」を行うことによって、自動生成された会計・取引データ等のリアルタイムデータ(経営の見える化)に基づく、「経営の高度化」「生産性の向上(付加価値向上/業務効率化)」や「資金調達の多様化・資金回収の早期化」が実現する可能性が高まる。
また、仮想通貨やブロックチェーン等の技術を活用することで金融機関が持つサービスを低コスト且つ高速で提供することも可能となる。

※2 ブロックチェーン
ブロックと呼ばれる順序付けられたレコードの連続的に増加するリストを持つ、分散データベース。今や汎用的な分散基盤として利用用途は拡大している。

※3 クラウドファンディング
群衆(crowd)と資金調達(funding)の造語。インターネットを通じて個人から出資等を募ること。投資型、融資型、寄付型、購入型等がある。

※4 トランザクションレンディング
店舗やインターネット上での取引・決済・在庫等の受発注等データを用いて運転資金等の融資を受けること。ネット通販大手等が自社サイトの出店者向けに、蓄積された販売実績や顧客評価等の取引履歴に基づき簡便・迅速に審査・融資を行っている。また、クラウド会計の会計・取引データを金融機関に開示し、与信審査に利用することで、書類の提出が不要となり融資までの手間と時間が削減できる。

※5 EDI
Electronic Data Inter-change。電子データ交換。紙文書をデジタル化し通信回線を通じてやり取りする仕組み。取引を行う企業同士のコンピュータとコンピュータを接続しデータを直接交換する。

※6 XML
eXtensible Markup Language。XML電文は企業間の国内送金で使用する国際標準の電文方式。情報量や情報の互換性に優れており金融EDI情報を拡張できる。

※7 金融EDI
金融機関を通じた企業間の国内送金に、XML電文方式を活用して、受発注情報(商取引に関する情報)を付加すること。日本銀行では2018年12月に全銀EDIシステムを導入した。

フィンテックを生んだ「歴史の一致」

近年叫ばれるようになったフィンテックによる急速な革新は、独自に発達した以下の3つの技術が偶然同時期に実用可能になったことが大きな要因である。この技術の組み合わせが決済方法や資金調達、マーケティング等と非常に相性が良かったことが相乗効果を生み、様々なサービスが登場した。

  1. スマートフォンの爆発的且つ世界的な普及
    新興国、途上国も含めて世界中で爆発的に普及したスマートフォンはAI(人工知能)にクラウド(cloud)を通して誰でもアクセスを可能にし、金融の新たなアクセス手段ともなっている。
  2. AIの登場、ビッグデータ分析技術の進歩
    インターネット、スマートフォン、SNSの発展により、経済社会に溢れるデータが急増し、AIの「ディープラーニング」は急速に発達した。データを入手し分析するAIも登場し、そのデータが意味することを人間に理解できる形でアウトプットできるようになった。
  3. ブロックチェーン・分散型台帳技術(DLT)の登場(後述)
    これらの技術の結合と金融との出会いにより、様々なサービスが登場している。例えば、決済方法としては、ネット通販(Eコマース)、スマートフォン決済、低コスト国際送金、資金調達方法としては、P2Pレンディング、クラウドファンディング、ロボアドバイザーサービス、その他スマートフォンアプリでの家計簿管理・金融資産管理・経理、スマートコントラクト、生体認証等、前述の金融サービスの類型の多くの部分に影響している。

※8 P2P(Peer to Peer)
Peer(ピア)とは「「対等な対象」という意味で、一般的なインターネットは、サーバーで処理された内容をクライアント(手元のパソコンやスマホなど)から利用する通信を行っているが、P2Pでは、サーバーとクライアントをいう関係ではなく、P2Pの専用プログラム(アプリなど)を介してクライアント同士が繋がることで処理を行う。P2Pにより、サーバーが停止することでシステム全体が停止するということがなくなり、クライアント同士が分散して繋がることで、どれか一つのクライアントが停止しても、全体としてのシステムがダウンすることが無い、ゼロダウンタイムが実現する。一方、ファイル交換ソフトなどに代表されるようにウイルス感染やデータ流出等の目的で悪用されることもある。

キャッシュレス化の最前線

現金が消えたスウェーデン

スウェーデン 現金払いお断りの看板

スウェーデンの現金流通量は、対GDP比で1.4%(2016年)。アメリカの7.8%、ユーロ圏の10.7%、さらに日本の19.9%と比べると、その差は歴然だ。首都ストックホルムの中心部では、「現金は受け取りません」「ノーキャッシュ(現金おことわり)」などの表示があり、キャッシュレス化が浸透していることがわかる(法律で小売店等が顧客の現金支払いを拒むことができるようになっている)。
スウェーデンの場合、自然発生的にキャッシュレス化が進んでいるわけではなく、国策として行われ、その歴史は古い。1990年代には小切手からデビットカードへ、2007年から公共交通機関での現金取扱が廃止され、2012年12月には個人間送金・支払いサービスの「Swish(スウィッシュ)」が登場した。2014年6月には「Swish」での企業への支払い開始、2017年1月には電子商取引での支払いが始まっている。
スウェーデンの他、政策的にキャッシュレス化を推進している国々にシンガポール、韓国がある。

QRコード決済大国 中国

中国 商品の間に置かれたQR コード

QRコードは、1994年、(株)デンソーウェーブが開発した日本発の技術である。QRコードの「QR」は、「Quick Response(クイックレスポンス)」に由来し、素早い読み取りを目指して開発された事から命名された。
日本では観光案内やウェブサイトへのアクセスなどに利用されるが、中国ではQRコードを利用した決済方法が爆発的に普及している。中国大手メッセンジャーアプリのウィチャットペイ(WeChat Pay)や中国大手Eコマースのアリペイ(Alipay)が決済方法として採用したことがキャッシュレス化を一挙に推し進める要因となった。
例えば中国では、商品にQRコードが貼ってあり、そのQRコードを読み取るだけで支払いが完了する。店舗側はQRコードを印刷するだけでよい。特に新興国や途上国では導入コストがほとんどかからないということも爆発的な普及に一役買っている。
日本国内でも「LINE Pay」「楽天ペイ」「PayPay」などがQRコードを利用した決済サービスを開始しているが、まだまだ浸透しているようには見えない。
しかし既に、飛騨高山エリアでは2017年12月に「さるぼぼコイン」(後述)が誕生し、2018年8月には中国のアリペイと業務提携を開始。中国マネーを取り込む基盤を整えた。
日本・彦根でもインバウンド観光客の決済方法を始め、海外の需要を取り込むために、導入コストが低い決済システムを現場レベルで進めていくことも可能かもしれない。コロナ禍の今だからこそ絶好の準備期間であると考えられなくもない。

新技術ブロックチェーンを活用した暗号通貨

ブロックチェーンとは、分散型台帳技術、または、分散型ネットワークである。ビットコインの中核技術(サトシ・ナカモトが開発)を原型とするデータベースである。ブロックと呼ばれる順序付けられたレコードの連続的に増加するリストを持つ。各ブロックには、タイムスタンプと前のブロックへのリンクが含まれている。理論上、一度記録すると、ブロック内のデータを遡及的に変更することはできない。ブロックチェーンデータベースは、Peer to Peer ネットワークと分散型タイムスタンプサーバーの使用により、自律的に管理される。この技術が応用された例として著名なのがビットコインを始めとする暗号資産であり、現在では1,000を超える暗号資産が存在している。
ブロックはブロックチェーンに参加する者のうち、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)と呼ばれる計算に時間のかかる値を最初に計算した者が、次のブロックを生成することができる。ビットコインでは、このプルーフ・オブ・ワークに対してビットコインで報酬が支払われる仕組みだ。報酬と労力のバランスから暗号資産とブロックチェーンは相性がいいとされている。
ここでお金にとって必要な機能を整理すると、「価値交換機能」「価値尺度機能」「価値保存機能」の3つがある。この機能を満たしているかという観点でブロックチェーンによる暗号通貨を見てみると、2017年末起きたような投機的な価格変動が起こると、この3つの機能が担保出来なくなる恐れがある。また、AML/CFTや犯罪・脱税等に利用されることも各国中央銀行では懸念されている。
ではこのブロックチェーンの技術は埋没してしまうのか?すでに次を見越した取り組みは始まっており、ブロックチェーン2.0と呼ばれている。ブロックチェーン技術を暗号資産以外の目的で活用し、いいとこどりをしようというものだ。具体的には、スマート・コントラクト(第三者を介さずに信用が担保されたトランザクションを処理できるコンピュータープロトコル)との組み合わせによる取引の自動化、財やサービスの取引や権利の記録への適用などの研究と実証実験が進んでいる。研究に取り組んでいるのは企業だけでなく、各国の中央銀行も例外ではない。
企業や消費者にはどんなメリットがあるのか。例えばスマート・コントラクトとの組み合わせによる取引の自動化が実用化された場合、数秒で決済が可能、仲介が減るため手数料減(数円から数十円と言われている)、操作が簡単、改ざん不可能などのメリットを得ることができる。

フィンテックがもたらす変化

日本では日本銀行が運用する全銀ネットを通じて銀行間のお金の移動を管理・監督してきた。直近では日本銀行で全銀EDIシステムが2018年12月に開始され、企業間の決済の高度化(XML電文移行・金融EDI)が急速に進んでいる。また、AIの導入により情報処理のコストが大きく低下し、取引の自動化によって中抜き・分散化が可能となり手数料のコストダウンが起こる。ビッグデータを活用した金融+商流が生まれ、利活用される。今まさにフィンテックによる金融の分解と再構築の歴史的な瞬間に直面している。フィンテックは、いわば金融分野における新たなビジネスモデルの実験場である。様々なトライアルが市場で選別され、既存の金融機関では考えもつかなかった斬新な技術革新が生じる可能性もある。
「決済」では、キャッシュレスによる支払いに伴うストレスの軽減や利便性の向上、ポイント付与等による利用インセンティブ等により、今後、若者世代を中心に「キャッシュレス決済が増加」することが想定される。
また、コロナ禍の非接触・ソーシャルディスタンス環境整備の一環としてキャッシュレス決済の対応を進める社会的要請もあり、キャッシュレス決済に対応しないと、顧客減少・売上減少に直面する可能性がある。
「資金調達」では、新たに個人から資金調達する「クラウドファンディング」「ソーシャルレンディング」、企業の活動データを新たに融資審査に使う「トランザクションレンディング」「POファイナンス」等の動きも活発化し、「資金調達の多様化」の進展が期待される。

※9 POファイナンス
商品やサービスが提供される以前の受注段階で発生させた条件付電子記録債権を担保として融資を受けること(Purchase Order〈発注〉情報をもとにした融資)。

「地域経済の活性化」に関してはブロックチェーン技術を活用した「電子地域通貨・ポイント」の取り組みが活発化するだろう。飛騨信用組合(岐阜県)の「さるぼぼコイン」は、ブロックチェーン技術によりセキュリティを確保しながら投資コストを低減できるシステムを活用して、地域限定で利用できる「地域通貨」を誕生させた(外国語も対応)。利用者は、現金でコインをチャージし、加盟店での支払いをスマートフォン(キャッシュレス)で行う。コインにプレミアムを付与することで普及を促す。加盟店は大規模なシステム投資が不要で、他の決済(クレジットカード等)と比べ初期費用や決済手数料を低く抑えられるため、手軽に導入することができる。さらに、今後、決済や売上データの見える化によりビッグデータマーケティングを推進することや、それらデータの活用をさらに深化させたトランザクションレンディングの展開も可能になる。
「中小企業」は、人手不足・需要不足の中、フィンテック・ITへの苦手意識の払拭やリテラシーの向上を図りながら、フィンテックを「業務フロー・会計・決済プロセス全体のデータ連携」「経営の高度化」「生産性の向上(付加価値向上/業務効率化)」を実現するチャンスとして捉え、身の丈にあったIT(ビジネスアプリ)を積極的に活用することが経営の鍵となる。
経営資源が限られている中小企業の取り組みを後押しするため、最も身近な支援機関として「伴走型支援×IT活用支援・実行支援」に当所も取り組んでいかなければならない。


参考
  • 「中小企業の生産性向上に向けた FinTechの活用に関する意見」(日本商工会議所2017.6.15)