2024年に彦根城が世界遺産に登録されるためには、姫路城や国内の他の城だけでなく、既に登録されている1000以上の世界遺産と比べても、彦根城にしかない「顕著な普遍的価値」を明らかにすることが必要とされている。この普遍的価値の証明については、「彦根城とその周辺資産は江戸時代の武士による統治や社会を最もよく伝えており、唯一無二の存在である」ということを、連載「世界遺産への道」において鈴木達也氏(滋賀県文化財保護課・彦根城世界遺産登録推進室)が分かりやすく説明している。

連載「世界遺産への道」記事一覧

さらに、世界遺産に登録するためには「世界的な価値の証明」の他に、その価値を未来に伝えるための「保存管理体制の確立」と、世界遺産登録が持続可能なまちづくりであることを理解して「地域住民が主体的に取り組む」ことが必要とされている。
今後、2022年度に国内推薦決定が閣議了解されれば、推薦書がユネスコ世界遺産委員会へ提出されることとなる。国内推薦の翌年度にはユネスコの諮問機関であるイコモスによる現地審査があり、イコモスの勧告を受けて2024年に世界文化遺産リストへの登録が決定される。このイコモスによる現地審査では、市民の世界遺産に対する理解が十分か、世界遺産を保全する体制が整備されているかの評価・判定を受けることとなるため、世界遺産登録への機運を醸成し、官民を挙げて世界遺産都市としてのまちづくりビジョンの共有や体制を構築・強化しなければならない。
彦根商工会議所ではこれまで、世界遺産登録に向けての機運醸成のため、世界遺産検定の実施や、市内公民館での勉強会、彦根ヒストリア講座、滋賀大学・滋賀県立大学の寄付講座の開催、啓発映像の制作など、様々な世界遺産について学ぶ機会の提供やPR活動を展開してきた。
また彦根市では、令和2年2月に滋賀県と彦根城の世界遺産登録に向けての協定を締結し、これまで市が中心となり準備を進めてきた彦根城の世界遺産登録を県と協力して進めていくこととなった。三日月知事は、「彦根城の世界遺産登録は行政だけではなく、経済界や文化団体を巻き込んで、仕組みや仕掛けを作っていきたい」とコメントした。今後、世界遺産登録への地歩を固めるため、市民自らが当事者として歴史文化を守り育てる意識を共有し、県全体の目標としてさらなる取り組みを進めることが求められている。 これまでの彦根地域を中心とした取り組みから、さらに広域で組織的な取り組みを加速するため、湖東、湖北地域の商工会議所・商工会・観光協会・DMO等の23団体が、「世界遺産でつながるまちづくりコンソーシアム」を設立した。このコンソーシアムは、県内の経済・観光団体が相互に連携を深め、民間の活力を結集して彦根城の世界遺産登録の実現に向けて取り組むことを目的とし、機運醸成のための啓発・広報活動等を行う。

「世界遺産でつながるまちづくりコンソーシアム」設立

11月17日、コンソーシアムの設立会議が米原市役所コンベンションホールで開催され、湖東湖北5市4町の商工団体や観光団体など23団体の代表者、上野賢一郎衆議院議員、和田裕行彦根市長ら約60名が出席した。

米原市役所コンベンションホールで開催された設立会議

彦根商工会議所の小出会頭は、「市町を超えて一つの大きな力にすることがコンソーシアムの役割だと考えている。経済の活性化を見据えた、新しいガバナンスを形成することではじめて世界遺産登録は達成できる。少し先の未来を皆が幸せになれるよう、ジュニアからシニアまで地域の方が誇りをもてるように機運を盛り上げたい」と挨拶。
上野賢一郎衆議院議員は「来年7月ごろの国内推薦が決定した際は議員連盟を立ち上げ、このコンソーシアムと連携しながら啓発活動を進めたい。皆さまの活動の後押しができるよう私にできる最大限の努力をしていきたい」、和田裕行彦根市長は「登録のためには世界遺産としての価値証明、文化財の保存、地元の機運醸成が必要。機運醸成は彦根だけではできない。滞在型観光の実現やこの地域を世界に発信する仕組みが必要。皆さんと一緒に取り組み、この地域の経済の発展のために全力を尽くしたい」と意気込みを語った。
木川担当副会頭は「彦根城の世界遺産登録を地域経済活性化につなげるための手段として行動を起こすことが重要。湖東・湖北が一体となって課題解決に取り組み、地域間競争に勝てるまちづくりをしていきたい」と設立趣旨を説明し、コンソーシアムの規約承認と役員選任があり、当所の小出会頭が会長に就任、副会長に湖北ブロックから長浜市商工会の押谷小助会長とびわ湖の素DMOの日向寛会長、彦根愛犬ブロックから彦根観光協会の一圓泰成会長と稲枝商工会の久保田郁夫会長、湖東ブロックから八日市商工会議所の髙村潔会頭と近江八幡観光物産協会の森嶋篤雄会長が就任。事務局は当所が担当することが承認された。
続いて、彦根市の彦根城世界遺産登録推進室の小林室長より世界遺産登録の進捗状況を説明、湖東・湖北全体を発展させる契機となることに言及した。(一社)近江ツーリズムボードの上田会長からは、湖東湖北の観光エリアはそれぞれ「点」としてのポテンシャルは高い。連携することで「面」として魅力的な観光地としてアピールできる。世界遺産登録が一過性の効果で終わらないよう観光客の受け入れ体制の準備が急務であり、滞在型観光を推進することの重要性を説明した。最後に八日市商工会議所の髙村潔会頭の発声により全員で、がんばろうコールが行われ、当所彦根城世界遺産登録推進委員会の木村委員長の挨拶で締めくくられた。

世界遺産でつながるまちづくりコンソーシアム構成団体

  • 長浜商工会議所
  • 彦根商工会議所
  • 近江八幡商工会議所
  • 八日市商工会議所
  • 安土町商工会
  • 東近江市商工会
  • 愛荘町商工会
  • 稲枝商工会
  • 豊郷町商工会
  • 甲良町商工会
  • 多賀町商工会
  • 米原市商工会
  • 長浜市商工会
  • (一社)近江八幡観光物産協会
  • (一社)東近江市観光協会
  • (公社)彦根観光協会
  • (一社)愛荘町観光協会
  • 豊郷町観光協会
  • 甲良町観光協会
  • (一社)多賀観光協会
  • (公社)長浜観光協会
  • (一社)びわ湖の素DMO
  • (一社)近江ツーリズムボード

コンソーシアムの事業

  • 登録への機運醸成のための啓発活動
  • 彦根城世界遺産登録に関する広報活動
  • デジタルシステムを活用した情報発信
  • 世界遺産に関する学習機会の提供
  • その他、コンソーシアムの目的達成に必要な事業

世界遺産登録を目指すことは、かけがえのない歴史遺産である彦根城と城下の自然との共存を維持しながら新たな経済活動を展開し、地方創生に繋げていくことである。そのために、地域が一体となって滋賀県全体のブランド価値創造と国際的認知の向上に結び付けていくことが重要である。このことは、SDGsの目標である「11・住み続けられるまちづくり」や「4・質の高い教育をみんなに」、「8・働きがいも経済成長も」などの達成に向けてのアプローチでもある。
世界遺産登録の実現後は、登録資産となる建物や遺跡を保存・管理していくことが課題となる。そのためには規制と効果の両面を市民が共有したうえで、彦根城内の交通体系を整備し、武家屋敷や町屋を保存・活用することが重要である。その一環として、観光に訪れる人々に歴史文化を説明する多言語対応の案内のしくみを講じるといったソフト・インフラの整備はすでに進められている。さらに、琵琶湖の湖上交通の可能性を活かした県域での一体的な取り組みを進めることも観光振興・交通面の施策として考えられる。
今後、内外の世界遺産の先行事例に学び、様々な課題をクリアしていくことが必要となるだろう。県全域に拡大した県民会議の早期設立が期待されている。

近年、登録された国内の世界遺産の中には、登録後に観光客数の下降傾向が続いている地域もある。彦根城の世界遺産登録が実現すれば、彦根市だけではなく県内全域に観光需要の非常に大きな波及効果が見込まれる。この経済効果を持続させ、地域全体に行き渡らせるために、滋賀県全体が連携し、魅力的な観光地として受け入れ体制を整えていくことが喫緊の課題である。点在している県内の観光地が、多様なコンテンツや交通の利便性等を通じて、面として繋がることが求められている。今回のコンソーシアムの設立は、世界遺産にふさわしい持続可能な地域づくりに向けた滋賀県全体のムーブメントを起こすための大きな契機となるに違いない。

近年登録された世界遺産への訪問者数