1. 新型コロナウイルス感染症の影響

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)への対策として、緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置の適用がなく、移動規制もかからなかったゴールデンウィークは3年ぶり。オミクロン株の流行もあり、コロナの新規感染者数は収まっているとはいえない状況ですが、社会全体を覆う閉塞感を打開したいという期待も相まってか、各地の観光地が賑わいました。2024年に世界遺産登録を目指している彦根城でも多くの観光客が連休を楽しんでいる姿が見られました。
とはいえ、コロナの影響により中小企業・小規模事業者を取り巻く経営環境は一変しました。売上が急減し大きなダメージを受けた業種もあれば、巣ごもり需要に関連する業種の中には業績を伸ばした企業もあります。また、建設・土木業は公共投資などを背景にコロナ前の状況に戻している企業もあるなど様相は様々です。いずれにしても、多くの企業がコロナの影響による対応を迫られた2年半でした。
先日、ある会合に出席したところ、コロナ禍で奮闘している経営者の方がコロナの出口戦略をテーマに、冒頭で次のような話をされました。「『コロナが落ち着けば』という声を聞くことがあるが、もうウィズコロナでいいじゃないか。我々経営者は、コロナを言い訳にしてアフターコロナを待つのではなくウィズコロナの経営に変えていかなくてはならない。自社の原点を見直して、必要な改革にチャレンジしていく必要があるのではないか」。
会場に集まっていた多くの経営者の方々に向けられたその言葉に大変感銘を受けました。日本政策金融公庫(以下、日本公庫)では、厳しい環境の中にあっても果敢に挑戦する企業や事業者の方への支援に取り組んでいますが、多くの経営者の方とお会いする中で私も同様のことを感じていたからです。

2. 日本公庫が取り組んでいること

(1)事業に取り組む方々への金融支援

日本公庫は、中小企業や小規模事業者、これから創業される方などを支援している政策金融機関です。
コロナにより企業を取り巻く環境が激変する中、日本公庫は事業者の方の資金繰り支援に最優先で取り組んできました。図1は、令和2年1月29日に相談窓口を設置してから令和4年3月末までのコロナ関連融資の融資決定件数を示したものです。滋賀県内でも約9,100件の融資を決定させていただいています。

図1:新型コロナウイルス感染症関連の融資決定件数の推移(令和2年1月〜令和4年3月末日)【日本公庫全体】

また、日本公庫ではこれから創業される方も支援しています。事業の立ち上げに必要な融資はもちろんですが、その前段階であるビジネスプランの作成支援や創業に役立つ情報提供など多方面からのサポートを行っています。実は、コロナ禍という逆風の中にあっても、独創的な発想や工夫により起業しようとする方が多くいることは驚きでした。近年では、ゼロからスタートする創業だけでなく、後継者がいないことを理由に事業を譲り渡したいとお考えの方から事業を受け継いでスタートする「継ぐスタ」支援にも積極的に取り組んでいます。(図2参照)

図2 日本公庫の「継ぐスタ」支援

(2)金融以外の支援

日本公庫では、資金繰り支援とともに、お客さまが売上を回復し収益力をいかに取り戻していくかという事業継続への支援にも取り組んでいます。  お客さまの経営課題やコロナ禍を乗り切るための具体的な取組みなどを伺いながら、お客さまと一緒に事業の強みや弱みを共有し、課題解決の一助となるようアドバイスや情報提供などを行っています。また、新たな販路先や仕入先などを探している方には日本公庫のマッチングサービスなどもご提案させていただいています。より専門的なご相談には、関係機関や外部専門家に繋ぐ橋渡しもしています。お客さまが抱える課題は多岐にわたっており、お客さまのニーズを確認しながら課題解決のサポートを行っていきたいと考えています。

3. これからの経営に必要とされるもの

事業継続支援を行う中で、コロナ時代にあった経営に変えていくため、自社の強みや経営資源を活かして新たなサービスに挑戦したり、創意工夫を重ねて付加価値を高めたり、収益力改善に取り組む経営者の方のお話を伺うことも多くあります。

(1)デジタル化への対応

コロナによる影響はマイナス面ばかりではなくプラス面もありました。その一つが急速に進んだデジタル化です。近隣の取引先に販売していた商品をSNSに載せれば、県外どころか一気に海外と繋がりを持つこともできます。写真や動画での情報発信も身近なものとなり、若い世代だけでなく、シニア世代も積極的にInstagramやYouTubeなどを利用して情報を収集しています。デジタルを活用した情報発信力の強化は今後の経営に欠かせないものだと思います。
実は、日本公庫もコロナを契機にデジタル化を進めています。これまで、融資のお申込みは紙の書類をいただいていましたが、今はインターネットで365日24時間いつでもお手続きができるようになりました。さらに、お取引状況や残高証明書など各種証明書もオンラインで発行できるサービス「日本公庫ダイレクト」も開始しました。デジタル化への対応は、利便性の向上や効率的な経営にも大きな役割を果たします。

(2)小さなイノベーションの積み重ね

環境の変化とともに消費者のニーズや行動は日々変化していきます。例えば、よく見られるようになった飲食店のテイクアウト事業も、取扱商品は変わりませんが、売り方を変えて顧客ニーズにこたえるというビジネスモデルの変革のひとつと言えます。また、宿泊事業でも個室での食事や入浴ができるようにしたり、アウトドア人気を背景にグランピングといった施設が出てきたりしたこともサービスの質的転換といえるでしょう。
小規模事業者の特性のひとつは柔軟性です。大企業と比べれば、意思決定のスピードも速くまた、意思決定を担う経営者と顧客との距離感が近いことも利点です。守りの姿勢でいれば、強みであったはずの技術や商品力も時の流れとともに陳腐化し、弱みになってしまう恐れもあります。経営資源が限られている小規模事業者であっても小さなイノベーションは可能です。消費者が望んでいるサービスやモノを創り出すために変革を積み重ねていくことがこれからの事業継続には大切ではないでしょうか。ただし、経営資源が限られているからこそ、屋台骨を揺るがすことがないよう新たな挑戦には十分な準備と綿密な計画が必要です。

(3)利用できる地域支援は最大限活用を

コロナ禍で頑張る事業者の方を応援するため、各種助成金をはじめ、無料の経営コンサルティングやIT専門家の派遣など多くの支援策が展開されています。利用できる地域支援は最大限に活用したいところですが、情報が溢れていて何を活用すればいいかわからないという方は、是非、商工会議所に相談してみてください。商工会議所では経営課題に即した最新の情報を教えてくれますし、その道に詳しい専門家も紹介してくれます。利用しない手はありません。

寄稿:日本政策金融公庫彦根支店 支店長兼国民生活事業統轄 芝田彩子氏