高度成長を続けるインドの潜在力

2022年、インド共和国(以下インド)と日本は国交樹立70周年を迎えた。日印両国は不確実性を増す国際社会において、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンのもと、 共通の課題に対処していくことを確認している。
インドは国土面積329万平方キロ、日本の約9倍の国土に約14億人の人口を抱え、2024年には中国を超えて世界最大の人口大国になると予測されている。
新型コロナの影響で世界経済が様々な課題に直面しているにもかかわらず、インド経済は、2021年度第三四半期の実質GDP成長率は対前年比で5.4%と5期連続でプラス成長を記録し、強力な底力を示した。さらに若年人口比率が高く、貧富の差はいまだに激しいが知的階級の学力や技術力は非常に高く、世界屈指のIT大国である。
2021年のユニコーン企業数(企業価値が10億ドル以上の未上場新興企業)は32社と日本の6倍もあり成長が著しい。
中国と比較してまだまだ遠い国とのイメージがあるが、日本企業のインド進出は増加している。その理由としては、高度成長の続く市場という魅力に加え、アフリカや中東に向けての海外戦略拠点としての優位性も挙げられる。
デリーを中心とする首都近郊・モディ首相の出身地で日本企業専用の工業団地を設けるなど、製造業の誘致に意欲的な西部のグジャラート州・南部のチュンナイ・西部のムンバイ・ハイデラバード・コルタカなど多くの地域で進出企業が増えている。また、ベンガルールをはじめとする都市は米国のシリコンバレーや中国の深圳(しんせん)と並ぶスタートアップ企業の輩出地として注目されている。インド市場の大きな潜在力を考えると、日本企業が今後進出する余地は十分にあり、様々なビジネスチャンスがあると考えられる。

高度外国人材ポイント制

わが国の成長戦略において、優秀な外国人材を積極的に受け入れることで、生産性を向上させることの重要性が指摘されている。中小企業の人手不足が深刻化するなか、競争力を高めたいと考えるのであれば、高度外国人材の導入を検討してはどうだろうか。外国人材の受け入れ拡大は、単なる労働力の補充ではなく、日本人とは異なるバックグラウンドや発想力によるイノベーションにつながることも期待できる。
高度な専門技能を有し、即戦力となる外国人材の就労に係る出入国優遇制度として、「高度外国人材ポイント制」が導入されている。高度外国人材の候補者が日本で専門性が求められる業務を行えるかどうかを入国管理局が審査し、ポイント化する制度である。審査項目は「学歴」「職歴」「日本語能力」「研究実績」「経営経験の有無」など多岐に渡る。受け入れ企業にとって、ITや設計、研究・開発、オフィスワークなど専門性が求められる業務を任せることが可能だ。
高度外国人材の在留期間は5年。無期限在留資格や永住許可も取得しやすく、長いスパンで業務を担当できることから企業の基幹を担う人材にもなりえる。高度外国人材の審査には日本語能力に関する項目もあり、社内外での円滑なコミュニケーションができる人材も多い。また、「日本で働きたい」と考えている外国人の側からは、より長く日本で働くことが可能で技術や知識を学びながら、収入を得ることができるというメリットがある。

ハイデラバード市街のシンボル「チャールミナール」。16世紀後半に疫病の収束を祝って建てられた建築物。

ジェトロ滋賀 久木所長のアドバイス

  インドやパキスタンでの勤務経験のあるジェトロ滋賀貿易情報センターの久木治所長に、インドでのビジネスや高度人材の活用等についてお話を伺った。

ジェトロ滋賀貿易情報センター 久木治所長

プロフィール

インドへの留学を終えて帰国した当時、日本ではインドは全く注目されていない国で、就職には苦労しました。転機は2004年に訪れました。インドで自動車の販売台数が100万台を超え、にわかにインド経済が注目され、大規模な使節団が派遣されたのです。私も多くのビジネスマンとともに使節団に随行し、ジェトロへ入構するきっかけとなりました。その後10年以上、インドとパキスタンでジェトロの任務にあたり、2020年2月に帰国して滋賀事務所に着任し、現在に至ります。

インド市場の特異性

私の経験から申しますと、インドには28の独立州があり、異なる言語と文化を持つ人々が広大な国土に暮らしています。一つの国というよりEUと同様に集合体という捉え方の方がよいと思います。宗教もヒンドゥー教が大半ですが、他にもイスラム教や仏教など多岐に渡ります。特に食べ物の習慣にはとても厳しく、宗教によって食べられないものが決まっているため、現地の人々とのお付き合いには配慮が必要です。
また、インドでは、「高性能だが値段が高い商品」よりも「必要な機能のみで安い商品」の方がニーズがあり人気を集める傾向にあります。このような価値観の違いも日本企業にとってハードルになり、様々な要因でインド市場への進出は難しい面が多いです。

インド市場へ進出

人口が減少する日本国内での成長が難しい企業にとって、若年層が多く人口に占める購買力のある中間層の割合が増加するインド市場は魅力的ですが、実際の事業展開はインド独特の商慣習や国民性の違いから黒字になるまで5年から10年の単位で時間がかかることが多いとされています。黒字化が簡単には見通せないため、現地法人を立ち上げて進出するのは体力のある企業でないとなかなか難しいでしょう。そのため、インド市場でビジネスを成功させるための準備として、まずはインドの高度人材を自社の経営に取り込んでつながりを持つことは一つの方法だと思います。

ジェトロの支援

ジェトロでは、企業と高度外国人材間の採用・就職活動をサポートするため、オンラインの合同企業説明会を開催するなど、高度人材を活用するための支援を行っています。中小企業が自社の魅力を直接高度外国人材に伝えられる場ですので、ぜひご参加をご検討ください。
さらに、外国人材活用の専門相談員による伴走支援として、求人、在留資格、離職対策などについて相談したり、ニーズに応じた情報やプログラムを提供することができます。
このように、ジェトロでは海外ビジネスの拡大をめざす中小企業に対して、高度外国人材の採用・育成・定着をパッケージで支援します。
最後に、日本は仏教や芸術をはじめ、カレー、カロムからドラゴンボールまで、インドの多彩な文化から大きな影響を受けてきました。インドには親日家も多いですし、日本の皆さんにもっと関心を持っていただきたいです。
一方、インドの隣国パキスタンはインドから分離独立した国ですが、文化的には中東に近く、今後2030年から2050年にかけて人口が増加し、GDPも大きく成長することが予測されています。インド、パキスタンを南西アジアという大きな枠組みで注目していただきたいと思います。

ベンガルールにある World Trade Center

インド高度人材を即戦力に

新型コロナ禍で、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が世界で急速に推進されるなかで、2030年に先端IT人材約55万人が不足するといわれている。そして、これを支える存在として、インドの高度人材採用への注目が高まっている。DXの実現には、高度かつ専門的なITスキルを有する人材が必要だからだ。そのため、多くの企業が他社に後れを取らないよう、優秀なインドのIT人材獲得に高い関心を寄せている。
インドには理系・工学系を専門とする学生が多く、グローバル市場で多くのインド人が活躍している。日本ではインドからの高度人材の採用はこれまであまり積極的ではなかったが、高度な工学知識を持つインドの人材に目を向けるタイミングが来ているのではないだろうか。そしてそれは、インド市場進出への足がかりともなるはずである。

世界で活躍するインド高度人材を日本企業競争力強化の即戦力に