彦根城と私 

彦根城の世界文化遺産登録は、彦根を愛する私たちにとって悲願である。
私が初めて彦根城を訪れたのは、城が大好きであった小学生の頃。ひとり旅は難しいので、機会があれば親に頼んで全国各地の名城をめぐった。ある夏、安土城跡に登ったあと、彦根城を見学した。大堀切を設けて、廊下橋で鐘の丸と本丸を連絡する防御に徹した曲輪の配置の妙に、子供心に興奮したことを良く覚えている。
まちづくりに関する塾の講師として彦根に招いていただいのは、30年ほど前になるだろうか。その時には、彦根とのご縁が、これほど長く続くとは思いもよらなかった。滋賀県立大学の開学にあたっては非常勤講師をつとめさせていただいた。国宝・彦根城築城400年祭、国宝・彦根城築城410年祭に関与させていただいたのも良い思い出である。近年は、駅と城を結ぶ「駅前お城通り」のエリアマネジメントに向けた議論にも参加させていただいている。

彦根城をリビング・ヘリテージに

世界文化遺産の登録を目指している2025年は、彦根にとって重要な年になるはずだ。
この年は、滋賀県下で国民スポーツ大会が開催される。また春から半年の間、私も誘致に尽力させていただいた大阪・関西万博の開催が予定されている。国際博覧会は、国際的なビジネスや国際交流、国際観光に力を入れる好機である。彦根も、市民が誇りとする歴史と文化に加えて、滋賀県を代表する商工都市という側面、さらには学生が多く学ぶ学術都市という個性を、内外に強く訴求する重要な機会であることを意識することが必要である。
そこにあって大切な視点は、世界文化遺産に登録されるであろう彦根城をしっかりと護りつつ、それを単なる文化財とはせず、「生きた遺産」、すなわち「リビング・ヘリテージ」として活用することではないか。
パリやロンドン、京都や金沢などの例を出すまでもない。活力のある歴史都市は、絶えず新たな文化を産み出すことで、しばしばダイナミックに変容する。例えば、スコットランドのエディンバラ城周辺では、毎年夏、各国の軍楽隊のショーやパフォーマンス・アートのフェスティバルなど、歴史的な市街地を舞台に、さまざまな文化的催事が同時開催される。戦後復興期の都市戦略として、「フェスティバル都市」を目指したのだという。
彦根も例外ではない。文化財の真正な価値を護ることは当然として、培われた伝統を礎として絶えず新しい文化創造や文化産業の振興を重ねることで、歴史都市の魅力はいっそうの向上を見る。

彦根城 大堀切

世界文化遺産登録から始まる

世界文化遺産登録に向けて、当面は、市民の機運を盛り上げることが不可欠である。
しかし登録がゴールではない。世界文化遺産登録は、あくまでも通過点である。私たちの活動は、世界文化遺産に登録された瞬間から新しい段階に入る。彦根城を世界文化遺産に登録する真の目的は、市民のシビックプライドを高め、結果として彦根をより良い都市に発展させることにあるのではないか。
私たちは先人から継承した歴史的な資産とともに、今日も生き、そして明日も生きていく。世界文化遺産の登録から、新たな彦根が始まるという意識を共有したいと思う。