世界遺産にするために守るのか

彦根城の世界遺産登録作業を進めるなかで、「彦根城を世界遺産に登録するために〇〇しなければいけない」とか、「××してはいけない」というご意見をうかがうことがあります。確かに、彦根城の世界遺産登録を実現するために必要な作業があります。しかし、彦根城の世界遺産登録は、登録することがゴールではありません。世界遺産登録を契機として、彦根のまちをよくして、「ここで暮らしたい、住み続けたい」という気持ちを多くの方々に感じていただくことが大切です。そうであるならば、まちの宝を世界遺産にするために守り、活かすのではなく、このまちの宝を守り、活かしながら、このまちで暮らし続けていけるようにするために、世界遺産の取り組みを進めると考えることが必要です。そのことを強く考えさせられた事例があります。「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群の世界遺産登録です。

宗像大社辺津宮

宗像地方の信仰を守る

「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群は、「海の正倉院」と呼ばれる沖ノ島(宗像大社沖ノ島)をはじめ、宗像大社中津宮、沖津宮遥拝所、宗像大社辺津宮、新原・奴山古墳群など8つの資産で構成されています。これらの資産を世界文化遺産に登録するにあたって、諮問機関の国際イコモスは、考古学的観点から遺跡としての価値が高い沖ノ島と周辺の3つの岩礁だけの登録を勧告しました。沖ノ島だけなら登録は確実でした。ところが、地元では、沖ノ島は宗像大社の信仰において他の資産と密接な関係があり、沖ノ島だけを世界遺産にすることは認められないとして、8つの資産の登録を目指す方針を堅持し、日本の考えを認めてもらう外交努力が続けられました。その結果、2017年にポーランドのクラクフで開催された世界遺産委員会で、反対意見はあったものの、「沖ノ島(沖津宮)と中津宮、辺津宮などは全体的に融合しており不可欠だ」という意見が大勢を占め、宗像地方で続いてきた宗像大社の信仰が歴史的資産の保護に不可欠なはたらきをしていることが認められ、8つの資産が世界文化遺産に登録されました。

この地域の未来をひらくために

地元の暮らしを続けていくうえで、変えられないこと、守り続けなければいけないことがあります。宗像地方では、沖津宮(沖ノ島)、中津宮、辺津宮などを一体とする宗像大社の信仰を守り続けることが必要で、そのことを粘り強い説明によって世界に認めてもらいました。

彦根城 わたしのおすすめスポット

私たちの地域ではどうでしょうか。彦根城を活かしたまちづくりを進めていくにあたって、守り続けたいことは何でしょうか。彦根の城下町としての伝統を伝える彦根城跡を守ること。地元住民に安心感を与えるお城の見えるまちの景観を守ること。江戸時代から続く城下町の伝統文化を守ること。彦根城が平和を維持するなかで育まれてきた彦根藩領、すなわち、湖東・湖北の個性豊かな伝統文化を守ること。あるいは、それ以外に守り、活かすべきものがあるかもしれません。私たちの暮らすこの地域を未来に伝えるために、何を守り伝え、それを世界に認めてもらうのか。この地域で暮らすみなさんに、ぜひ考えていただきたいと思います。彦根城の世界遺産登録を通じて、この地域の未来をひらきましょう。