経営者年齢の高齢化が進む中、多くの企業で経営者の交代時期が迫っており、事業承継は引き続き重要な政策的課題といえます。事業承継を行うことで、企業の継続性と安全性の確保や、新しい事業への挑戦、また地域の雇用創出や地域経済の活性化にも繋がり、事業承継は企業と地域経済の健全な発展を促進する重要な要素となっています。今回は最新の2023年版「中小企業白書」の解説やデータも引用し、事業承継やM&Aについて説明します。

二極化する事業承継

図1は、年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布です。これを見ると、2000年に経営者年齢のピーク(最も多い層)が「50~54 歳」であったのに対して、2015年には経営者年齢のピークは「65~69 歳」となっており、経営者年齢の高齢化が進んできたことが分かります。一方で、2020年を見ると、経営者年齢の多い層が「60~64 歳」、「65~69 歳」、「70~74歳」に分散しており、2022 年も同様の傾向を示しています。これまでピークを形成していた団塊世代の経営者が事業承継や廃業などにより経営者を引退していることが示唆されます。一方で、75 歳以上の経営者の割合は 2022年も高まっていることから、経営者年齢の上昇に伴い事業承継を実施した企業と実施していない企業に二極化している様子が見て取れます。

図2は、事業承継の意向がある企業を対象として、経営者の年代別に後継者の選定状況について見たものです。これを見ると、経営者年齢が高くなるにつれて、後継者が「決まっている(後継者の了承を得ている)」と回答した企業の割合が増加しており、70 歳代以上では、6割を超えています。
一方で、70歳代以上の企業においても、「候補者はいるが、本人の了承を得ていない(候補者が複数の場合も含む)」、「候補者はいない、又は未定である」と回答した企業が合わせて3割を超えています。高齢の経営者でも後継者の選定が進んでいない企業が一定数存在することが分かります。
事業承継を検討している中小企業経営者においては、事業承継を行うか早期に判断し、後継者候補に引継ぐ意思を明確に伝えた上で、事業承継に向けた準備を進めていくことが重要です。後継者を決定した後、本格的に事業承継に向けた準備に取り掛かる際は、事業承継税制といった支援施策や、事業承継・引継ぎ支援センターなどの支援機関を活用することも有効と考えられます。

事業承継の類型と傾向

中小企業庁が作成した「事業承継ガイドライン」(R4年改訂)では、事業承継を親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3つの類型に区分しています。
図3は、近年事業承継をした経営者の就任経緯について確認したものです。これを見ると、親族内承継は他の類型と比べて、一貫して最も高い割合となっている一方で、近年は減少傾向にあり、足下の2022年では従業員承継と同水準の34.0%となっています。また、社外への引継ぎの割合は2020年以降増加傾向にあり、事業承継の方法がこれまで主体であった親族への承継から、親族以外の承継へシフトしてきていることが見て取れます。

このように親族内承継が低下減少傾向にあるのは、子どもがいる場合であっても、事業の将来性や経営の安定性等に対する不安の高まりや、家業にとらわれない職業の選択、リスクの少ない安定した生活の追求等、子ども側の多様な価値観の影響も少なからず関係しているものと思われます。一方、親族内承継の減少を補うように、従業員承継の割合は近年、増加しています。これまで従業員承継における大きな課題であった資金力問題については、種類株式や持株会社、従業員持株会を活用するスキームの浸透や、親族外の後継者も事業承継税制の対象に加えられたこと等も相まって、より実施しやすい環境が整いつつあります。さらにM&Aを活用して事業承継を行う事例は、法人だけでなく、個人事業主においても近年増加傾向にあります。後継者難のほか、中小企業のM&Aを専門に扱う民間のM&A支援機関が増えてきたことや、国の事業承継・引継ぎ支援センターが全国に設置されたことからM&Aの認知が高まったことも一因となっているものと考えられます。

早期取組の重要性

円滑な事業承継を実現するためには、早期に事業承継の計画を立て、後継者の確保を含む準備に着手することが不可欠です。事業承継ガイドラインでは、事業承継の早期取組について以下のように述べています。
「後継者を決めてから事業承継が完了するまでの後継者への移行期間(後継者の育成期間を含む)は、3年以上を要する割合が半数を上回り、10年以上を要する割合も少なくない。平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえると、概ね60歳頃には事業承継に向けた準備に着手することが望ましい。既に60歳を超えている場合には速やかに身近な支援機関に相談すべきであり、特に70歳を超えている場合にはすぐにでも事業承継に向けた準備に着手すべきである。事業承継に向けた準備を先延ばしにすることで、例えば、後継者・譲受側の選定に時間をかけるなど、時間的余裕があれば採り得た選択肢が徐々に失われていくことも踏まえ、早めに事業承継に向けた準備を行う必要がある。」

支援事例

滋賀県事業承継・引継ぎ支援センターが作成されている事業承継・引継ぎ事例を、許可を頂き抜粋して掲載いたします。YouTube動画でも詳しい内容を確認いただけますので、ぜひご覧ください。


父親 ⇒ 姉妹への親族内承継

事業者名:きょうかどう[和菓子・洋菓子・パンの製造販売]
所在地:犬上郡豊郷町

西山つかささん(妹)、市川芳久さん、上田渚さん(姉)

概要:豊郷町で昭和元年に和菓子専門店として創業。3代目の市川芳久さんが若い頃に京都の洋菓子店で修業を重ねた経験を活かし、和菓子の他、ケーキやパンも製造。現在、姉妹で4代目として将来的にお店を引き継ぐための準備を進めています。
支援の経緯:最初は滋賀中央信用金庫に経営相談をしたところ、事業承継の相談先として、滋賀県事業承継・引継ぎ支援センター(以下、センター)を紹介いただきました。センターでは、専門家の方に事業承継計画の策定をはじめ、事業承継にむけて経理面や手続き面、役割分担など、10年後を展望して無理なく承継するにはどうすればよいかを一緒に考えてもらいました。(現経営者)
今後の想い:「どんなときもお客様の希望をかなえたい」という父の想いも受け継いで、姉妹二人で力を合わせて、これから10年かけて“無理なく楽しい承継”をしていきたいと思います。父が大切にしてきた和菓子の技術を全て引き継ぐことは難しいですが、豊郷では一軒しかない和菓子専門店なので、ケーキに加えて商品を限定して和菓子の技術を身に着けていくことも考えていきたいと思っています。(後継者)


会長・社長 ⇒ 取締役への従業員承継

事業者名:フローリストじょうたつ[生花の小売・委託販売・卸売]
所在地:守山市

丈達宏さん(会長)、二三子さん(社長)、北村優知さん

概要:昭和47年に現社長の丈達二三子さんが生花店として創業。夫の宏さんも定年を機に会長として経営に加わり、スーパーやホームセンターに向けて、切り花の委託販売・卸売業をスタ―トしました。今では滋賀県を中心に近畿エリアの約40店舗と取引を行っており、創業51周年を迎えた現在、現取締役の北村優知さんへの事業承継に向けて準備を進めています。
支援の経緯:創業50周年を迎えるにあたって、会社の今後をどうするかを真剣に考え始めました。さまざまな意見を聞くため滋賀中央信用金庫に相談したところセンターを紹介していただき、サラリーマンをしている息子とも相談し合って、センターで本格的に相談することにしました。税理士さんや金融機関、センターの方々と一緒に、販路や経営状況、設備などを見直し、事業計画に合わせて事業承継計画書を作成し、承継を進めたことが良かったと思います。(現経営者)
今後の想い:経営者は代わっても、地域に愛され、お客様に信頼されてきた“じょうたつ”の商いの基本や心構えは受け継いでいってほしいと思っています。(現経営者) / きっちりした形で事業承継して、会社を存続できるということが決まって安堵しています。計画書の策定は、私の考えも聞いてもらえたおかげで、スムーズに進めることができたと思います。(後継者)


中小企業相談所からのご支援

彦根商工会議所では、地域の支援機関として事業承継や引継ぎをご検討されている会員企業様に対し、滋賀県事業承継・引継ぎ支援センターをはじめ各金融機関とも連携しながら支援させていただきます。事業承継をお考えの場合は、まずはお気軽にご相談ください。