ChatGPTはアメリカの非営利団体OpenAI(オープンエーアイ)が開発した「対話型AI」である。使い方は簡単で、PCやスマホのブラウザでChatGPTのウェブサイトを開きアカウント作成を済ませる。あとは質問をテキストで打ち込むと、AIがその回答をテキストで記述してくれる。さらにチャットのようにその回答に続けて質問すると、それまでの会話も踏まえてすぐに返事が返って来る。単純な質問だけでなく、プログラムコードのバグを発見させたり文章を推敲させたり、英語の論文の要点を箇条書でまとめたりもできる。
対話型人工知能「ChatGPT」(AI)が世界中で話題になっている。急速に進化し普及するAIへの対応がG7広島サミットでも主要議題の一つに取り上げられた。ChatGPTは、日本語にも対応し、機能の大部分を無料で利用することができ、既に活用している人も多い。
今回はイノベーション創発に資するAI技術の創出と統合化の研究で著名な滋賀大学データサイエンス学部の飯山将晃教授からChatGPTの活用法や今後の予測などについて教えていただいた。
飯山将晃教授 プロフィール
京都大学工学部卒。京都大学学術情報メディアセンター助手、同経済学部講師、准教授を経て2021年より滋賀大学データサイエンス学部教授。人工知能技術とその産業応用の研究に従事。AIベンチャーの取締役を兼務。
飯山教授から見たChatGPT
GPTは「Generative Pre-trained Transformer」(大規模自然言語モデル)というAIを使ったサービスを指します。日本語や英語、フランス語など、人が生まれながらに使う「自然言語」がどんな構造をしているのかをコンピュータに学ばせたものだと思っていただければ良いと思います。インターネット上に存在するありとあらゆる文章を学習させ、ひたすら単語の穴埋め問題のようなものを解かせています。例えば「こんにちは、今日はいい」という文に対して「いい」の次にきそうな単語(「天気」など)を予測させます。ひたすら単語の穴埋め問題を訓練したコンピュータがChatGPTの正体です。
現在の無料版GPT3.5を経て有料版GPT4では劇的に性能が良くなりました。特徴として2021年9月以降のデータがないこと、人名や場所などの固有名詞は弱いことが挙げられます。初代のGPTの時点でも、様々なジャンルの電子書籍4000冊ほどの単語の穴埋め問題を解かせたようですが、 GPT3では数十兆文字を超え、ネット上にある電子化された文字および文章は、ほぼ全て収集していると言われています。
ChatGPTの活用方法について
活用の前提としてChatGPTは、自然な文章を作れるものの、中身の真正性は全く保証してないという点を考慮しておく必要があります。ユーザーがまったく知らない情報について調べるには不向きです。
具体的な活用例として、メールの送付文や簡単な文章の作成、アイデアの壁打ち(ブレーンストーミング)があります。コツとしては、指示の出し方(質問の仕方)を工夫することです。例えば、メールの送付文の場合、伝えたいことを箇条書きで用意し、「この箇条書きの内容で文章を作成してください」という指示とともに「私は大学の教授で、今こういった文章を書こうと思っている」など自分の状況を設定することで、精度の高い文章を書いてくれます。最終的には人間が直さなければならない部分も多いですが、単純な要約作業やリストアップが一瞬ででき、仕事の効率化を図れ、かなりの時短が可能になると思います。
また、新規事業のアイデアを考えるときに壁打ちの相手として、内容をChatGPTに入力し、「考えないといけないことをリストアップして」と指示すると、即答えてくれます。その回答に基づいてユーザーが考えを整理し、効果的なアイデアの切り口を与えながら対話を繰り返すと、無限にアイデアを提案してくれます。チャットの履歴が残るので非常に便利です。
また今後、ChatGPTを既存の仕組みと組み合わせたサービス提供をする事業者も増えていくでしょう。
ChatGPT利用の懸念
ChatGPTはその性能の高さと自由度から悪用される危険があることに加え、対話の中で誤った情報が提示されることも少なくないため、世界中で「賢い使い方」が模索されています。AI倫理の課題は、連日メディアでも話題となっています。現在ChatGPTは差別的なものや、性的に問題があるものはロックされていますが、今後しっかりとルールが決められていくはずです。また、個人情報や機密情報の流失を心配される方も多いと思います。ChatGPTにはこういった情報を取得していると明記されていますが、今後データを取得しないようなオプションが有料版で出てくると思います。
研究者として意外だったことは、初代GPTに実装されていた「質問の答えを手本とすることで賢くする」という機能が途中で外されたことです。もしかすると、実は人間がAIに答えを教え込む効果があまりないかもしれません。
次に、AIが仕事を奪うのではないかという懸念があります。結論としては、そうはならないと考えています。AIを積極的に活用することで、人手不足の解消や仕事を効率化し時短することができれば、新しいことにチャレンジできます。ただ、ネガティブな話をすると、単純作業などの誰でもできるような仕事はこれからは厳しいかなという気はします。その代わりにどういう仕事ができるかを今後考えていかなければなりません。
ChatGPTが変える社会
この1年で急激にAI分野の成長が進み、次の1年に何が起こるかは予想が立たないのが本音です。今ある情報だけで述べると、諸外国や国内でもChatGPTを禁止する自治体がいくつかありますが、個人的には今まで我々が歩んできた道と同じだと思っています。約30年前にワープロが登場したことで、格段に仕事の効率はあがりました。今、ワープロ使用禁止なんて誰も言いません。ChatGPTも同じように受け入れられていくのではないかと私は考えています。
私はChatGPTを積極的に使うべきだと思っています。ただ、ワープロが出てきたからと言って、小学生が漢字を勉強する必要がないかと言われると、決してそうではありません。漢字変換したものが正しいか判断することができなければデタラメな文章になってしまいます。道具を使うための「知識」は前提として必要です。上手に検索キーワードを使える人はデータを情報として仕入れることができるように、ChatGPTに上手く指示を与えて活用する。それができる人とできない人の差が大きくなるのではないかと思います。
教育者の立場からすると非常に悩ましいところです。試しにレポート課題をChatGPTに入れると、秀(90点)や優(80点)は取れないものの良(70点)くらいの点数は取れるかな? という文章を書いてきます。そこにどうやって、ストップをかけていくのかが難しく、どこの教育機関でも悩まれているのではないでしょうか。
あくまでデジタルにおいての話ですが、ChatGPTによって業務効率が向上し、単純作業はAIが行う。そうなってくると社会全体のレベルが上がると同時に平均化、平常化してしまいます。そんな中で、事業所にも働く人にも求められるものが変わっていくのではないかと予測しています。全てにおいて平均的に70点を取れるより、どの分野でもいいので90点取れることが、これからの時代必要となっていくでしょう。
一般的な文章を作る、見積もりを作るなどの作業はAIに任せ、得意分野に集中することで、新たな成長が可能になります。また先ほど、単純作業などの誰でもできるような仕事はこれからは厳しいと言いましたが、誰にでもできることを誰にでもできないレベルで仕上げることは、人にしかできません。90点取れる人がChatGPTを使うことで素晴らしいものが生まれる可能性があります。
デジタルは世界中どこにいても使えます。東京一極集中ではあるものの、ChatGPTを使って今ある得意な分野を伸ばす際に活用する。そうやって様々な人に浸透していけば、研究者にはない新たな発想で、新たなChatGPTの使い方が生まれる未来が期待できます。
彦根商工会議所の取組
ChatGPTの登場を筆頭に、5月10日にGoogleが対話型AI「Bard(バード)」の日本語での対応を始め、さらにBardを支える新たな言語モデル「PaLM2(パームツー)」も公表した。既存のGメールや文書作成ツールGoogleドキュメントなどのサービスとも連携させ、検索エンジンにも生成AIを搭載する予定だ。
さらにMicrosoftでは既存ソフトに対話型AI「Copilot(コパイロット)」の導入を発表するだけでなく、同社の検索システム「Bing(ビング)」のユーザーはGPT4モデルに完全アクセスできるようになった。そして遂に、ソフトバンクが和製GPTの開発に動き出している。
人間の脳と同レベルのAIが誕生するシンギュラリティ(技術的特異点)は2045年だと予想されている。AIの進化によるDXの流れにいち早く乗ることで新たなビジネスチャンスをつかむことができる。
近々、「ChatGPTの活用講座」を彦根商工会議所と「INSPILAKE*」主催で計画している。ぜひご活用をいただきたい。AIの活用による得意を伸ばす変革の始まりでもある。
* INSPILAKE: 彦根商工会議所と滋賀大学、彦根市の産官学が連携し、ITを中心とした企業集積と歴史遺産を活かした都市を目指す事業体。