時代背景 エネルギー需要逼迫の影響

カーボンニュートラル(温室効果ガスの吸収量と排出量を均衡させること)が今後の地球温暖化対策、環境問題を語る上で世界的に重要なキーワードとなって久しい。我が国においても2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すといった目標が国レベルで発表された。このように脱炭素化に向けた取り組みが宣言される中、2022年2月、ロシアによるウクライナ侵略の影響により世界のエネルギー情勢は一変した。世界各国でエネルギー分野のインフレーションが顕著となり、我が国においても電力需給逼迫やエネルギー価格の高騰が生じ、国民生活、企業活動に多大な影響を与えた。これらは同時に我が国のエネルギー供給体制の脆弱さを再認識させるきっかけとなった。

GX概念の浸透 事業所レベルでGXが求められる時代へ

このような社会情勢を鑑み、化石エネルギー中心の産業構造・社会構造を、環境に配慮したエネルギー(クリーンエネルギー)へ転換する「グリーントランスフォーメーション」(Green Transformation:以下GX)の概念が注目されている。2022年7月には、岸田文雄内閣総理大臣を議長とし、産業界、経済界、各大学の研究者等を構成員とする「GX実行会議」の第1回が開催され、現時点で6回の開催が完了している。
会議では主に、

  1. エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組
  2. 「成長志向型カーボンプライシング(※1)構想」等の実現・実行
  3. 進捗評価と必要な見直しといった「GX実現に向けた基本方針の概要」

について協議されている。この会議によると国は、民間事業者の予見可能性を高め、長期・複数年度にわたり投資促進策を講ずるため、カーボンプライシング導入の結果として得られる将来財源の裏付けとして「GX経済移行債」を創設し、今後10年間で20兆円規模の大胆な先行投資を行うことを示した(※2)。
基本方針は今後10年を見据えたロードマップ(※3)であり、マクロ的な観点に加え、中堅・中小企業のGX推進についても言及されている。我が国のGXを推進していくためには、今後、国や政治、大企業といったマクロ的な動きに加え、中堅・中小企業といった地域レベルでの対応も重要になると考えられている。
GXはビジネスチャンスにつながり、新しい産業としても期待され、複数の組織の連携がポイントだといわれている。地域の各事業所のGX化に向けた取り組みはますます注目されるだろう。

GX化への具体的な取り組み事例 脱炭素化に向けて

(株)金の鍵の代表を務める王本智久さんは現在、立命館大学びわこ草津キャンパス内のインキュベータ内で(株)アプデエナジーという会社を立ち上げ、脱炭素に向け「EV(Electric Vehicle)用リチウムイオンバッテリーのカスケードリユース」に取り組んでいる(図参照)。

カスケード利用 (cascading)とは、資源やエネルギーを利用すると品質が下がるが、その下がった品質レベルに応じて何度も利用すること。これにより、資源の利用効率が向上する。

日本には約400万台の自動販売機が設置されている。年間消費電力は1000〜5000kw。日本全体の4〜6%にあたる。全ての自動販売機と家庭とオフィスで3割超を再生可能エネルギーと蓄電池でオフグリッド化できれば、日本の4割の電力が自給自足できることになり、CO2排出は30%削減することができる。

(株)金の鍵 代表取締役 王本智久氏

従来のEV車はその動力源である電気を製造する際にCO2を排出し、総合的にガソリン車よりも多くのCO2を排出する場合がある。使い終わったEVのリチウムイオンバッテリーに関しても、海外への輸出が大半を占めており、国内でリサイクルされていないのが現状である。そこで、王本さんはこのリチウムイオンバッテリーの再利用に注目し、「コンバートEV」、「オフグリッド型(※4)自動販売機」を開発した。
「コンバートEV」は、従来のガソリン車からエンジンを取り出し、リチウムイオンバッテリーとモーターを搭載したEV車。「オフグリッド型自動販売機」は、太陽光パネルから得たエネルギーを、搭載したリチウムイオンバッテリーに充電し、その電力で動く自動販売機である。
王本さんは「コンバートEVに関しては『滋賀県近未来技術等社会実装推進事業補助金』(現在募集終了)を用いて事業に取り組みました。従来のEVと比較し、デメリットが排除されたものになるので今後さらなる開発を行っていきたいです。後者は災害時、停電時でも動き、遠隔で様子を確認、飲料の無償提供もできることがメリットです。これらの例の様に今後オフグリッド型の住宅・オフィスなど『環境にやさしく災害に強いエネルギーの地産地消』に直結する事業を展開していきたいです」と話す。
脱炭素化に向けた一歩進んだ取り組みであるといえる。

GXへの取り組みに対し事業所として「今」できること

エネルギー状況を「見える化」する

事業所レベルで対応可能な例として何が挙げられるだろうか。そのひとつとして、自社の消費電力量やCO2排出量を「測る」ことが挙げられる。「GX化への取り組み」というとハードルが高く感じるが、まずは自社のエネルギー状況を適切に把握することが第一歩である。

省エネ診断サービス

滋賀県産業支援プラザでは省エネ診断専門家を派遣し中小企業等のエネルギー使用状況等を診断する「省エネ診断」サービスを行っている。専門家からはエネルギー使用実態の調査のみならず、自社のエネルギー状況を「みえる化」することでその改善方法の提案を受けることも可能である。

令和5年度 省エネ・再エネ等  設備導入加速化補助金

省エネ診断サービスを受けた事業者限定で、省エネ設備、再エネ等設備の導入に要した経費の一部が補助される。第3次募集が8月1日より始まるのでGX化のきっかけとしてぜひご活用いただきたい。

滋賀県産業支援プラザ

「びわ湖カーボンクレジット」の認証を受ける

省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する「J│クレジット」に並び、滋賀県は「びわ湖カーボンクレジット(※5)」として、普及促進の取り組みを進めている。事業所等の取り組みを〝県の登録制度〟として登録することで、取り組みの信頼性を高められ、自社のPRにもつながると考えられる。

ゼロナビしが しがCO2ネットゼロナビゲーション

今後のGX社会を見据えて

1事業所の取り組みとして、難しいイメージがある「GX化」だが、地方都市の事業所にもその取り組みの必要性が迫られる段階にまできている。事業活動における省エネ活動、脱炭素化が叫ばれるなか、今後「GX化」が必須条件となる時代はそう遠くないかもしれない。その時に備え、各事業所が「今」できることは何かを意識し、行動していくことが今後ますます重要となってくるだろう。
彦根商工会議所としても事業所のGX化へのサポート、情報の提供を今後も継続して行っていきたい。


※1 カーボンプライシング:炭素排出に値付けをすることによって、GX関連製品・事業の付加価値を向上させようとすること。

※2 国際公約達成と、我が国の産業競争力強化・経済成長の同時実現に向けては様々な分野で巨額の投資が必要となる。この巨額の投資を官民協調で実現するため『成長志向型カーボンプライシング構想』の早期具体化が議論・検討されている。

※3 「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました - 経済産業省ウェブサイト

※4 外部からのエネルギー供給を必要とせず、独立して電力を創出・利用できるシステムのこと。

※5 省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。