21世紀は「人権の世紀」

1948年国連総会で「世界人権宣言」が採択され、「全ての人が生まれながらに持ち、人間らしく尊厳を持って幸せに生きるための権利」と定義づけられた。以後、戦後の国際社会における人権の推進と伸長は、国家の責務と観念され、国際社会は各国政府が人権について理解し、その責務を果たすことを目指してきた。
日本では、2000年に人権が尊重される社会づくりの基盤となる「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」、滋賀県では翌年に人権が尊重される社会づくりに向けて、事業者の責務が規定された「滋賀県人権尊重の社会づくり条例」が施行された。また近年、経済活動のグローバル化に伴い企業の社会的責任が重視され、国際規格として「ISO26000」が発行されるなど、企業が人権尊重の視点を取り入れて社会的責任を果たしていくことが世界的にも求められてきている。
こういった人権問題への対応は、時として企業の価値に大きく関わり、全ての人が持っている固有の権利である「人権」の観点から企業活動を見直そうとの動きが国内外において高まっている。企業の社会的責任(CSR)や社会的責任投資(SRI)に対する関心の高まりと相まって、人権尊重の考え方を積極的に企業方針にとり入れ、職場内で人権研修を行う企業が増えている。
企業においては、様々な人権問題をその本質から捉え、人権尊重の潮流を理解いただく中で、自社内での人権尊重に対する取り組みができているか、就職の機会均等を保障した採用選考システムが確立されているか、差別のない明るい職場となっているかどうかを今一度点検していただきたい。

職場においての様々な人権問題について

長時間労働による過労死、就職活動、セクハラやパワハラなどのハラスメント(嫌がらせ)、不当な差別など、職場における様々な人権問題がメディア等でも大きく取り上げられ、大きな社会問題となっている。2020年6月に職場におけるハラスメント防止対策が強化され、現在ではパワハラ防止措置が全ての事業主の義務となった。
差別のない公正な採用選考を必須とし、人権問題に取り組んでいくことは、採用競争力の強化、企業イメージの低下や損害賠償責任を防ぐ等、大きな影響をもたらす。逆に人権に関する取り組みの不足は事業に様々な負の影響をもたらす。人権問題は企業生命と直結していると言っても過言ではなく、負の影響を予測・特定し、防止・軽減していく必要がある。
その中でも、日本固有の人権問題として、特定地域の出身であること等を理由にして差別する部落差別(同和問題)がある。この問題の解決を図ることは、国および地方公共団体の責務であると同時に国民的課題であり、真の解決のため国民一人ひとりが真剣に取り組む姿勢が不可欠となる。就職や職場においては、同和地区出身者を採用しない、賃金や待遇に差をつける等といった、不当且つ重大な人権侵害があげられる。1975年の「部落地名総鑑事件」では、全国の同和地区や被差別部落の地名などが掲載された図書が発刊され、相当数の大手企業が購入していたことが発覚した。この事件は人権侵犯事件として、当該図書は回収・処分されたが、最近ではインターネット上に同様の内容のものが掲載されるなど、未だ部落差別に関する差別意識はなくなっていない。

滋賀の採用に関する人権問題の現状

このような人権問題をめぐっては、「近畿高等学校統一応募用紙」として、身元調査につながる項目を排除した応募用紙が、全国においても先駆けて近畿で制定されている。滋賀県においては、1977年、他府県にはない独自団体として、進保協(滋賀県進路保障推進協議会)が結成された。運動団体、研究団体、学校団体、労働行政等24団体からなる進保協は、人権の視点に立ち、県行政や労働行政・関係諸団体と連携しつつ同和地区出身生徒・学生をはじめとした、すべての生徒・学生等の進路保障上の問題に関わって取り組んでいる。高校生等への啓発・講演や、不適正事象への対応、就職選考試験報告書の精査、夏季企業研修等を実施している。
同組織の昨年の採用試験報告書によると、のべ1878名の学生が県内・県外の企業を受験し、その内で法に抵触する可能性のある質問を受けた数がのべ112名、約17人に1人が法に抵触する可能性のある不適正質問を受けている現状がある。採用選考の基本的な考え方としては、「人を人として見る」人間尊重の精神、すなわち、応募者の基本的人権を尊重すること、応募者の適性・能力のみに評価基準をおいた選考を行うことの2点。そして、「公正な採用選考」を行う基本として、応募者に広く門戸を開き、公平で公正な採用選考の実施をお願いしたい。

具体的な取り組みについて

先述の通り、公正な採用選考を行うことは、家族や生活環境に関することなどといった、応募者の適性・能力とは関係のない事項で採否を決定しないということにある。
厚生労働省の特設ページでは、履歴書様式の配布および、従来の履歴書との変更点として、①性別欄は任意記載欄 ②各欄(「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」)の4項目は設けないとしている。他にも、採用選考においての自主点検資料が掲載されており、具体的な採用に関する項目別チェックシートとポイント、不適正質問にあたる内容について解説されている。まずは自社においての取り組みの現状を理解することから始めてみてはどうだろうか。
近年目立ってきているのが、内定後の提出書類に関する不適正事象。不適正質問は法的に禁止されているものの、内定後の書類に関してはグレーゾーンとなっているが、厚労省では「面接時に情報収集してはならないものは、基本的には内定後も合理的な理由なく収集してはならない。」 というような見解を示しているところである。
身近な取り組みとしては、企業研修がある。滋賀県人権センターによると、企業の人権問題研修について、1、2年ほど前はコロナ禍における感染症に関する差別問題をテーマとしたものが多かったが、今年度前期においてはLGBTQに関するハラスメント問題や同和問題等のテーマ傾向にあるという。同センターや彦根市でもテーマに合わせた企業向け講師派遣を行っているためぜひ活用いただきたい。
なお、12月3日には滋賀県人権週間に合わせ、滋賀県立文化産業交流会館にて県民のつどいが実施される。こういった催しに企業として参加することをお勧めしたい。

一人ひとりが「人権」の理解を

人権に関する取り組みは一定の成果を挙げてはいるものの、全ての国が人権について同じ理解に到達しているわけではなく、連日のように悲しいニュースが報道されている。また、ここまで述べてきたとおり、同和問題をはじめとした、固有の課題等がまだまだ根強く残っている。「人権を守る」ということは、人を大切にすること、相手を認めること、思いやりをもって接すること、どれも当たり前のことがその根底にある。この点を理解することこそが、人権が守られる社会の実現の1歩となる。本記事が、一人ひとりが人権を考える契機となることを願っている。


参考