我が国では、2040 年にかけて生産年齢人口が急減し、社会全体の労働力確保が大きな課題となっています。人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、当面の対応として取り組む支援策「年収の壁・支援強化パッケージ」が開始されていますので、ご紹介します。

“年収の壁”について

厚生年金保険及び健康保険においては、会社員の配偶者等で一定の収入がない方は、被扶養者(第3号被保険者)として、社会保険料の負担が発生しません。そのため例えばパート・アルバイトで働く方の意識として、「年収106万円以上となることで厚生年金・健康保険に加入するため、保険料負担を避け就業調整してしまう(従業員100人超企業に週20時間以上勤務する場合)」、「年収130万円以上となることで、国民年金・国民健康保険に加入するため、保険料負担を避け、就業調整してしまう」といった方がいらっしゃいます。その収入基準(年収換算で106万円や 130万円)がいわゆる「年収の壁」と呼ばれています。

年収の壁への当面の対応策

人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、2023年9月27日、全世代型社会保障構築本部で、「年収の壁」への当面の対応策が決定されました。また10月30日、首相官邸ホームページにおいて、「年収の壁」に関する特設ホームページが公開されました。
それによると当面の対策として、(1)106 万円の壁への対応として①キャリアアップ助成金のコースの新設 ②社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外、(2)130 万円の壁への対応として③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化、(3)配偶者手当への対応として④企業の配偶者手当の見直し促進、を進め、年収の壁を意識せずに働くことのできる環境づくりを後押しするとともに、さらに制度の見直しに取り組むとしています。

106万円の壁への対応

①キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設

キャリアアップ助成金とは、いわゆる非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。10月1日以降、事業主が新たに社会保険の適用を行った場合、労働者1人あたり最大50万円を助成する「社会保険適用時処遇改善コース」が新設され、3つの支援メニューが設けられています。
手当等支給メニュー:事業主が労働者に社会保険を適用させる際に、「社会保険適用促進手当」等の支給により労働者の賃金を15%以上増加させた場合に助成します。
労働時間延長メニュー:所定労働時間の延長により社会保険を適用させた場合に事業主に対して助成を行うものです。
併用メニュー:1年目に手当等支給メニューによる助成(20万円)を受けた後、2年目に労働時間延長メニューによる助成(30万円)を受けることも可能です。

(1)手当等支給メニュー

要件1人当たり助成額
①賃金の15%以上を追加支給
(社会保険適用促進手当)
1年目 20万円
②賃金の15%以上を追加支給
(社会保険適用促進手当)
3年目以降、③の取り組み
2年目 20万円
③賃金の18%以上を増額3年目 10万円

(2)労働時間延長メニュー

週所定労働時間の延長賃金の増額1人当たり助成額
4時間以上30万円
3時間以上 4時間未満5%以上
2時間以上 3時間未満10%以上
1時間以上 2時間未満15%以上

なお対象となる従業員は、以下の要件を満たす必要があります。

  • 短時間労働者で、2023年10月以降、新たに社会保険の加入対象者となること
  • 社会保険加入日の6か月前の日以前から継続して雇用されていること
  • 社会保険加入日から過去2年以内に同事業所で社会保険に加入していないこと
  • 社会保険加入日から2か月以内に、週所定労働時間を一定時間延長するか、最長2年間社会保険適用促進手当等を支給すること

また申請にあたっては、事前に「キャリアアップ計画書」を作成し、管轄労働局に提出しなければなりません。

②社会保険適用促進手当

事業主が被用者保険適用に伴い手取り収入を減らさないよう手当(社会保険適用促進手当)を支給した場合、本人負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間社会保険料の算定対象としないとする制度です(右記「要件等」参照)。すなわち社会保険適用促進手当として会社が補填してくれた金額がそのまま手取り収入に加算されます(税金分は減額されます)。

130万円の壁への対応

③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化

被扶養者認定においては、認定対象者の年収が130万円未満であること等が要件とされますが、繁忙期に残業が重なり一時的に年収が130万円以上となる場合などには直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等に加えて、人手不足による労働時間延⾧等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主証明を添付することで、迅速な被扶養者認定を可能とします(下図参照)。なおあくまでも「一時的な事情」として認定を行うことから、同一の者について原則として連続2回までを上限とします。

要件等

  1. 対象者:標準報酬月額が10.4万円以下の者
  2. 報酬から除外する手当の上限額:被用者保険適用に伴い新たに発生した本人負担分の保険料 相当額とする。※令和5年度の厚生年金保険料率18.3%、健康保険料率(協会けんぽの全国平均)10.0%、介護保険料率1.82%の場合の本人負担分保険料相当額
    標準報酬月額8.8万円9.8万円10.4万円
    上限額(年額)15.9万円17.7万円18.8万円
  3. 期間の上限:最大2年間の措置とする。

配偶者手当への対応

④企業の配偶者手当の見直し促進

令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で配偶者手当の見直し(配偶者手当の廃止(縮小)+基本給の増額・子ども手当の増額・資格手当の創設等)も議論されるよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表しています。

今後求められる企業像

「年収の壁・支援強化パッケージ」は、当面の措置としてまず導入されています。支援期間後も継続的な収入の増加に取り組み、壁を意識することなくキャリアアップできる企業になる必要があります。


中小企業相談所からのご支援

彦根商工会議所では、地域の支援機関として各施策のご説明や申請など支援させて頂きますので、まずはお気軽にご相談ください。また「年収の壁・支援強化パッケージ」の詳細は以下のリンク先をご確認ください。併せて厚生労働省でも相談窓口が開設されていますので、ご利用ください。