令和3年度より開始された文部科学省のマイスター・ハイスクール事業(以下MHS)においては近畿地方で唯一、彦根工業高校が採択された。学校と産業界、自治体が連携して地域産業を支える人材を育成する取り組みとして、当所でも始動から今まで2度特集している。

今年度、3ヵ年計画として一旦ひと区切りとなる。実際にMHSで学んだ生徒や、派遣先企業で行う実習・課題研究(企業デュアルシステム)の受け入れ企業より話を伺った。


彦根工業高校3年生 機械科
田中巧大さん

MHSにて1年生から学び、2年生で外部講師による特別授業を履修、技能検定(普通旋盤作業・機械検査作業)の資格試験に合格。3年生では派遣先企業で行う実習・課題研究(企業デュアルシステム)を行い、現在日の本辨工業(株)において実習中。

学校で学んだこと

機械科では、旋盤加工(金属を回転させて削る)や素材の計測、部活動内では機械工学部の部長を務めながら主に溶接や加工関係を学びました。
私の父は工場に勤めており、その影響でものづくりの仕事に対しての憧れがありました。将来は製品を組み立てる仕事につけたらいいなと思っています。入学当初はものづくり=組み立て、としか考えていませんでしたが、加工=製品の元となる素材を作り出す世界があると知り、見る世界が変わりました。

MHS事業(企業への実習)を通して学んだこと

自宅から少し距離はありましたが、父の影響で船が好きだったこともあり、船のバルブを作っている日の本辨工業㈱への実習を即決しました。そこで社員の皆さんが仕事を始める前に入念な事前準備をされているところを見て、前準備の大切さを再認識しました。実は日頃から学校で先生に早めの準備を言われていたものの、意味を十分に理解できていませんでした。しかし、早めに準備することで、仕事や心に余裕が生まれてスムーズに仕事されている社員の方の姿を見て、合点がいきました。
日常的に学校で学んでいることは、実際に就職した時の自分に関わってくることだと身をもって体験することができました。

将来について

県内の工業系の大学へ進学し、ものづくりの世界に就職をすることは決めていますが、将来は加工するのか組み立てをするのか、どの方向へ進もうか悩んでいます。MHSにより、その選択肢が広がる機会となりました。たとえ別の選択をしたとしても、培った技術や物事の見方は経験として生きてくると思っています。もっと広い世界を見て、しっかりと将来を決めていきたいと考えています。

学生が地元就職を選んでいくために必要だと思うこと

私は、その人の好きなこと・ものを作っているところかどうか事前に知ることで、ここで働きたい!という意欲に繋がるのではないかと思います。地元の企業を知る機会が増えれば学生の見方も変わってくるのではないかと思います。

MHSで学んでみて良かった点

地元の企業を知ることができたことが一番です。昨今、金属材料の値段が上がってきているのですが、ただ作るだけでなく製造コストをどれだけ削減できるかを考えながら、より軽く、より使いやすいものを創意工夫し作り出す術を学べたことは自分にとって大きな糧となりました。


(株)清水合金製作所勤務
山中海豊さん(彦根工業高校卒業生)

2年生の時にMHSの指定を受け、今年3月に卒業。在学時の3年生のとき、派遣先で行う実習・課題研究の試行を体験。(株)清水合金製作所で企業デュアルシステムを履修し、その後同社を志望し就職試験合格、現在に至る。

実習中印象的だったこと

新入社員と同じようにコミュニケーション、会社概要、安全面の研修など基礎的な理解からスタートし、その後は講師(先輩)についてもらって仕事を教わりました。
清水合金製作所では、バルブの製造が主ですが、私が選んだのは水のろ過装置のフィルターに関係する業務で、いかに効率よく作業を進めていくかが課題でした。また、学校だと一方的に話しても受け止めてもらえていたものも、社会に出ると相手のへの思いやりを持って話すことの必要性を知り、コミュニケーションの重要性を感じました。実習中、先輩が仰った「入ったら必ず戦力になるから」という言葉がとても印象に残り、嬉しかったです。

入社を決めたきっかけ

実は、清水合金製作所の近所に住んでいるのに、先生から教わるまで会社の存在を知りませんでした。元々機械科に入学したのは、メカニックへの興味からでしたが、製造の仕事につきたいとまでは考えていませんでした。
学校で色々と学び、就職を意識する3年生となった時に派遣先企業で行う実習・課題研究(企業デュアルシステム)の試行がスタートしました。試験的な意味合いもあり、4人分の枠しかありませんでした。就職前に企業実習ができると知り、もし叶ったら就職しようと初めから決めていました。

入社後の感想

率直に申し上げると、入社後、仕事量や覚えることの多さに驚きました。現在は、バルブの塗装業務をしています。流れてきたバルブを補修してラインに再度乗せる業務なのですが、その先で不良があれば自分のところに返って来ます。仕事全体の流れを止めないためにも、周りを見ながら、優先順位を常に考えて仕事をするよう自分なりに心がけていて、目標は不良をゼロにすることです。


これまでの成果については、彦根工業高校のWebサイトにて公開されているのでぜひご確認いただきたい。

同校によると、今年度入学の生徒向けアンケートでは、6割を超える生徒が、同校がMHS事業を行っていることを知った上で入学していると回答しており、事業の浸透が進んでいることが分かる。一方で、地元地域の伝統産業や地域に根付いた会社を知っているかという質問には、知らないと答えた生徒が7割近くいることがわかった。学生が地元企業を知る機会の創出はこれから進めていくべき喫緊の課題である。MHSは技術人材の育成と同時に、地元の素晴らしい企業、仕事を知ってもらうことで県外への人材流出を食い止める手立てとなる。
また、MHSへ協力した企業へのアンケートによると、8割が活動に協力してよかったと回答している。自社のPRになった、高校とのつながりができたというコメントのほか、「指導する社員の成長が感じられた」という企業もある。清水合金製作所の担当者の話では、新入社員と同じようにカリキュラムを組み、受け入れ体制を整えるのは苦労も多いが、得るものも多いという。柔軟な発想を持つ学生と触れ合うことで刺激を受け、個人のスキルアップに繋がり研鑽の機会となったそうだ。受け入れ企業におけるメリットも大きいと言えよう。

MHS事業では初年度、コロナ禍の影響で企業や学校への訪問が取りやめとなったが、現在の1・2年生は1年生のうちから企業や学校への訪問が可能となってさらなる学びを深めている。今年度でMHS事業は一旦の区切りとなり、次年度からは基金を設置し、国の補助に頼らない自走事業として運営を続けていくことになる。生徒達にさらなる学びの機会を提供し、企業を知ってもらうためにも、当所会員企業の皆様に企業見学や実習生の受け入れ、基金へのご協力をいただきたい。


滋賀県立彦根工業高等学校 マイスター・ハイスクール
次世代地域産業人材育成刷新事業
変化への挑戦 Challenge for Change ご寄付のお願い

滋賀県立彦根工業高等学校では、令和3年度に文部科学省の指定を受け、今年度で最終年となります。引き続き、技術人財を育成し、地域産業の活性化を果たすため、行政や大学、彦根商工会議所、企業など地域の皆さまのご協力を得ながら県主導で継続する予定です。
皆さまには、地域の産業を支える人材育成に向けて、長期インターンシップの受け入れや、ご寄付へのご協力をお願い申し上げます。

令和6年4月1日から開始となります。詳細は随時ウェブサイトにて公開予定です。