「持続的な事業所」が求められる

経済産業省が発表した[2023年版中小企業白書・小規模企業白書]は、中小企業・小規模事業者の動向と、中小企業が変革の好機を捉えて成長を遂げるための必要な取り組みや、小規模事業者が地域課題を解決し、持続的な発展を遂げるために必要な取り組みなどについて、企業事例を交えて分析を行ったものだ。

  • 中小企業は「競合他社が提供できない価値の創出により、価格決定力を持ち、持続的に利益を生み出す企業へ成長を遂げることが重要」
  • 小規模事業者は「支援組織や自治体のサポートも得ながら、引き続き、地域の持続的発展を担っていくことが重要」

と白書には記されている。事業内容や規模等に関わらず、「持続的な事業所」として成長を遂げることが求められている。

加速する人材不足

しかしながら企業を取り巻く環境は、業種・業界にほとんど依存せず物価高騰、深刻な人手不足などが影響し依然として厳しい状況にある。特に、人材に関しては、我が国の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5275万人に減少すると見込まれている(2021年から29.2%減)。さらに、令和4年3月における滋賀県の有効求人倍率(有効求人数を有効求職者数で除したもの)は職業全体で0.99倍とやや低水準だが、サービスの職業では2.09倍、建設・採掘の職業では3.96倍と高倍率を示している。これは、一部の業種では求職者一人を同業の複数社で取り合っている状況であるといえる。今後、人材不足に拍車がかかる事態に直面することになる。
また社会全体として、生産年齢人口の減少に伴う従業員の高齢化加速による国民医療費の増加は、企業の社会保険料負担の増加に繋がっている。人材面、費用面双方において企業への逆風は強く、とりわけ中小企業や小規模事業者に関してはこの影響をより強く受けると考えられる。

事業所の健康状態が「見える化」される時代へ

こうした背景を鑑みて、従業員の健康状態が重要視されるようになってきた。同時に事業所においては「健康経営」という考え方にも注目が集まっている。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することである。また、経済産業省では、健康経営に係る各種顕彰制度として、平成26年度から「健康経営銘柄」の選定を行っており、平成28年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設した。認定は健康宣言事業へ参加するところから始まる。
滋賀県においては2024年(中小規模法人部門)に220社、彦根市においても約20社が認定を受けている。彦根商工会議所は2022年から認定法人である。
また、全国健康保険協会(協会けんぽ)滋賀支部では、令和3年度から健康づくりに対して積極的に取り組んでいる事業所を「健康づくり優良事業所」として表彰する制度を実施している。協会けんぽ独自の「健康アクション宣言」にエントリーし、従業員への健康診断の実施や特定保健指導の実施などの条件を満たすことで認定される。
滋賀県において153事業所が認定されており、彦根市内においても13事業所が表彰されている。当所も令和5年度に認定された。
これらの制度により、近年事業所の健康状態は「見える化」されるようになった。

 

健康経営への取り組みのメリット

社外への有益なアピールに

日経新聞社の「働き方に関するアンケート」によると求職者が働く職場に望むものとして「心身の健康を保ちながら働ける」が最も上位に挙がっている。さらに働き口が健康経営に取り組んでいるかどうかが就職先選定の決め手となるかという問いに対して「もっとも重要な決め手になる」、「重要な決め手の一つになる」と回答した割合は約6割である。これらは、健康経営の具体的な取り組みに関心を寄せる求職者が増加していることを裏付けており、健康経営への取り組みは採用申込者数を増加させると言い換えることもできる。以下で記した『「健康経営」に結び付く多様な取り組み』は昨今の人材不足が問題化している多くの業界において、その解決方法のひとつとなりうるだろう。

生産性の向上、取引先・消費者からの信頼獲得

「人材の流出」といった問題に関しても健康経営への取り組みによる効果が期待できる。
経済産業省の調査によると、健康経営を実施している事業所はそうでない事業所と比較し、離職率が低い傾向にあるという結果が出ている。このように、職場の風土改善、従業員の満足度向上による人材の流出を防ぐことが期待されるため、ビジネス面においても従業員の生産性の向上をはじめとした業績向上効果も望める。また企業イメージの向上にもなるため、新規取引先の取得、消費者からの選好にもつながる。

経営上有利な加点要素に

中小企業向けの各種補助金制度では健康経営優良法人の取得をインセンティブの対象としている。例としてものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金では健康経営優良法人への登録を評価の加点項目としている。また、日本政策金融公庫では融資制度における利率の優遇等の措置も行っている。企業イメージや生産性の向上といったもののみでなく、健康経営への取り組みは中小企業の経営上有利な加点要素ともなりうる。


「健康経営」に結び付く多様な取り組み(事例)

① 隔週水曜日を健康推奨日に設定

仕事柄、従業員に健康課題が生じやすく、従業員の健康意識を高める目的で、もともとノー残業デーとしていた第1・3水曜日を「早く帰って健康にいいことをする日(健康推奨日)」として設定した。(卸売業)

② メンタルヘルス管理を徹底しその取り組みを発信

従業員のメンタルヘルスをケアするため、経営者と従業員とが1対1で話す機会を設けた。また、朝イチの研修や、置き社食など、健康経営に関する取り組みをSNSで社内外に発信した。(建設業)

③ 運動器年齢を月1でチェック

毎朝、他部署を含めた10分間のコミュニケーションを取る時間を設け、この中で月に1回自身の運動器年齢を測定している。(製造業)

④ 個人の健康管理に向き合える健康管理ノートを作成

健康診断で指摘されたことや日々感じている健康上の悩みを記入する健康管理ノートを個人ごとに作成し、健康相談や社長面談の際に活用している。(サービス業)

⑤ 従業員が運動する機会を創出

「ウォーキングラリーイベント」を実施し、従業員が運動する習慣を会社として創出した。単に歩くだけではなく歩数をみんなで稼ぐことを目的とし社内の連帯感の向上も図った。(製造業)


できることから始める身近なことからコツコツと

健康経営について、実際事業所レベルでは「自社(の従業員)の健康状態を見つめ直し、できることから始める」ことが重要といえるだろう。
「健康経営」に結び付く多様な取り組み(事例)をはじめとし、健康をキーワードとしたセミナー受講の他、健康診断の実施等、従業員の福利厚生の充実など「健康経営」への取り組みに該当するものは多く存在する。昨今では各種保険会社や健康推進団体による健康経営に関する相談サービスもかなり充実してきている。
また彦根商工会議所では、5月1日(水)〜6月28日(金)にかけて、福祉・共済制度キャンペーンを実施する。期間中、健康経営アドバイザーが在籍しているアクサ生命保険(株)と連携し、会員事業所の経営状況に応じた健康経営の計画策定の支援を目的とし訪問させていただく。
更に7月1日(月)〜7月5日(金)の5日間にかけて、令和6年度会員健康診断を当所にて開催する。本健診では経営者・従業員の健康状態をチェックすることを目的とする。

事業所の規模に関わらず、これらの機会をぜひともご活用いただき自社の健康状態について考えるきっかけとし、今後の事業活動の一助としていただければ幸いである。