現代の経営環境は、人口減少やグローバル化、急速なデジタル技術の進化など、かつてない変化の只中にある。このような時代において、企業が淘汰されることなく持続的に成長を遂げるためには、変革を恐れず果敢に挑戦していく「攻めの経営」が不可欠である。そして、その変革を成功に導く上で最も重要な鍵となるのが、専門的なスキルや豊富な経験、広い人脈を備えた「プロフェッショナル人材」の存在に他ならない。しかし、多くの中小企業にとって、こうした高度な専門性を持つ人材を自社だけで採用・育成することは、決して容易ではない。この喫緊の課題に対し、国や県は強力な支援策を打ち出している。
8月6日に開催された当所常議員会では、当所も連携を深める公的支援機関「滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点」の取り組みについて、具体的な事例を交えた詳細な解説があった。この拠点を実際に活用し、多くの県内企業が事業承継、新規事業開発、株式上場といった、それぞれの目標に向かって新たな一歩を踏み出している。本稿では、会員事業所の事業発展の一助となるべく、この「滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点」について事例を交えて紹介する。
企業の「攻めの経営」を国が支援する
「プロフェッショナル人材事業」とは、地域企業の成長を通じて日本経済全体の活性化を目指す、内閣府主導の国家事業である。その中核的役割を担うのが、各都道府県に設置された「プロフェッショナル人材戦略拠点」(プロ人材拠点)。
企業の経営課題は、新規事業の立ち上げ、販路開拓、生産性向上、DX推進など多岐にわたる。当然、求められる人材も様々だが、この拠点最大の強みは、こうした多様なニーズに応えるための圧倒的な人材紹介ネットワークにある。パーソルキャリアやリクルートといった大手から、地域に密着し、大手企業のOBなどの経験豊富な人材を擁する無料職業紹介、副業・兼業専門業者まで合計60社を超える幅広いネットワークを駆使し、各企業のフェーズや課題に最適な人材活用を提案できる体制が整っている。特に滋賀拠点においては県内中小企業約34000社のうち、12.6%にあたる4300社が拠点を活用しているというデータの他、表のとおり全国トップクラスの実績を持つ。
プロ人材拠点は、単なる人材紹介機関ではない。金融機関などと連携し、経営者との丁寧な対話を通じて新事業への挑戦や販路開拓といった「攻めの経営」を後押しし、そのために必要な人材確保を戦略的に支援する点に、その最大の特徴がある。
また、プロ人材拠点が提供するコンサルティングは、国の施策として企業の成長を後押しすることを目的としているため、人材紹介会社へ支払う成功報酬などを除き、すべて無料で利用できる。まさに、経営者の「右腕」として、課題解決まで伴走する頼れるパートナーと言えるだろう。
また、プロフェッショナル人材活用に関しては、県の補助金もあるためぜひ合わせて活用いただきたい。
2023年度実績
相談件数: 988件(全国3位)
成約件数: 304件(全国5位)
2024年度の進捗状況
相談件数: 1,069件(全国2位)
成約件数: 320件(全国5位)
累計実績(2025年3月末現在)
相談件数: 6,232件(全国3位)
成約件数: 1,654件(全国5位)
プロ人材活用によって未来を拓いた県内企業の事例
雇用事例:バルブ製造業(従業員260名、年商85億)A社
プロ人材と共に、30年来の悲願であった株式上場を達成
- 課題
- 株式上場という長年の目標に向け、次世代幹部の確保と人材戦略の構築が急務だった。
- 活用
- 経営層との対話から、5年後、10年後を見据えた組織強化のロードマップを策定。海外工場の次期工場長や経理の専門家など、上場に不可欠な人材の採用を支援した。
- 結果
- 海外工場の次期工場長や経理の専門家など、重要ポジションを担う人材の採用に成功。これが原動力となり、2020年12月、見事、株式上場を果たした。
未来への投資として「人」をどう捉え、戦略的に獲得していくか。プロフェッショナル人材の活用が、単なる欠員補充ではなく、企業の最も重要な経営目標を達成するための強力なエンジンとなり得た事例。
副業・兼業事例:鉄道の信号設備の建設業(従業員数29名、年商3億)B社
雇用リスクを抑制し、副業人材と次世代のための新規事業に挑戦
- 課題
- 次世代への承継を見据えた新規事業を模索するも、新たな正社員の雇用リスクが障壁となっていた。
- 活用
- 「まず人を雇う」のではなく、専門知識を持つ副業人材と「企画・立案から事業化までのロードマップを作成する」手法を提案。2つの新規事業の立ち上げを伴走支援。
- 結果
- 正社員を一人も増やすことなく、2つの新規事業を同時に推進。低リスクで未来の成長の種を育てることに成功した。
新規事業への挑戦が「まず人を雇う」ことから始まる必要はないことを明確にし、「副業・兼業」という形で、必要な専門知識を必要な期間だけ活用する。柔軟な発想で、低リスクかつ未来の成長の種を育てるための一手となった。
具体的なサポート内容
現状のヒアリング
拠点の経験豊富なマネージャーによる、経営課題や人材に関する悩みの聞き取り
課題の明確化
対話を通じ、「本当に必要な人材は誰か」「どのようなスキルが求められるか」といった、企業の未来に繋がる真の課題と人材ニーズを共に整理
最適な手法の提案
正社員雇用という選択肢だけでなく、副業・兼業人材の活用や大手企業からの出向など、多様な選択肢の中から各社の状況に最適なプランを提案
採用から定着までの伴走
人材ビジネス事業者への橋渡しに始まり、採用成功、そして採用した人材が入社後に活躍・定着するまで、一貫して支援
将来の企業経営に必要な「人的資本経営」
採用が困難な時代を乗り越えるために、プロフェッショナル人材を登用することだけが正解ではなく、ゴールでもない。あくまで、企業が持続的に成長するためには、従業員を単なる労働力としてではなく、価値創造の中核を担う資産(資本)と位置づけ、その育成や活用に戦略的に取り組む「人的資本」の考え方がこれからの時代を勝ち抜く鍵となる。経営者が人的資本経営を実践し、今すぐ取り組むべきポイントをまとめたのでぜひ自社に置き換えて検討いただきたい。
1. 未来像の共有と計画策定
- まずは組織図を整備し、3年後、5年後、10年後の会社の姿を社員と明確に共有。
- その未来を実現するために、デジタル化や新規事業展開といった課題解決のロードマップを作成し、早期に行動する。
- 社員一人ひとりと対話し、会社の将来像と連動したキャリアプランの作成を支援する。
2. 「人への投資」という意識
- 社員のスキル向上や継続的な学習、エンゲージメント(働きがい)の向上を重視し、積極的に「人」へ投資することを模索する。
3. 経営の基本姿勢
- どのような戦略や計画よりも、基本となるのは従業員への「目配り、気配り、心配り」。この姿勢が、組織全体の力を引き出すことになる。
「新事業の構想はあるが、実現方法が不明確だ」「DXを推進したいが、誰に相談すべきか分からない」「将来を託せる人材の育成に悩んでいる」など、何から手をつければよいか分からない段階であってもまずはアクションを起こしてみることをお勧めする。もちろん、彦根商工会議所では最も身近な相談窓口として会員企業の皆様の課題を整理し、プロ人材拠点のような最適な専門機関へと繋いでいくことができるため、まずはお気軽にご相談いただきたい。