いま全国の中小企業のあいだで急速に注目が集まっているのが「ゼブラ企業」という考え方である。派手な急成長を追うのではなく、利益と社会性を両立させながら地域に根を張って持続していく。そのあり方は、多くの老舗中小企業が当然のようにやってきたことと、実は深く重なっている。

ゼブラ企業とは何か

「ゼブラ企業」という言葉は2017年、アメリカの4人の女性起業家が提唱したのが始まりだ。急成長・高い企業価値・上場を前提とする「ユニコーン企業」への反省として生まれた概念で、シマウマの白と黒の縞模様が「利益」と「社会性」の両立を象徴することから命名された。
ユニコーン企業が「いかに大きくなるか」を問うのに対し、ゼブラ企業は「いかに社会に必要とされ続けるか」を問う。群れで行動するシマウマのように、競争よりも共生・協働を重んじる経営姿勢が特徴だ。
重要なのは、利益を否定しているわけではない点だ。利益は社会的使命を実現するための手段と位置づけ、それを地域や顧客、従業員、取引先など多様なステークホルダーに還元していく。日本に古くから根づく「売り手よし・買い手よし・世間よし」の三方よし精神と、実によく似ている。

全国で約1万7000社 5年で1.5倍に急増

ゼブラ企業は2024年度時点で全国に約1万7493社(日本政策金融公庫推計)に達し、5年間で約1.5倍に増加している。 都市圏だけでなく、人口10万人あたりでは鹿児島県が27.9社と全国トップで、宮崎県や和歌山県もそれに続くなど、むしろ地方でこそ広がっている実態が浮かび上がっている。
政府もこの流れを後押しする。2023年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」では、「地域の社会課題解決の担い手となる企業(ゼブラ企業)を創出し、インパクト投資(※)を呼び込むため、ソーシャルビジネスを支援する地域の関係者を中心としたエコシステムを構築する」と明記された。2024年の骨太方針にも続けて盛り込まれ、2025年6月には「骨太の方針2025」においても、ローカル・ゼブラ企業の育成に向けた社会的インパクト評価(※※)の推進が閣議決定に盛り込まれた。

※インパクト投資

財務的なリターン(利益)だけでなく、社会的・環境的な「良い変化=インパクト」を同時に生み出すことを意図した投資手法。従来の投資が「儲かるか」だけを問うのに対し、「社会が良くなるか」を評価軸に加える。2000年代にアメリカで広がり、日本では2010年代後半から地域金融機関や財団が取り組みを始めた。「お金を社会課題の解決に使う」という発想で、ゼブラ企業との親和性が高い。

※※社会的インパクト評価

事業や活動が社会にもたらした変化を、数値や指標で「見える化」しようとする手法。たとえば「就労支援プログラムで何人が就職したか」だけでなく、「その人の生活がどう変わったか」「地域の課題がどれだけ解決されたか」まで測ろうとする。財務諸表では見えない価値を評価することで、社会性の高い企業が正当に評価され、資金や人材を集めやすくなる環境をつくることが目的だ。

中小企業庁はこうした流れを受け、ビジネスの手法で地域課題の解決にポジティブに取り組みながら収益を確保する「ローカル・ゼブラ企業」の創出・育成支援を本格化させている。 中小企業庁2024年度には全国20地域で地域実証事業が採択され、経済産業省・国土交通省・環境省・農林水産省の多省庁が連携してゼブラ企業支援を加速させている。

滋賀県の先進的な動き「三方よし」の地から

滋賀県は、ゼブラ企業の土壌として全国的にも先進的な取り組みが進む地域のひとつだ。
その代表例が東近江市の動きである。公益財団法人東近江三方よし基金は、東近江市の豊かで特色ある地域資本を活かしつつ、地域の里山保全、次世代育成、世代を超えた交流の場づくり、若者が働きたいと思う仕事づくりなどの社会的事業に取り組む多様な主体を、東近江版SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)等を活用して支援している。 SIBとは、地域課題の解決に取り組む事業に対して出資者から資金提供を受け、事業期間終了時に成果が出れば行政が元本を出資者に償還する仕組み。民間の資金を社会課題解決に動員する画期的な手法だ。
また、京都・滋賀から始まった「ソーシャル企業認証制度(S認証)」は、ESG経営や社会課題の解決を目指す企業に対し、地元の金融機関が社会性・地域性を認定する仕組みとして広がりを見せており、滋賀銀行の「サステナブル評価融資」のように、社会への貢献度も金利や審査に反映させる融資も広がりをみせている。

滋賀銀行の「サステナブル評価融資」

企業のサステナビリティ経営をサポートし、企業価値の向上と持続可能な社会の実現を同時に目指す融資商品。通常の融資が「返済できるか」だけを問うのに対し、この融資では企業と社会の持続可能な成長につながる目標を設定し、その達成に向けて銀行がモニタリングを行いながら伴走支援する。環境・社会・働き方など、財務諸表には表れない取り組みを評価軸に加えることで、「良い会社」が正当に評価される金融の仕組みを目指している。滋賀銀行グループのパーパスである「『三方よし』で地域を幸せにする」を体現した融資制度として、近江商人の地から新しい金融の形が生まれつつある。

「地域のトビラ」で紹介した油藤商事株式会社(青山裕史代表)は、明治28年創業のガソリンスタンドが、廃食油から地域の燃料をつくる「BDF(バイオディーゼル燃料)」の製造・販売に2002年から取り組み、「地域でつくる地域エネルギー」という循環の仕組みをつくりあげた。災害時の燃料支援やBCP対策とも結びつき、130年変わらぬ「必要とされる場所に油を届ける」という経営哲学がそのままゼブラ企業の姿と重なる。
「三方よし」発祥の地から、新しい経営評価の軸が生まれているのは、偶然ではないだろう。

商工会議所がハブになる

ゼブラ企業は、すでに彦根にもある。自覚はなくても、ゼブラ的な実践をしている事業者は少なくない。地域の農産物を活かした加工品づくり、地元に特化した高齢者サービス、古民家を再生した宿泊施設、障がい者雇用を組み込んだ農業など、これらはすべて「地域課題の解決」が重なっている。問題は、その実践がまだバラバラで、言語化されておらず、つながっていないことだ。
商工会議所が果たせる役割はここにある。すでにゼブラ的な実践をしている事業者を見つけ、その取り組みを言語化し、見える化する。次に「伴走」——経営相談、補助金支援、事業承継、販路開拓、金融機関や自治体との橋渡しを通じて、ゼブラ企業の成長を支える。そして「物語化」——会報、セミナー、表彰などを通じて、地域に「社会課題を解く事業だ」というメッセージを発信する。
ゼブラ企業は特別な先進企業だけのものではない。日常の延長線上で、地域の問題と向き合い続ける中小企業のあり方そのものだ。
彦根の経営者が持っている知恵と経験、地域への愛着……それが今、もっとも必要とされているのではないだろうか。

制度名内容・特徴お問い合わせ先
地域課題解決事業推進
(ローカル・ゼブラ企業)
地域の社会課題解決に取り組む企業への伴走支援・インパクト評価の実証事業。毎年度公募あり。採択地域には経営支援も受けられる。 中小企業庁(年度公募)
ソーシャル企業認証制度(S認証) ESG経営・社会課題解決に取り組む企業を地域の信用金庫が認証する制度。認証取得により融資審査での評価向上や社会的信用の可視化につながる。 京都・湖東・各加盟信用金庫
ソーシャルビジネス支援資金 社会課題の解決を目的とする事業の起業・経営向け低利融資。NPOや中小企業も対象。通常融資より低い金利が適用される。 日本政策金融公庫各支店
しがちゅうしんMLGsローン 地域の省エネを促進するため、省エネ設備を導入する事業者向けの融資制度。融資額の0.1%相当額が琵琶湖の環境保全活動へ寄付される。 滋賀中央信用金庫
『しがぎん』サステナブル評価融資 サステナビリティ・リンク・ローン 。SDGsやESGの取組状況と融資条件が連動し、野心的な挑 戦目標を達成された場合に金利等の融資条件を優遇。 サステナビリティ経営をサポートし、企業価値向上と持続可能 な社会の実現を同時に目指す融資商品。 滋賀銀行
企業版ふるさと納税 地方自治体の地域課題解決事業への企業寄付に対し、法人税等を最大約9割軽減。自治体と連携して取り組む事業者の新たな資金調達手段となる。 内閣府・各自治体担当窓口
休眠預金等活用制度 10年以上動きのない銀行口座の資金を社会課題解決に活用する制度。NPOや社会的事業者が対象で、事業費だけでなく組織強化にも使える。 JANPIA・各資金分配団体
ちいさな企業新事業応援補助金 小規模事業者の地域社会の課題解決につながるような新商品・新サービスの開発および販路開拓に必要な経費の一部を補助。 滋賀県
小規模事業者持続化補助金 新商品開発・販路開拓・設備投資などに活用できる補助金。上限50万円(特例併用で最大250万円)。地域課題解決型の事業計画は採択されやすい傾向がある。 彦根商工会議所
ものづくり補助金 革新的な製品・サービス開発や生産プロセス改善への投資を支援。社会課題の解決につながる事業計画は審査で高く評価される。 商工会議所・認定支援機関

※各制度の詳細・公募時期は変更される場合があります。最新情報は各窓口・URLにてご確認ください。