DXとはデジタルトランスフォーメーションの略である。近年ニュースなどでもよく耳にされる方もおられるだろう。日本語に訳せば「デジタル化によって、事業構造・業務プロセスにおいて大幅な改革を行うこと」である。DXは政府目標Society5.0の一角を担う重要項目だ。しかし足元を見れば、具体的にIT化やデジタル化、IoT、AI、5Gなどデジタル関係用語が乱立する中、それらとどう違うの? 結局同じでしょ? まったく意味が分からん、など多くの方が判然としないモヤモヤを抱えているのではないだろうか。経済産業省曰く、DXの「2025の崖」というものを乗り越えなければ日本経済には12兆円規模の機会損失が待っているという。逆の見方をすれば、12兆円規模のビジネスチャンスがあるということだ。そういった状況を鑑み、当所IT推進研究会でも彦根版情報プラットフォームを作るべく検証が行われている。今回の不易流行WEBニュースでは、DXとはいったい何なのか、概要を整理したい。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXは、将来のデジタル市場において勝ち残るための企業変革である。現在〝先端”技術といわれるデジタル技術も、近い将来〝当たり前”の技術となる。DXとは、将来主流になると予想されるデジタル市場において、既存の企業が淘汰されず、勝ち残り続けるために求められる変革なのである。
では、DXとはなんなのか。多くの論文や報告書等でも解説されているが、今般は基本となる考え方だけに留めておく。
DXは、2004年にスウェーデンのストルターマン教授が提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。
経済産業省のDX推進ガイドラインでは「DX」=「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されている。
まず、AIやIoTなどのデジタル技術を単に採用することではないことを理解しなければならない。「製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」、「ビジネスモデルに変革をもたらす」IT活用が、DXなのだ。
現在、多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するDXの必要性について理解していると考えられる。 DXの必要性に対する認識は高まり、そのための組織を立ち上げる等の動きはあるものの、ビジネスをどのように変革していくか、そのためにどのようなデータをどのように活用するか、どのようなデジタル技術をどう活用すべきかについて、具体的な方向性を模索している企業が多いのが現状と思われる。
DXを実行するに当たっては、新たなデジタル技術を活用して、どのようにビジネスを変革していくかの経営戦略そのものが不可欠なのである。
「中小企業から見た障壁」(表1)へ落とし込むと、DXの事例の多くは大企業によるものであり「自分たちにはまだ関係のないこと」「直面する経営課題で手が回らない」と考えてしまいがちである。それこそが第1の壁となっている。まずは中小企業を取り巻くビジネス環境を俯瞰し、実は中小企業の経営戦略こそDXが欠かせないのだということを認識する必要がありそうだ。
しかしそう簡単ではない。近年、働き方改革に伴う長時間労働の是正や、消費税率改正と軽減税率導入、改正労働契約法や改正労働者派遣法による派遣労働者の正規雇用、新型コロナウイルスに端を発する経済不況など、経営を圧迫する事象が続いており、先進的なIT投資が先送りになっているのが現状ではないだろうか。
では、さまざまな経営課題に直面している中小企業でも実践できるDXとは何だろうか。少ない時間と労力とお金でDXに取り組まなければならない中小零細企業の事情がある。大企業が取り組むようなDXとは異なる、中小企業でも無理なく実践できる取り組みを検討していく必要がある。
表1 DXを進展させるための課題・中小企業から見た障壁
IT経営戦略の不在
DXを実行するに当たっては、新たなデジタル技術を活用して、どのようにビジネスを変革していくかの経営戦略そのものが不可欠である。しかしながら、経営者からビジネスをどのように変えるかについての具体的(明確)な方向性がなく、「AIを使って何かできないか」といった指示が出され、PoC※1が繰り返されるだけで進まないケースも多い。
レガシーシステムの足かせ
現状のITシステムにおいて、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、保守・運用コストの増大、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト・非効率構造の原因となり、戦略的なIT 投資に資金・人材を振り向けられていない。
ベンダー企業への依存
ユーザー企業からベンダー企業へ丸投げするケースも少なくない。この状態では、アジャイル開発を推進しようとしても無理がある。ベンダー企業と組むとしても、要件を決めるのはユーザー企業であることを認識すべきである。
ベンダー企業における人員の逼迫、スキルシフトの必要性
ベンダー企業においても、技術者が不足しており、人員増やスキルシフトが困難になっている。これは短期的な解決は難しい。DXに欠かせないクラウド2.0※2の実例は少なく、経験を積む場がない。ユーザー企業は正当な評価を行い、ITエンジニアの技術に見合った報酬を与え魅力ある職種へイメージアップさせる必要がある。
DXを達成するためのステップ
これまでのIT活用の進展の流れを踏まえると、従来のITは、データをアナログな状態から部分的にデジタル化してきたといえる。ここ数年のデジタル技術の進展により、単にアナログデータをデジタルに置き換えるだけでなく、データをよりビジネスに最適な形でデジタル化することが可能となっている。これにより新たな利益や価値を生み出すビジネスモデルへの移行、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいるのだ。 DXが進んだ将来には、デジタル化されたさまざまなサービス同士が相互作用する社会が実現することが予想される。デジタル化の変遷をわかりやすく過去・現在・未来の段階に整理すると表2のようになる。 ここで課題となっているのが2.現在から3.未来への急速な移行というわけだ。2.現在から3.未来への移行、すなわちDXに至る段階について、前述のストルターマン教授によると3つのフェーズに分けることができるという。
- 第1フェーズ IT利用による業務プロセスの強化
- 第2フェーズ ITによる業務の置き換え
- 第3フェーズ 業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態
この第3フェーズとなった状態がDXだ。第3フェーズではITと業務の現場が一体となって、改善活動を高速で繰り返しながら、常に最適な状態を維持し、業務を遂行する仕組みができあがる。IoT(Internet of Things)・IoE(Internet of Everything)といった仕組みで収集した膨大なデータ(ビッグデータ)をAIが解析し、現時点での最適な業務プロセスに自動的にアップデートされる。これによって企業はビジネスモデルや働き方の変革によって、来たるデジタル社会に対応することができるのである。
具体的な中小企業での導入事例などは次回「DX 事例編」で掲載する。