DX(Digital transformation)とは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(不易流行4・5月号特集)だった。DXの超加速は必至、テレワーク、Web会議ができるだけではすまされないと誰もが気づいている。
アフターコロナのNew Normalに、次の一手を打つことができるかどうか。今回はCXを事例を交えて取り上げる。CXは「Customer Experience」の略で「顧客が体験する価値」のことを意味する。

CX×DX

コロナショックで苦しい状況に追い込まれ、新たな取り組みを始めた和歌山のベンチャー企業の事例を紹介したい。
ベンチャー企業A社は2017年設立。「移動を楽しくする」ことをコンセプトに電動バイクを製造販売している。
2020年初旬まで経営は順調だった。投資を重ね海外展開を準備してきたが、コロナショックで断念せざるを得なくなった。多額の投資が蒸発、春先の販売イベントが全て中止、繁忙期の売上消滅、サプライチェーン寸断による生産停滞。瞬く間にA社に四重苦が重くのしかかった。 発想の転換があった……。
苦しいのは自分だけではない。周りの事業者もみんな苦しい。今最も大きな打撃を受けているのは飲食店だろう。自社の強みを生かして何かできることはないかと思い立った。今、自社ができることで、誰かの役にたち、何かに貢献できればいい。「どうやって売るかではなく、どうやって貢献するか」だ。
そう考えることで、ある発想が生まれた。フードデリバリー(配達)業界への提案だった。A社はフードデリバリー用の電動バイクを無償で貸し出し、飲食店への支援を行った。 この取り組みに東京でデリバリーシェアリングプラットフォームを展開するB社が注目し賛同した。「飲食店が従業員を解雇することなく活用し、自前で配送するという新しいデリバリーの仕組み」を実現したのである。
飲食店はまず、B社に出店する。デリバリー用に電動バイクを購入する場合、購入資金の一部(A社から20,000円、B社から15,000円)がキャッシュバックされる。イニシャルコストを軽減し、低いランニングコストを実現した(Uber Eatsの手数料35%に対し、B社手数料は5%)。プロジェクト開始以降、予測を上回る反響を呼んでいる。

*Uber Eats(ウーバーイーツ)
Uberが提携したレストランなどの料理を、パートナー配達員が利用者の指定した場所に届けるフードデリバリーサービス。2016年、日本でサービスが開始。

A社の事例は、窮地からの発想でプラットホーム企業B社との協働(DX)により、顧客(飲食店)のCX向上を果たした好例とされている。

New Normalの前提

DXに成功するためには、しっかりとしたCX戦略が必要であるとはいうものの、GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)と同じ土俵で戦おうとしても勝ち目はない。
しかしCXは、MaaSや前出の事例でわかるように、ネット通販の領域に限ったことではない。利益の創出とソーシャルの課題解決を両立できない企業は存続できないといわれている。言い換えれば、コロナ渦後のNew Normalの課題解決にビジネスチャンスがあるということだ。但し、DXが前提となる。
日本企業は変化を恐れ、新たにチャレンジすることを躊躇する傾向にある。トップが企業を変えるという強い意志を持ち行動に移さない限り、DXは成功しない。企業のCEOが関与しないIT戦略のほとんどは失敗に終わるとまでいわれている。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」。進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンの言葉だ。デジタル技術を駆使して、顧客が体験する価値を高め、既存のサービスやビジネスモデルを大きく変革させるDisruptor(ディスラプター:破壊的創造者)になる覚悟、今までにないビジネスを創りあげる勇気が必要なのかもしれない。

*Disruptor
ディスラプターとは、関係のなさそうな業界から、突然死角をついて、横からシェアを切り取っていく戦法及び存在のこと。今後ディスラプターとして業界に突然入り込むことが予想されるのが「所有」から「共有」のビジネスを展開するシェアリングエコノミー企業といわれている。例えば、ホテル・宿泊業界Airbnb、飲食業界のUberなど。

今まで以上に、イノベーティブな思考が必要であり、イノベーションが起きやすい環境を創ることが求められている。課題解決のアイデアやユニークなサービスは「人」によって生み出される。高いソフトスキルを持った人材の育成と活用、雇用もDXを成功させるポイントとなる。

コロナショック支援施策

各国政府は新型コロナウイルスの感染拡大防止対策を進めると同時に、経済対策においても800兆円超の財政出動で応戦する。日本国内では日銀の大規模な金融政策、実質無金利の金融政策、雇用調整助成金、休業に係る支援金、持続化給付金、持続化補助金の拡充、個人への給付金など各国政府でも規模に差はありながらも同様の政策を打ち出している。
当所中小企業相談所では、深刻化する新型コロナウイルス感染症拡大という前例のない状況のもと、域内の中小企業者のみなさまの経営を強力にサポートするため、国などの各種支援施策を、個々のニーズにあわせて親切丁寧・的確にご案内している。
上手く活用し、New Normalの課題解決に挑んでみてはどうだろう。