新型コロナウイルスの感染は依然留まることを知らない。一時は国内で把握される新規感染者数が減少し、収束に向かっているように見えたが、「第2波」が起こっていると捉えざるを得ない状況において、我々経済界はどのように未来を切り拓いていくのか。向かうべきはどの方向だろうか。
延期された東京オリンピック・パラリンピックを始めとした失敗が許されないビッグイベントの開催が次年度に予定されている。ワクチンの提供によって元の生活に戻ると考えるのは、危機管理の観点から見ても容易ではない。かといって、再び緊急事態宣言を発令し、これ以上経済をストップさせるわけにもいかない。本当の意味で危機が去るまでは、新しい生活様式「New Normal」が、当たり前「Standard」になったなかで、経済活動と共存させていかなければならない。
不易流行特集では、コロナ禍中、経済活動を再開する上で考慮しなければならない生活様式、New Normalとは、具体的にどのような規範があり、コロナ禍において果敢に経済活動を再開する事例の一部を紹介する。同時に、今回はイベント・宿泊編と題して、それぞれの業界のNew Normalについて整理する。

New Normalとは

言葉は、リーマンショック後に起きた変化に対して、非日常が新しい常態になるという文脈で、提唱された概念である。当時、日本語としては「新たな常態」、「新常態」と訳されていた。
ではなぜ同じ「New Normal」という言葉が使われたのか…。共通するのは、「かつての日常に戻ることができない」という点である。
例えば、感染症対策のために、仕方なく授業を遠隔にするのではなく、遠隔授業ができるのなら、各学校に各分野の教師一人が本当に必要なのか? レベルの高い講師による一斉遠隔配信によって、生徒の平均的な学力が向上する可能性はないか?
一方、現場の教師は、生徒ひとり一人と向かい合い、必要な精神的なフォローを行い、生徒らの人生の可能性を拓くことができるかもしれない。こういった良い変化が、各業界、各分野で起こるとすればコロナショックが通り過ぎた後に、元に戻すべきではない。
リーマンショックのような金融危機の場合は、金融分野の対策を講じれば、未然に防いだり、影響を最小限にすることができよう。しかし、コロナ禍における影響は、実態社会を発端としているため、各現場のさまざまなシチュエーション、つまり人と人が接する場面、全てにおいてNew Normalを検討しなければならない。ここが難解であり、ポイントなのだ。
第1波が猛威を振るった5月、内閣官房は81業種に及ぶ新型コロナ対策業種別ガイドラインを公表した。ホテル・旅館などの宿泊業に対するガイドラインも発表されている。しかし、その中には最も注意しなければならないイベント・広告代理業のガイドラインが存在しない。そこで今回のイベント・宿泊編では、各々の先行する事例を参考に考慮すべき点を記しておく。

具体的なNew Normal【ホテル・旅館編】

星野リゾートでは、長期化する「with コロナ時代」の在り方として、お客様とスタッフ、お客様同士の視点で3密が発生しにくい環境づくりに取り組み、「最高水準のコロナ対策」を目指していくことを宣言した。

「最高水準のコロナ対策」宣言のポイント

1. 衛生管理

  • チェックイン時の検温実施の確認・通常の客室清掃に加え、ホテル館内のアルカリ電解水による清掃と拭き上げ
  • 館内各所に除菌用アルコールを設置
  • 全客室に手指消毒用アルコールを設置
  • レストラン入店時に全てのお客様へ手指のアルコール消毒を実施
  • 食器類(お皿、グラス)やカトラリーの高温洗浄(80度以上)、食事用トレイの除菌洗浄
  • フロントにパネルやビニルシートなどのパーテーションを設置
  • 館内での接客業務の際にマスクを着用
  • スタッフの健康と衛生面の管理徹底(出社前の検温と記録確認)

2. 3密回避

  • 混雑度がスマートフォンで分かる3密の見える化サービス実施(一部施設)
  • 滞在中、混雑が確認された場所での、入所・入店規制
  • レストランの混雑状況を管理し、入店時間の分散化
  • チェックアウトのフロント精算時に、入列規制を適宜実施

3. New Normalビュッフェ

  • レストランを利用できるのは、検温済の宿泊者のみ
  • 感染能力を無力化、抗ウイルスコーティング「メディカルナノコート」を塗布
  • すべての料理に、飛沫感染対策のアクリル製カバーを設置、配置も工夫
  • お客様全員に、マスクと手袋をご用意
  • ソーシャルディスタンスを確保する専任スタッフを配備

宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会、全日本シティホテル連盟)

具体的なNew Normal【イベント編】

(株)TOWは、1976年7月に有限会社テー・オー・ダブリューとして設立以来、一貫してイベントに関する企画・制作・運営・演出・管理等を手がけてきた。イベントが広告ツールとして社会的に認知され始めた大阪万博以降、今日まで常に広告業界のリーダーシップを取り続けてきた。TOWは、「イベント」 が持つ効果や利点を最大限に活かし、同時に新型コロナウイルス感染症の感染拡大リスクを最小限に抑えたイベントの新たな様式「New Normal・イベント」 を提唱している。

「New Normal・イベントガイドライン」のポイント

1. イベント企画立案の新しい様式「New Normal・イベントフォーマット」

  • 収容数と換気環境を考慮した「会場選定」
  • 密集・密接を避けた「空間設計と計画」
  • セルフ対応による「接触頻度の少ない運営」
  • 少人数制×複数回実施による「体験機会増」
  • オンラインを活用した「非接触型の商品訴求」
  • 配信などを活用した「参加対象の拡大」

2. 安全なイベント実施のためのチェックリスト / マニュアルの整備

  • イベントの類型や制作工程ごとに、守るべき150項目のチェックリストを整理
  • 7分類(セミナー・カンファレンス、展示会、ポップアップストア、サンプリング、試乗会、販促イベント、記者発表)のイベント実施時の運用方法をマニュアル化

3. イベント来場者の記録・管理・周知システムの確立

  • QRコード個人情報管理システムの構築
  • QRコード登録の実施
  • 感染者発生時の対応

4. 感染リスクを低減する物資の調達と適正配備

  • 換気設備の調達と配備
  • 消毒資材の調達と配備
  • 体調管理資材の調達と配備
  • 物理的防御資材の調達と配備

(株)TOW社 New Normal・イベントガイドライン

お客様や来場者、スタッフも安心して参加できる、それが「New Normal Standard」

各業種ともに非常に細かいNew NormalのStandardを設けている。前述のガイドラインや事例は、事業や予算規模などを考慮すると個々ですべてに対応することは難しいかもしれない。しかし、このNew Normalのガイドラインを一つの指標としながら参加者の性質などを踏まえ、できる限りの対策を講じることで、コロナ禍においてもお客様や来場者、スタッフも安心して参加できるイベントや施設になる。
次回は、彦根で今年開催が予定されているイベントのNew Normal Standardを紹介する。