新型コロナウイルスの感染は依然留まることを知らない。一時は国内で把握される新規感染者数が減少し、収束に向かっているように見えたが、「第2波」が起こっていると捉えざるを得ない状況において、我々経済界はどのように未来を切り拓いていくのか。向かうべきはどの方向だろうか。
延期された東京オリンピック・パラリンピックを始めとした失敗が許されないビッグイベントの開催が次年度に予定されている。ワクチンの提供によって元の生活に戻ると考えるのは、危機管理の観点から見ても容易ではない。かといって、再び緊急事態宣言を発令し、これ以上経済をストップさせるわけにもいかない。本当の意味で危機が去るまでは、新しい生活様式「New Normal」が、当たり前「Standard」になったなかで、経済活動と共存させていかなければならない。
不易流行特集では、コロナ禍中、経済活動を再開する上で考慮しなければならない生活様式、New Normalとは、具体的にどのような規範があり、コロナ禍において果敢に経済活動を再開する事例の一部を紹介する。同時に、前回はイベント・宿泊編と題して、それぞれの業界のNew Normalについて整理した。今回は、彦根で今年開催が予定されているイベントのNew Normal Standardを紹介する。

※New Normalとは

言葉は、リーマンショック後に起きた変化に対して、非日常が新しい常態になるという文脈で、提唱された概念である。当時、日本語としては「新たな常態」、「新常態」と訳されていた。共通するのは、「かつての日常に戻ることができない」という点である。コロナ禍における影響は、実態社会を発端としているため、各現場のさまざまなシチュエーション、つまり人と人が接する場面、全てにおいてNew Normalを検討しなければならない。ここが難解であり、ポイントなのだ。

宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会、全日本シティホテル連盟)

(株)TOW社 New Normal・イベントガイドライン

彦根のNew Normalなイベント

前回のガイドラインや事例は、事業や予算規模などを考慮すると個々ですべてに対応することは難しいかもしれない。しかし、このNew Normalのガイドラインを一つの指標としながら参加者の性質などを踏まえ、できる限りの対策を講じることで、コロナ禍においてもお客様や来場者、スタッフも安心して参加できるイベントや施設になる。
コロナ禍で開催を見合わせていた「彦根ヒストリア講座」は、ソーシャルディスタンス・消毒・検温・マスク・定員制限など感染防止対策を万全に、9月11日「織田信長の章」・講師 桐野作人氏を迎え開講。10月14日には「蒲生氏郷の章」・講師 谷徹也氏を迎えて開講する(全6講)。
また、彦根市でも9月以降、New Normalなイベントが企画されている。今号では10月10日〜11月23日に開催される「BIWAKOビエンナーレ 2020」について紹介する。彦根の観光業へのインパクトも期待でき、イベント主催者、ホテル・旅館、各々がウイルス感染防止対策を講じながらNew Normal standardに挑むことになるだろう。

BIWAKOビエンナーレとは

ビエンナーレ(biennale)は、イタリア語で「2年に一度」「2年周期」を意味し、現在では2年に1回開かれる美術展覧会のことを指す。語源となったヴェネツィア・ビエンナーレは、世界中から美術作家を招待して開催される展覧会として100年以上の歴史を持つ。1990年代以降は世界中にこうした国際美術展が増え、多くは普段見ることのできない世界の美術を一堂に集め、美術関係者や住民同士の国際交流や地域の活性化を目的に開催されている。
2001年、21世紀の幕開けとともにBIWAKOビエンナーレは、大津市の湖岸に位置するびわ湖ホールとその周辺公園で始まった。前例のなかった公共空間における作品展示やコンサートの開催は、その後の活動への突破口を開くこととなった。2003年、2回目より「日本人の持つ美意識の回復」を目的に、拠点を近江八幡に移し、以後、8回開催。地域固有の文化を特徴付けるものとして未来へと継承していくべき貴重な財産である伝統的な建造物、江戸明治期より残る空き町家、元造り酒屋や元醤油蔵などを会場に、既に、多くの歴史的な建物を失ってしまった今、その保存と継承の方法をアートに見出そうとする試みがなされている。
国際交流という観点でも、初回より海外作家を招き、地域の方々との交流を図ってきた。今やBIWAKOビエンナーレ自体が地域の恒例行事となり、参加アーティストやインターン生たちは、地域のお祭りの山車造りにも参加するなどますます地域に溶け込むようになっている。今回は、近江八幡に加え、国宝彦根城を抱く彦根の市街地も会場となる。
彦根会場では、彦根城の櫓や庭園、また市街地の昭和レトロな商店街、昨年140年の歴史に幕を閉じた銭湯など、地域の風情あふれる会場での開催となる。この秋、約1か月半の間、この美の祭典が彦根の街でも繰り広げられ、作品とともに町の魅力も存分に楽しめるよう工夫を凝らした準備が進んでいる。

多彩な出演アーティスト!全61作家でポストHACに挑む!

BIWAKOビエンナーレ 総合ディレクター 中田洋子氏から「今年、20周年を迎えるBIWAKOビエンナーレ。その記念すべき年に念願の彦根での開催が実現することとなり、本当にうれしく思っております。新型コロナは、未だ終息してはおりませんが、アートが不安に苛まれる人々の心を癒し、展示会場を巡ることで風情ある彦根の町自体も楽しんでいただくきっかけとなれば幸いです」とメッセージが届いている。
2017年の国宝・彦根城築城410年祭にHIKONE ART CASTLE(HAC)が開催されたことは記憶に新しい。彦根城を始め、城下の町家も活用して気鋭のアーティストや芸術大学生のアーティスト・イン・レジデンス(各種の芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在しながらの作品制作を行う事業)による作品など数十点が展示された。国宝・彦根城築城410年祭終了後もポストHACを望む声が少なからずあったものの、後に続くことはなかった。今回BIWAKOビエンナーレが彦根会場に展開されることは、ポストHACを望んでいた彦根市民にとってはうれしい知らせとなる。
コロナ感染防止対策により、従来どおりの開催やその後の展開を見込むことは難しいかもしれない。しかし、既に多くの読者が気づいているだろうが、BIWAKOビエンナーレは、2024年世界遺産都市となるだろう彦根にとって、大切なイベントとなる。観光産業に寄与するばかりでなく、会場を巡るモビリティ、予約や入場チェックができるスマートフォンを使ったシステム開発、ボランティアの報酬は地域通貨で支払い消費が地域に還元されるようにするなど、New Normalの課題解決につながっている。また、アーティスト・イン・レジデンスの実現やアーティストの地域への移住など、スタッフばかりでなく市民のホスピタリティも問われるだろう。
BIWAKOビエンナーレがポストHACとして、彦根のよりよい未来と経済の循環をもたらす継続的な彦根のアートイベントとして根付くことを期待したい。

New Normal Standardとは、清潔と安全を保障する安心の確保が前提になっている。地域間競争においてもビジネスにおいても安心の確保は大きな差別化の手段となるばかりでなく、集客にも影響する。今回BIWAKOビエンナーレの会場は従前の近江八幡会場に加え、彦根に9会場を設置し、一定の3密回避の効果が見込めるだろう。さらにチケットには、新型コロナウイルスの影響を受けて、次の注意事項が加わっている。

  1. 3密回避
    チケット各種で期間中、各会場1回限り入場可能。
    チケット各種で期間中であれば、日をまたいでの使用も可能。
  2. 検温
    入場前に検温を実施し、発熱や風邪の症状のある方の入場禁止。
  3. 消毒
    入場前に手指の消毒の徹底。
    消毒に応じて頂けない方の入場禁止。
  4. 来場者記録
    入場の際に、感染ルート確認のため、氏名・住所・電話番号・生年月日記入の徹底。
    連絡先の記入に応じない方の入場禁止。
  5. ソーシャルディスタンス確保
    会場内では他の来館者との適切な距離、1.5~2m間隔の徹底。
    混雑時の入場制限。
  6. 飛沫防止 入場前にマスクの着用の徹底。
    マスクの着用に応じて頂けない方の入場禁止。
    対面、または接近した距離での大声の発声や会話はもちろん、私語を極力控えるよう注意喚起。
  7. クラスター発生時の対応
    感染拡大状況を注視し、状況の悪化が予想される場合は中止。
    来場者やスタッフに感染が疑われる場合は、速やかに医療機関及び保健所へ連絡し、指示を仰ぐ。
    コロナウイルスの感染状況により、コンサート等をリモート化。