人類は新型コロナウイルスと共存する「ウィズコロナ」、自粛をできるだけ影響のない範囲で続けていく「New Normal(ニューノーマル)」という道を選択せざるを得ない。「ウィズコロナ」と「ニューノーマル」の先に「アフターコロナ」がある。
世界では感染者が2000万人を超えた。足元の実質経済は冷え切り、見かねた各国政府は見切り発車の緊急事態宣言解除に踏み切った。融資や給付金、補助金にも限界がある。経済活動を再開せねば、経済停滞による人命リスクは高まる一方だろう。ニューノーマルの営業スタイルに切り替え、全業種が再起動し、経済を循環させていくほか道はない。それには各自が危機を乗り越え、利益を生み出す構想が必要だ。
リーマンショックの時に注目された「地域経済循環」という考え方がある。不易流行5月号の柴山桂太氏連載「コロナ禍の中の希望 新たな時代の胎動」でも触れられているように、このフレームワークは、県外移動の自粛を要請された場合、人口密度が低く、比較的感染者の少ない地方都市においては、今世紀最大のチャンスとなる。前回の不易流行WEBでは、地域経済循環の考え方を整理し、今回は後編として彦根における地域経済循環を検証したい。

地域経済循環、彦根の課題

彦根への人口流入はありえるか

地域経済にとっては、人の流れや物の流れが地域に回帰する契機となる。例えば、転職情報サイトの「学情」が4月24日から5月1日に実施した調査では「U・Iターンや地方での転職を希望する」と答えた人は36.1パーセント、2月に比べて14.3ポイント増加した。理由としては感染への懸念や地元への貢献意識の高まり、働き方の見直しなどがあがっている。どこに住みたいか、どこで仕事をしたいか、答えの一つとして「地方」を選ぶ人が増える可能性がある。 更に、ウェブ会議やリモートワークを支えるデジタルツールの導入が進み、遠隔システムが一度出来上がってしまえば、必ずしも大都市に生活の拠点を置く必要がなくなる。移住促進に力を入れてきた地方自治体側は改めて受け入れ体制を充実させる必要がある。
また、DXが加速しリモートワークが標準化するであろうニューノーマルの社会では、地域の企業は自社に必要(最適)なスキルをもつ人材を「時間単位」で雇うことができるようになる。国内ばかりでなく世界中から有能な人材を得ることができるということだ。
コロナ禍によるニューノーマルに起因する「ローカライゼーション」は新たな都市間競争を予感させる。彦根の未来に対する新たなビジョンと投資が必要となる。

V字回復はあり得るか

政府では6月中旬に第2次補正予算が成立し、100兆円を超える過去最大の補正予算となるなか、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者への経営支援だけでなく、観光業のV字回復を支援する目玉施策として、経済産業省の「GO TO キャンペーン」に約1.7兆円が計上された。今回最も影響を受けた観光業を支援しようとするものだ。6月10日に行われたびわこビジターズビューロー総会でも滋賀県知事を中心にこのキャンペーンも活用しながら強力に観光業を支援していくことが確認された。各支援施策が功を成し、多くの業種がV字回復することを前提として、支援対象外の業種へもトリクルダウン(「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)する」経済理論)が起きること期待したいところである。
デービッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社 代表取締役社長)は、『月間事業構想7月号』(事業構想大学院大学出版部)に掲載されたインタビューで次のように答えている。
「観光施策が情報発信に偏っていることが大きな問題であり、それよりも観光インフラへの投資に力を注ぐべきです。PR動画など、無駄な情報発信に使われています。今の時代、人をだますことはできません。古い屋敷が数軒あるだけなのに、あたかも趣のある城下町のような大げさな情報発信をしても、SNSや口コミが影響力を持つ現在では、それで人を惹きつけることはできません。(中略)貧弱なインフラでは、観光で稼ぐことはできません。観光ビジネスはモノの本質で勝負するしかなく、魅力的な場所であれば、そこを訪れた観光客が自ら情報発信してくれます。まずは、旅ナカでお金を落としてもらうためのインフラ整備が重要であり、そのうえで情報発信を行うべきです」。
2024年に彦根城の世界遺産登録を目指す彦根にとってコロナ禍のなか、いま一度、地域ストック(伝統・文化も含む)を再発見しニューノーマルの時代における観光を見直すチャンスであろう。地域経済団体である当所としては、今回影響を受けたあらゆる業種の方々へできるだけ早くV字回復の恩恵を受けていただけるようお手伝いをすることが使命である。V字回復を果たした方々には特に、今こそ、地産地消に加えて、あらゆる地域のサービス「地サービス」をご利用いただきたい。そしてその良さを広く伝えていただきたい。それこそが机上の空論ではない単純明快な地域経済循環ではないだろうか。
アフターコロナ以降、地産地消型や環境、エネルギーに対する関心が高まり、「購買活動そのものが生産者や事業者の支援につながる」という価値(貢献・共感)を多くの消費者が認識するようになったといわれている。社会の課題と向き合い、「良さ」だけではなく、プラスαとなる何を伝えるかが問われる時代なのだ。