コロナ禍は長期化の様相を呈している。先行きが見えない状況下で、我々はニューノーマル時代に対応した、新たなビジネスモデルを構想し具現化していかなければならない。
今回の不易流行は、前段で当所小出英樹会頭の年頭挨拶のポイントと経産省令和3年度方針の骨子を過去の偉人たちの言葉に照らし合わせて考察する。後段で『「新たな日常」の先取りによる成長戦略』の「中小企業・地域」から中小企業に関連する支援施策をピックアップして紹介する。

「新たな日常」の先取りによる成長戦略

デジタル改革

  1. デジタルを活用した産業の転換
  2. デジタル基盤・ルールの整備

グリーン社会の実現

  1. 脱炭素化に向けたエネルギー転換
  2. 循環経済への転換

中小企業・地域

  1. 「新たな日常」下での中小企業支援
  2. 地域経済の強化と一極集中是正

レジリエンス、健康・医療

  1. サプライチェーン強靱化・サプライネットの構築
  2. 経済・安全保障を一体として捉えた政策の推進 3.国民の命を守る物資の確保
  3. 予防・健康づくりの実現

人材育成、イノベーション・エコシステムの創出

  1. 変革を実現する人材の育成
  2. イノベーションエコシステムの創出

経済産業省関係 令和2年度3次補正予算案・令和3年度当初予算案のポイント

会頭年頭挨拶のポイントと経産省令和3年度方針の考察

POINT1 デジタルトランスフォーメーション(DX)への挑戦

デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術による業務やビジネスの変革をいう。行政業務もビジネスの世界においても、デジタル・ICTの進化により従来型のサービスから効率的で生産性の高い仕組みに変革することが喫緊のテーマである。コロナ禍を契機として新たなステップやシステムへの一歩を踏み出し、希望を持ってマイクロDXへ挑む。
かつて天然痘による荒廃から世界遺産「奈良の大仏」が生まれ、「墾田永年私財法」という新しい仕組みが生まれた。建立の背景には、聖武天皇が当時日本で大流行していた天然痘(人口の4分の1以上が死亡)で荒れ果てた国土を回復させ、人心をひとつにし、社会を安定させるために建立したとされている。
新型コロナウイルスにより引き起こされたパンデミックで、接触回避を考慮したビジネス環境を早急に整備する必要があり、「デジタル改革」が急務となった。
世界遺産都市を目指す彦根は、世界標準のシームレスな社会(子どもたちから高齢者、障がいをもつ人々がストレスなく、ともに暮らす継ぎ目のない共生社会)・ダイバーシティ(性別・国籍・人種・年齢など様々な違いを問わず多様な人材を認め、お互いに高め合うことができる社会)を目指すことによって、シフトチェンジ、ゲームチェンジ(従来の枠組み・ルールが崩壊し、新たなものに切り替わること)を図ることができるだろう。同時に健康推進による経営の効率化や医療体制の整備も予断を許さない。これらすべてに対応するためにはまさに「イノベーションエコシステム」、つまりイノベーションや革新が自然発生的に生まれる仕組み、地域経済界の生態系を整備する必要がある。
日本が目指すべきイノベーションエコシステムを経済産業省は次のように説明している。

  1. 事業会社とベンチャーによる価値共創によって新たな付加価値を創出。
  2. さらに、大学・国研の【知】が産学「融合」によってシームレスかつ迅速に市場へと繋がる。
  3. これらの結果、グローバルに通用するサービスを創出。 その利益や人材を還流。

経済産業省 産業技術環境局「新たなイノベーションエコシステムの構築の実現に向けて」

難解に思われるが、実はとても簡単なことで、我々に最も求められているのは、私事として捉える姿勢である。渋沢栄一翁は「論語と算盤」の中でこう述べている。「何事においても蟹穴主義が肝要だ」と。蟹穴主義とは「身の丈を知るも、その身の丈を大きくしていくための努力を惜しまない覚悟」のことである。
デジタルトランスフォーメーションは、企業(事業所)にとって、事業拡大のチャンスだといわれている。グローバル化を目指すことも大切だが、社内改革のチャンスでもある。また、商品開発から販売までのスピードをデジタル化によって加速することもできるだろう。まず自社にとって、何処にチャンスがあるのかを知らなければならない。世界のフィジカルな移動が制限され、オンラインでの商談や交渉の機会が急拡大する近未来は、中小企業や地方都市にとっては追い風なのである。

POINT2 アニマルスピリット / 先駆的な地域の取り組みへの挑戦

「アニマルスピリット」は、経済学者ケインズが使って有名になった言葉である。これからの時代において広義な意味の「新たな挑戦・野心的な情熱意欲・動物的な野心・合理的な創造」と解釈できる。組織や事業を再構築するとき、経験の重視・安心安定への過度なこだわりを再考し、既得権打破・規制改革などを進めるためには「アニマルスピリット」が必要となる。
『「新たな日常」の先取りによる成長戦略』では、「ウィズコロナ/ポストコロナ時代に求められる構造転換に向け、長期視点に立った日本企業の変革を後押し・加速」することを謳っている。構造転換は経営者・従業員、ひとりひとりの精神性に深くかかわっている。事業を構想し実現するのは人なのである。
コロナ禍がもたらした不可逆的大変化の時代に求められるのは、今までのように経営分析に長けたリーダーではなく、全体善・公共善のために企業(事業所)の未来をデザインし、具現する能力を備えていなければならない。
幕末、開国を英断した井伊直弼は、欧米諸国との軍事力の差を認め、交易を進め、年月を経て必勝万全を得るだけの力を蓄え、いずれは「鎖国」に戻すことも想定していた。単なる開国論ではなく、長期的な視野に立ち、欧米諸国と対等に渡り合おうとしたのである。直弼の構想は近代日本を創造した明治政府の方針と同じだ。天保6年(1835)10月、「神心流居相表之巻」に次のように表している。
「柳を見るべし、風にも折れず、雪にも折れることなく、万代朽ちずして翠ますます栄をなす。予、軒に柳を植えてこれを観るに、当門の居相の境地、ただこの一樹にあり」。
柳のように世の流れに逆らわず、禅や諸芸の修養に裏打ちされた心に秘めた強い意志を示している。
コロナ禍の現状、今までのやり方が通用しないのは明白である。その状況を打破するためには「デジタル改革」が効果的であり、コロナ禍を経験したからこそ、未来に起こりうるあらゆる厄災から事業所を守り発展させる「レジリエンス」、つまり「しなやかな強さ」が必要なのだ。

POINT3 グリーン社会への対応

新政権のひとつの柱となる政策は、「グリーン成長戦略」としての2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現である。気候変動に対応した「経済と環境の好循環」を進める産業政策で、世界中で取り組んでいる課題だ。カーボンニュートラルを始めとしたグリーン社会に寄与するビジネスへと各企業単位で変革する必要がある。地域の事業所では、自社の経営方針にSDGsを始めとした、Environment、Social、Governanceの要素を盛り込んでいくことが第一歩だろう。ESGがファイナンス分野で評価される現代においては、社会的な評価向上とともに資金調達において優位に立つことができる。思わぬビジネスに展開していく可能性もあるだろう。
現在SDGsとの関係が深い、ESG投資が世界で3,000兆円規模に膨らみ、全体善・公共善を目指した経営へシフトしなければ確実にこの世界の潮流から取り残されることは明らかだ。
ピーター・ドラッカーは「変貌する産業社会」の中でこう述べている。「革新は一種の冒険である。それは将来の、しかもきわめて不確実な成果を得るために、現在の資源を投入することである」。事業の革新においても、リスクなくして成功はない。
ニューノーマルの時代、先行き不安な要素をいかに払拭していくか、それを産官学の連携(イノベーションエコシステム)によって見出していくことが重要なのである。

POINT4 地域人材の育成

地域においてはジュニア世代・シニア世代を含めた全市民型の人材育成プログラムが重要である。「夢と未来を語れるひとづくり」をテーマに、産官学一体となって取り組む。
スティーブ・ジョブズ曰く、「即戦力になるような人材なんて存在しない。だから育てるんだ」。持続可能な地域経済の発展の鍵は人材の育成にかかっていると言っても過言ではない。大手企業よりも「中小企業・地域」においてデジタル人材育成を図る方が伸びしろが大きい。コロナ禍は各事業所や個人のグリーン・デジタルリテラシーを高めスキルアップを図る絶好の機会なのだ。
当所が推進する「ジュニアITスクール」「プログラミングコンテスト」など、ジュニア世代・シニア世代を含めた全市民型の人材育成プログラムは、「イノベーションエコシステム」構築の第一歩となるかもしれない。

「第1回ひこねKidsプログラミングコンテスト」

当所IT推進研究会が企画運営したこのコンテストは、小学生のプログラミング学習における新たな目標設定や意欲向上、個性やアイデアあふれる作品の創造を通してより多くの小学生がプログラミングに興味をもつ機会を創出することを目的とした取り組み。

商工会議所を通じた支援メニュー

経済産業省は、中小企業の生産性向上を促進するため、みなし中小企業者(※)への支援強化等の成長段階に応じた支援や補助金により中小企業の成長発展を後押しするとともに、事業継続力強化の基盤の整備を図ろうとしている。

※みなし中小企業者
地域未来投資促進法に基づく地域経済牽引事業計画の承認を受けた事業者は、事業計画の実施期間(最大5年)について、中堅・大企業に事業拡大後も中小企業とみなされ(みなし中小企業者)、中小企業向け支援を継続して受けられる。

具体的には、中小企業のAI・IoTなどを活用した産学官連携のものづくりを支える技術の研究開発、新しいサービスモデル開発、経営資源引継ぎ(事業承継、M&Aなど)、中小企業の円滑な事業再生や経営者の再チャレンジに向けた支援、サプライチェーンの強靭化、などに対して以下の補助施策(抜粋)を打ち出している。

  • キャッシュフローを守る
    「新型コロナウイルス感染症特別貸付(日本政策金融公庫)」「マル経融資の金利引き下げ(通称:コロナ マル経)(商工会・商工会議所)」「危機対応融資(商工中金)」「新型コロナウイルス関連 滋賀県中小企業者向け制度融資(民間金融機関)」「特別利子補給制度(実質無利子)」など
  • 雇用を守る
    「雇用調整助成金」「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」「産業雇用安定助成金」など
  • チャレンジを応援
    「IT導入補助金」「ものづくり補助金」「持続化補助金」「中小企業等事業再構築促進事業(詳しくは本メールマガジン「新型コロナウイルス関連緊急経済対策のご案内」に掲載)」「生産性革命推進事業」
  • サプライチェーンの強靭化
    「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業」「海外サプライチェーン多元化等支援事業」
  • 事業を守る
    「事業承継・引継ぎ補助金」
  • 観光を守る
    「Go To キャンペーン」「Go To Eat」「Go To 商店街」
  • 世界・SDGsに通用するスタートアップ企業を強力に育成・支援!(イノベーションエコシステムの創出)
    J-Startup企業(※)の国内外展開支援、SBIR制度(※)や事業会社との連携促進等を通じた研究開発型スタートアップを育成し、併せて、出向起業等による新規事業の創造を促進することで、AI、素材(マテリアル)、センサー利活用(センシング)といった社会課題解決や新産業創出につながる分野への研究開発を推進する。ITツールの改善によるサービス業等の中小企業の労働生産性向上を図り、新型コロナウイルスへの対応も含め、分野横断的な課題等における機動的かつ戦略的な国際標準化を推進する。
  • 健康〜健康な暮らしの確保・中小企業も含めた医療機器ものづくりを支援!
    当所でも推進する健康経営を後押しする。また、健康情報等に基づく医学的根拠・裏付けを活用した評価指標・手法を確立し、優れた製品・サービスの創出を促進する。経営者や従業員、投資家等が評価できる仕組みづくりを通じて、健康経営の見える化と健康投資を促進する。

※J-Startup企業
経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム。日本では約1万社のスタートアップが日々新しい挑戦をしているが、グローバルに活躍する企業はまだ一部。世界で戦い、勝てるスタートアップ企業を生み出し、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供する企業の育成を目指している。

※SBIR制度(中小企業技術革新制度)
中小企業による研究技術開発とその成果の事業化を一貫して支援する制度。関係省庁が連携し、中小企業の研究・技術開発を補助金等で支援する。補助金等を受けて研究開発をし、その成果を事業化する際には様々な公的支援を用意している。これまでSBIRを活用した中小企業は、自社の技術開発力アップや事業化に役立てている。

これらを継ぎ目なく実施するため、新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業が早期に経営を安定化させ再起を図れるように伴走型支援の相談窓口を設置する。想定される相談窓口は次のようなラインナップになっている。「事業承継診断や譲渡・譲受事業者間の橋渡し等を行う一元的な支援体制」「専門家活用」「消費税転嫁状況を含む取引実態Gメン調査」「サプライチェーン全体にわたる取引環境の改善支援」「よろず支援拠点」「商工会議所・商工会等による経営相談」「新たな生活様式に対応した展示会等イベント産業の高度化を含めた新たなビジネスモデル変革」「「パートナーシップ構築宣言(※)」の拡大等を通じて、フリーランスも含む中小企業・小規模事業者への「取引条件のしわ寄せ」の防止・下請取引の適正化」を各々連動させながら、サプライチェーン全体での付加価値向上や、規模・系列等を越えたオープンイノベーションなどの新たな連携を促進する構えだ。

※パートナーシップ構築宣言
経団連会長、日商会頭、連合会長及び関係大臣(内閣府、経産省、厚労省、農水省、国交省)をメンバーとする「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」において、「パートナーシップ構築宣言」の仕組みを創設。「パートナーシップ構築宣言」は、サプライチェーンの取引先や価値創造を図る事業者の皆様との連携・共存共栄を進めることで、新たなパートナーシップを構築することを、企業の代表者の名前で宣言するもの。

幸い、地域ビジネスにおいて様々な施策メニューの情報収集やそれらを連動させた伴走型の指導が受けられる場所が、まさに商工会議所である。更に当所では、アニマルスピリットの源泉になりうる彦根地域のアイデンティティ、歴史、文化、誇りを醸成するための取り組みにも力を入れている。革新の心持であればぜひ相談していただきたい。
夢を語り、新たな事業に挑戦する企業文化が求められる時代がいよいよ到来する。