地方創生テレワーク交付金 高水準で採択

少子高齢化と東京一極集中が進み、コロナ禍において従来のビジネスモデルが大きな変革を迫られている。事業所のデジタル化への対応が遅れており、世の中のニーズに対応したビジネスが確立できていない。さらに、社会課題を解決すべきスタートアップ企業も少なく、挑戦するマインドを持った人たちへの支援体制も充実しているとは言えない状況である。
このような多くの課題を抱える現状に対して、国では感染症克服と経済活性化の両立のため、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、東京圏への一極集中、人口減少等の課題解決に向けた取り組みを支援する「地方創生テレワーク交付金」が、内閣府の令和2年度3次補正で創設された。この交付金は、都市部から地方への人の流れをつくり出すテレワークを推進することにより、活力ある地域社会の実現を目指すためのものである。
具体的には、サテライトオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペース(※)等の整備・運営等により、地方への新たなひとの流れを創出する地方公共団体の取り組みに対して補助される制度で、高い目標設定と先駆的な要素が必要な「高水準タイプ(事業費の4分の3補助)」と、適切な水準の目標を設定する「標準タイプ(2分の1補助)」がある。

※コワーキングスペース・・・異なる業界の会社員やフリーランス、学生たちが同じ空間で仕事や勉強をする場所。テレワークやリモート学習の機会が増えたコロナ禍以降、全国的にそのニーズが高まっている。

彦根市はこの地方創成テレワーク交付金制度の事業計画を高水準タイプで申請し、本年3月30日に交付が決定された。高水準タイプは全国で51団体、県内では彦根市と長浜市が採択された。

県内の採択状況

  • 高水準タイプ(補助率4分の3):彦根市・長浜市(全国51団体)
  • 標準タイプ(同2分の1):甲賀市、米原市、竜王町(全国87団体)

※地方負担分については、地方創生臨時交付金で上限8割充当可

彦根市の事業計画は、「彦根市まち・ひと・しごと創生総合戦略」における「ひとの移転・しごとの創出やまちづくりを直接的に支援する施策を集中的に実施する」という基本的な考え方に基づいている。同戦略の「彦根市の次代を担う子どもたちを安心して産み、育てることができるまちづくり」と、「若者がチャレンジでき、新しい人の流れが生まれるまちづくり」の基本目標の達成に向けて作成されたものである。本事業では、行政、大学、経済団体・金融機関等が連携して運営することに高い評価を受けた。

採択時の有識者コメント

単なるワーキングスペースの提供のみに留まらず、市の将来を見据えた大きな視点から検討されており、既に企業誘致の実績(滋賀大学の共同研究所)もあ り、企業進出、滞在、移住の実現可能性及び持続可能性が高いと評価できる。大学を有する地域の模範となり得る事業であり、KPIの達成に向けて事業を推進していただきたい。

彦根商工会議所では、昨年11月に滋賀大学との包括的連携協定を締結。長期有給型インターンシップにより、学生が企業での実践力を習得すると同時に、事業所の経営イノベーションを創出する人材育成や、データサイエンス教育プログラムの開発など、地域経済の活力創造に向けて連携を強化している。
今後、デジタル技術による業務やビジネスの変革を推し進めるため、事業所のDX支援を最重要課題に掲げ、従来型のサービスから効率的で生産性の高い仕組みへ、本事業と連動して変革に向けた先駆的な取り組みを行っていく。

地方創生『彦根市まち・ひと・しごと創生総合戦略』の位置づけから(抜粋)

基本的考え方 〜ひとの移転・しごとの創出やまちづくりを直接的に支援する施策を集中的に実施

基本目標

  • 次代を担う子どもたちを安心して産み、育てることのできるまちづくり
    ・プログラミング教育を含む学校情報化の推進
  • 若者がチャレンジでき、新しい人の流れが生まれるまちづくり

各施策と主な取組

  • 起業や新分野への進出に対する支援による新たな雇用の創出
  • 市内大学をはじめとした高等教育機関等との連携強化
  • 移住促進策の推進

運営主体として「近江テック・アカデミー(株)」の目的と事業

彦根市には、世界遺産登録を目指す彦根城を始めとする近世遺産とその周りには近代化遺産が点在し、高度人材育成を担う3大学が立地している。これらの都市資産を活かし、雇用の拡大と持続可能な発展を目指して、市内の産官学金が一体となって以下の事業に取り組んでいく。
国のテレワーク交付金を活用して取り組むのは、シェアオフィス、コワーキングスペース、サテライトオフィス、ミーティングルームなどの機能を併せ持つ施設を運営し、起業家支援の基盤整備を行う事業である。 単なるレンタル施設でなく、コンソーシアム機能を活かして、入居者間のビジネス交流、スタートアップ支援、ジュニアIT教育、社会人のリカレント教育、事業所へのDXサポート等の機能を備えるとともに、中心市街地に位置する施設として、関連施策と結びつけることで、空き施設の新たな活用を含め、街全体の賑わいに繋げることを目指す。
彦根市まち・ひと・しごと創生総合戦略に沿って、6月10日に「近江テック・アカデミー株式会社」が設立された。この新会社は、当所・滋賀大学・地元金融機関と賛同企業で構成するコンソーシアムが運営に携わり、彦根地域の雇用拡大と持続可能な経済の発展を目的としている。

産官学連携コンソーシアム「近江テック・アカデミー株式会社」が運営する施設図面とイメージ
彦根市中央町2番26号(現中央町仮庁舎)

新施設のスタッフとして、インターンシップ制度も念頭に学生を雇用するため、5月にスタッフ募集説明会が行われた。「地域の、すべての人とビジネスをデジタル化する」ことをミッションとして、起業に興味があり、知的好奇心旺盛な学生を募集する。
学生が取り組むワークの特徴は、地域課題の解決に取り組む学習型アルバイトであるということだ。学生たちは新会社のスタッフになることにより、事業所へのRPA(※)やオフィスアプリなどのデジタル化導入支援や、スタートアップ支援、ジュニア教育等を通じて、将来に役立つスキルを学ぶこととなる。さらに、学生のスキルアップのため日本版MOOCによる学習(※)の補助制度もあり、将来の起業への近道となる。

※RPA(Robotic Process Automation)・・・ソフトウェアロボットまたは仮想知的労働者と呼ばれる概念に基づく事業プロセス自動化技術。

※MOOC(Massive Open Online Course)・・・インターネット上で受講できる大規模な開かれた講義のこと。gacco、schoo、Udemyなどがある。

滋賀県でも、現在、地方創生制度に基づき、UIJターンの就業支援事業は制度化されているが、もう一つの柱である『地方創生起業支援事業』(移住+起業)の制度化について検討が進められている。近江テック・アカデミー株式会社が運営母体となる新施設が注目を集めることになるだろう。

サポートメンバー募集

What will you do with us? 中小企業のデジタル支援、事業所移転や移住の受け皿として、地域の社会課題の解決を目指す当施設のサポートメンバーとして、多くの企業、個人の参画をお願いします。 メンバーには、コワーキングスペースの使用権など特典があります。

連絡先 彦根商工会議所 TEL.0749-22-4551


参考
  • 『滋賀県産業振興ビジョン2030』/「新たなチャレンジが日本で一番行いやすい県」「起業の裾野拡大と起業におけるステージに合わせた支援を徹底サポート」(令和2年11月26日 県連意見交換会における知事講演)