日本のインターンシップ導入状況

学生が在学中に自らの専攻や将来のキャリアに関連した就業体験を行うインターンシップ(以下、インターン)は、1906年にアメリカ合衆国オハイオ州の大学で、専門分野の学習内容に関連した就業体験を授業に取り入れたことに始まる。アメリカでは数カ月の長期インターンが多く、学生は就職に向けた職業訓練として、企業にとっては即戦力となる学生の採用に直結する制度となっている。
一方、日本におけるインターン普及の歴史は浅く、就職氷河期の1997年に政府の教育改革施策として、当時の文部省、労働省、通産省が三省合同で「インターンシップ推進に当たっての基本的な考え方」を取りまとめ、産学連携による人材育成を目指したことから本格的な導入が始まった。日本のインターンは数日から2週間未満の短期が多く、大学の夏季休暇や春季休暇を利用して実施される割合が高い。受け入れ企業から給料の支給はなく、職業訓練というよりは短期間で就業経験をし、企業の事業内容を知ることが主な目的となっている。
インターンの実施校数(学部・大学院)は、1996年度はわずか104校(17.7%)であったが、2019年度には701校(89.2%)まで年々増加しており、大学のキャリア教育において着実な広がりをみせている。さらに、㈱マイナビが2021年卒の就職先が内定した学生に、「入社予定先の企業を知ったきっかけ」を集計した結果、就職情報サイト(30.1%)に次いでインターン(14.0%)と回答した学生が多いことでも、インターンが多くの新卒学生の就職先の選択に結びついていることがわかる。

教育効果の高い長期インターン

近年のインターン募集に、1日だけの説明会やグループワークをするだけといったものが見受けられるようになり、文部科学省・経済産業省・厚生労働省では2014年に「インターンシップの基本的な考え方」を17年ぶりに大幅に改正した。
改正版では、国内外のインターンの現状や事例を踏まえ、「インターンの望ましい在り方」として、「中長期インターン」や「有給インターン」を挙げている。その理由として、中長期インターンは「教育効果の高い」もので、有給インターンは「学生の責任感を高め、長期の場合には学生の参加を促す効果が考えられる」としている。目的に合わせて多様な形態のインターンを柔軟に取り入れることが重要であると記述している。
一方、最近の学生の就職活動の傾向としても、新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、就職に不安を感じている学生が多い中、長期インターンは数カ月の期間を有給で働くため、就職活動を前に実務経験を積むことができ、将来のキャリアの参考になるとして希望する学生が増加していることが報道されている。学生にとっては、長期インターンは、そこでしか得られない経験や気付きから卒業後のキャリアデザインを描き、職業観の幅を広げることができるのである。
また、大学教育の観点からも、インターンを通じて学生の主体的な学びを促進し、社会で活躍できる人材を育成することは、産学協働ならではの教育効果であり、就職後のミスマッチを防止するうえで大きな効果があると考えられる。企業側としても、意欲のある学生に中長期のスパンに渡って働いてもらうことで、自社の業務内容や魅力を伝えることができる機会として、長期インターンの導入が広がり始めている。
我が国における長期インターンの実践事例は、文部科学省が作成した「インターンシップ好事例集」や、日本学生支援機構のホームページに掲載されている。
例えば、京都産業大学が世界標準のコーオププログラムをモデルとして2014年に導入した「むすびわざコーオププログラム」は、「長期」・「有給」・「単位制」という3つの要素が揃ったインターンプログラムである。大学の座学中心のカリキュラム(特定学部)と就業体験を交互に行うことで、大学で学ぶ理論と企業での実践を融合させ、学生の学びの深化とキャリア観や社会人基礎力の醸成を目指して実施されたことが、先進事例として紹介されている。

※コーオプ教育(COOP教育)
COOPは、Cooperative Educationのこと。
従来のインターンシップと異なり、大学が主導的に企業での研修内容の管理運営にかかわり単位の認定も行う、産学連携型の実践的なキャリア教育。

インターンシップ好事例集 教育効果を高める工夫17選

滋賀大学と彦根商工会議所の連携による長期有給インターン

長期有給インターンへの注目が高まるなか、滋賀大学と彦根商工会議所は「地方創生に関する包括的連携協定」に基づいて、初めて長期有給インターンを行うこととなり、4月28日に滋賀大学彦根キャンパスとオンラインにおいて「インターンシップ事業所説明会」が開催された。この説明会では、長期有給インターンの受け入れを検討している当所会員企業に向けて事業概要の説明と質疑応答が行われた。
大学側からは、持続可能な体制づくりのためには、企業が学生をプロジェクトチームのメンバーとして目標を共有し、学生・企業の双方から遠慮なく意見が言える関係性を作っていくことが重要であるとし、大学としても相談窓口を設置して学生のサポートを行っていくことを説明。学生が参加しやすい環境として、「業務内容と期間の明記」、「到達点の数値化」、「評価方式の具体化」、「結果のフィードバックと新たな目標設定」等を企業に求めた。

インターンの意義・メリット
大学・大学生 企業等
  • 大学におけるキャリア教育の推進
  • 学生に対する社会経験の場の提供と生活支援
  • 授業での専門領域の学習と社会実学の両立
  • 学問、業務体験の並立によるマルチタレントの育成
  • コミュニケーション力、リーダーシップ力を現場で習得
  • 未知の分野に挑戦する意欲を持った人材の育成
  • 実社会への適応能力の高い人材の育成
  • 地域企業として地元大学との連携を推進
  • 中小企業等の魅力発信
  • 受入企業における若手人材の育成効果
  • 企業外の人材による新たな視点の活用

今後の進め方

  • インターン事業に参加する事業所は、エントリーシートに学生が取り組む業務内容や実施期間、勤務時間や給与額等の諸条件を記入して当所に提出し、エントリー企業の情報は当所と滋賀大学が共有する。
  • その後、大学が学生を募集し、事業所見学や面談を経て企業とのマッチングを進め、学生の実習先企業が決定する。
  • 企業と大学が実施内容やスケジュールについて実施契約書と覚書を締結し、いよいよ産学連携による長期有給インターンが開始される。
  • インターン中は、大学の担当教官が随時フォローや相談対応を実施し、終了後は振り返りとして成果の報告を行い、今後の展開に繋げていく。

この産学連携の新たな取り組みは、学生が就業体験を通じて、デジタルの進展や経済のグローバル化といった高度化・複雑化するビジネスシーンのなかで、学生がアントレプレナーシップを持ってイノベーションを起こす力を磨くことにより、従来のルールを変えて新しい地域社会や産業を創造できるゲームチェンジャーの育成を目指すものである。

地域企業の経営イノベーションを目指して

滋賀大学の他にも、市内には滋賀県立大学と聖泉大学がキャンパスを構え、約6,000人の学生が彦根に集っている。しかし、ここ数年の市内3大学の卒業生の就職者数のデータを見ると、毎年1,000人前後の就職者のうち、彦根市内への就職者は30人程度(約3%)と非常に少ない人数となっている。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により、彦根管内の雇用状況は有効求人倍率が2020年2月の1.76倍をピークに、7月には1.02倍まで落ち込んだ。本年3月には1.14倍まで持ち直したが正社員は0.73倍に留まっている。さらに、(株)学情の調査によると、オンラインでの採用選考として会社説明会や採用面接のWeb化が進む中、内定を獲得した学生の多くはインターンで就職先企業との接触を行っていることがわかった。インターンの取り組みがコロナ以前にも増して重要になっているのである。
こうした中小企業にとって厳しい採用状況下において、いかに自社の事業内容やその魅力を学生に発信していくかが問われている。インターンをきっかけとして地元企業の魅力に気付いてもらうことは、採用戦略としても有効であると考えられる。
彦根市内に在学している大学生が、地域に根ざした企業での長期インターンを通して、受け入れ企業が抱える課題解決に迫ることで、経営イノベーションに繋がることを期待したい。一人でも多くの学生が地域企業に就職することは、企業の若手人材の確保に止まらず、移住・定住の促進や、まちおこしなどの地域課題の解決にもつながり、地域経済の活性化にとって大きな意味を持っている。
今後、より多くの学生がインターンに参加し、地方創生を担う人材が育成されることが期待されている。