世界遺産登録に向けての課題

今号から、しばらくの間、この連載を彦根市役所の小林が担当します。
彦根城を世界遺産に登録するために何が必要なのか、改めて考えてみましょう。世界遺産登録は、世界的な価値を認められた資産を後世に伝える取り組みです。1. 顕著な普遍的価値の証明、2. 保存管理体制の整備、この2つが世界遺産登録に不可欠な課題です。近年、これらの課題に加えて、もう一つ、重要な課題が浮き彫りになってきました。それは、3. 世界遺産の取り組みを持続可能なまちづくりの一つとして認識するということです。
これまで、日本国内では、世界遺産登録を実現するため、地元自治体が専門家の助言を受けながら、1. 顕著な普遍的価値の証明と2. 保存管理体制の整備を進め、世界遺産を誕生させてきました。地元住民は、世界遺産登録作業を応援したり、世界遺産登録を喜ぶことはあっても、世界遺産登録が他人事になっていたのではないか、地元住民が世界遺産を守り、活かす担い手であるという認識が不十分だったのではないかと、私は感じています。
世界遺産に登録された資産は、いずれも、その資産が存在する地域になくてはならない、かけがえのない存在で、その地域の住民の暮らしに深くかかわっています。自分たちのまちの大切な資産に世界遺産という新たな冠を獲得しようとしている時、それを他人事のように眺めていてはいけないはずです。
世界遺産登録に必要な推薦書原案を作成する作業は、ユネスコが定めた作業指針に基づいて行う高度に専門的な作業であり、地元住民がその作業に関わることは困難です。しかし、世界遺産登録を機に、地元の資産の価値を学び直し、その資産を守り、活かしながら、まちの未来を拓き、まちを持続させていくのは、世界遺産の専門家の仕事ではなく、私たち地元住民の役割ではないでしょうか。

城と湖のあるまち彦根

世界の新たな動向

2015年、国連がSDGs(持続可能な開発目標)を採択しました。その11番目の目標「住み続けられるまちづくり」を達成するための四番目の取り組みとして、「世界文化遺産および自然遺産の保全・開発制限の取り組みを強化する」ことが掲げられています。世界遺産の取り組みを通じてそのまちに住み続けられるようにすることが重要であることを、国連が示しました。世界遺産の取り組みは、現在、世界的には、持続可能なまちづくりの取り組みだと考えられています。そのことに私たちは目を向けなければなりません。
私たち彦根市民にとって、彦根城の世界遺産登録は、決して他人事ではありません。なぜなら、彦根は城と湖のあるまちで、彦根城が私たちのまちの個性を形作っているからです。まず、私たち市民が、彦根城の世界遺産登録作業を、彦根市の未来を拓く重要な取り組みだと認識する。そして、彦根城の価値を学び直し、それぞれの立場や状況に応じて、彦根城を守り、活かしながら、まちづくりを進めていくことが大切だと、私は思います。