高専ロボコン

全国高等専門学校ロボットコンテスト」(高専ロボコン)は、全国の高専学生が競技課題に対して、アイデアと技術力を駆使して製作したロボットによる競技大会である。「自らの頭で考え、自らの手でロボットを作る」ことをコンセプトとしたものづくりの素晴らしさを共有できる全国規模の教育イベントとして開催されている。アッと驚くような新技術や高難度のワザを追求したロボットが制限時間内に自由なパフォーマンスを行い、技術力や独創性、表現力を競う。例えば、大道芸に挑むロボットやコロナ禍でも一緒にスポーツを楽しめるロボットなど、全国の高専生の知恵と工夫が生み出した様々なロボットが感動を巻き起こすテレビ放送をご覧になった方も多いだろう。
高い創造性と向上への意欲を持つ生徒が学ぶ高専とは、どのような教育機関なのだろうか。滋賀にもこのような高専学校があれば柔軟な発想やアニマルスピリッツを持つ人材が多く輩出し、地域課題の解決や産業の発展につながるのではないだろうか。「アニマルスピリッツ」は、経済学者ケインズが使用した言葉で、不確実な状況下を切り抜ける企業の経済活動の原動力になるものとして注目されている。

滋賀の高専

今後の人口減少社会や産業構造の変化に対応するためには、「デジタル化や脱炭素などの成長市場を牽引する人材」や「社会的課題を解決するイノベーター」など、地域を支える高等専門人材の育成が不可欠である。そのため、これまで以上に若者の学びの選択肢を拡げることで、様々な可能性を生み出すことが重要である。
滋賀県は、こうした人材育成のために新たな教育機関を設立することについて有識者懇話会で議論やニーズ調査等を実施し、高等専門学校(高専)の新設に向けた構想がとりまとめられた。この構想に基づき、さらに具体的な検討を行い「滋賀県高等専門学校(仮称)」を2027年の春に開校する予定としている。当所では、未来の人材育成プロジェクトを重点施策の一つに掲げており、県内の商工会議所や企業等と連携して支援していく。

「令和の時代の滋賀の高専」構想骨子(抜粋)

3月23日、彦根商工会議所にて「高専とは」、「産業界における高専の意義」について理解を深めるため、「滋賀の高専学習会」を開催し、高専設立の構想骨子について、県の田中企画調整課長より説明があった。

高等専門学校とは

実践的・創造的な技術者を養成することを目的として中学卒業後の生徒を対象に5年一貫制の教育を行う高等教育機関。全国に国公私立合わせて57校あり、約6万人が学んでいる。

滋賀の高専の設置目的・意義

「価値創造力」・「専門性」・「実践力」を兼ね備えた次代の滋賀を支える高等専門人材の育成を目的とする。
学生には様々なキャリアパスにつながる学びを提供し、産業界との共創を実現することで産業の更なる活性化につなげることや、リカレント教育や地域課題の解決に向けた取り組みなど、高専を通じて地域に人や技術の対流を生み出すことができることを設置意義とする。その実現に向けて、「情報技術」をベースに、キャリアを考えた育成コースで、多様で柔軟な学びの選択肢を提供する。学びの専門分野は「1学科4コース制」とし、1年次は情報技術の考え方を基礎として学び、2年次以降は、これに掛け合わせる形で、機械・電気電子・情報技術・建設の専門コースにより応用専門知識・技術を身につける学びを可能とする。複数の専門の応用知識や技術を身につける学びの掛け合わせにより、卒業後は様々な成長分野で活躍できることを想定している。

設置場所の決定 今後のスケジュール

滋賀県の高専の設置場所の要件(①校地要件 ②周辺要件 ③連携要件 ④コスト要件 ⑤交通要件)に適合する候補地の中から、有識者懇話会が審査基準に基づいて比較検討のうえ決定することになっている。さらに、経営・運営体制やカリキュラム・教員等の決定を経て文部科学省の認可を受け、最短で2027年度の開校を目指している。
また、今回の学習会では先進的な高専の事例紹介として、1965年に開校した福井工業高等専門学校 の山本幸男氏より次のように説明があった。

  • 福井高専の卒業生の約6割は就職し、約4割は大学の3年次に編入学するか高専専攻科に進学
  • 大学の編入試験に合格することで、大学3年に編入することが可能
  • 求人倍率は不況期においても25倍以上あり、就職内定率はここ数年ほぼ100%
  • 地元企業から卒業生を迎え入れたいという大きな期待がある
  • 実践的なトレーニングを積むことにより、方法論が身につき応用が利く人材が育つ
  • 大学より就学期間は2年短いが、大卒と同等レベルまで教育指導をした卒業生を社会に送り出している
  • 滋賀出身の生徒も寮で集団生活をしながら学んでおり、滋賀の企業にも卒業生が就職している

拡がる学びの選択肢

今後さらに高まる科学技術人材の需要に対し、社会で重要なスキルとなる5つの教育分野を表したキーワードが「STEAM教育」である。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathe- matics)を重視するSTEAM教育が世界中で急速に広まるなか、我が国においても文部科学省がスーパーサイエンスハイスクールやマイスターハイスクール事業、科学の甲子園、小・中学校でのプログラミング教育の導入などに注力している。
彦根市には、滋賀大学の経済学部・データサイエンス学部、滋賀県立大学、聖泉大学が立地しており、当所は滋賀大学と2020年に包括的連携協定を締結し、長期有給インターンシップの実施やデータサイエンス教材の開発などに取り組んでいる。また、彦根東高校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールに指定されている。さらに彦根工業高校は同省のマイスターハイスクールに近畿で唯一指定され、ものづくりのスペシャリストを目指す革新的な産業教育カリキュラム開発が進められている。
このように、国や地方において様々な教育施策が進められるなか、高専の設置は、県内で学ぶ若者にとって新たな選択肢となり、キャリア教育を進める環境がさらに充実することとなるだろう。

産業界のバックアップ

地元企業の期待も大きく、高専設置場所の選定は県内の自治体や経済界からも注目を集めている。様々な市町から県へ誘致の希望が出されているなか、彦根市も市内への高専誘致を、産業発展・将来的な人口増加につながる重点施策として進めている。市が県に提案する候補地は稲枝駅西側地区の民有地である。
県が示した設置場所の要件を満たす提案理由として、彦根は市内に4つの大学が立地する学術都市であり、高専が設置された場合は市内大学との共同研究や交流が可能であり、県の構想で高専の運営母体として想定されている県立大学が市内にあることなどを挙げている。JR稲枝駅から徒歩による通学が可能で生徒にとって利便性が高いことも交通要件を満たすポイントである。稲枝地区の自治体や稲枝商工会では、若者が集うまちづくりへの期待から高専誘致に積極的に取り組み、5月中旬まで署名活動を行うなど、地域ぐるみで機運を醸成する。県では、設置基準に基づいて比較検討を行い、今夏に設置場所を決定するとしている。
また、滋賀県商工会議所連合会では、県内7つの商工会議所全体で高専の設置・運営を支えていくことを確認している。産業界からのバックアップ内容としては、寄附金や奨学金の仕組みづくりなど資金面での支援をはじめ、最先端のものづくり企業からの産業教育人材の派遣や共同研究、インターンシップ受入れ企業とのマッチングなどが考えられる。これらの産官学が一体となった人材育成の取り組みにより、滋賀で学ぶ学生・生徒に地元企業の魅力を伝え、滋賀の未来を支える人材を一人でも多く育成することが今後の課題となる。


県立高専の稲枝地区への設置を求める署名活動へのご協力について

彦根商工会議所では、稲枝地区の署名活動に地元経済界として協力しています。皆様のご協力をお願いいたします。
お問い合せ TEL. 22-4551

県立高等専門学校の設置を求める署名活動へのご協力について