※8月1日発行 不易流行8月号掲載記事

世界遺産登録実現のために

去る6月28日、彦根城の世界遺産登録に必要な推薦書素案を文化庁に提出し、彦根城の世界遺産登録が現実味を帯びてきました。私たちの悲願を達成するため、さらに何が必要なのか、先進地の事例から学ぶことにします。初回は、今まさに世界遺産登録の審査を受けている佐渡島の金山です。

伝統芸能の島

猩々(真野能楽会、金井能楽堂にて)

佐渡島の金山は、西三川砂金山と相川鶴子金銀山の2つの鉱山で構成されています。江戸時代の鎖国政策によって西洋の動力機械装置が導入されなかったため、鉱石の採掘から精錬までの全工程を手作業で行ったこと、そして、日本各地から集まった鉱山労働者が豊かで多様な文化を育んだことに世界的な価値があると主張しています。
現在の佐渡金山は、佐渡島全体からみると、それほど大きな存在ではありません。佐渡島の鉱山はいずれも閉山しており、鉱山経営が佐渡島の経済を支えているわけではありません。また、佐渡島の金山が世界遺産に登録されても、観光による経済波及効果はそれほど期待できません。佐渡島への交通手段が佐渡汽船に限られ、佐渡島に渡ることができる人数が1日あたり1万人以下だからです。昨年度の佐渡島の観光客数は、彦根城の観光客数を下回っています。
佐渡市民にとって重要なのは、佐渡の鉱山労働者が育んだ伝統文化です。多くの佐渡市民が魅力あふれる伝統文化を継承しています。7月半ばに私が佐渡島を訪れたその日の晩、金井能楽堂で佐渡島の伝統芸能を観覧することができました。一糸乱れぬ佐渡おけさの踊り、迫力ある鬼太鼓、幽玄な能の上演はいずれも見事で、佐渡島の伝統文化の奥深さに圧倒されました。世界遺産登録を通じて、佐渡市民が佐渡島の伝統文化に対する誇りをさらに高め、未来に伝えていくことを願います。

トキの島

最後の日本産トキ・キン(剥製)

佐渡島には、世界的に重要な動物がいます。トキです。
新潟県出身の私にとって、トキは、可哀そうな鳥でした。私が幼かった頃、トキの生息数が減り、人工繁殖を試みるため、環境省の担当職員がトキを捕獲する様子をローカルニュースで見て、とても心が痛みました。そして、その時に捕獲されたトキは、いずれも子孫を残すことなく、死んでしまいました。

トキの保護をよびかける看板(トキの森公園)

その後、中国からトキを譲ってもらい、人工繁殖・飼育が続けられました。今では、人工繁殖の技術が向上し、人工飼育したトキを放鳥する段階にまで進みました。そして、トキが自然のなかで暮らしていける環境づくりも進んでいます。トキの生息状況が以前よりも改善されていることを、今回、トキの森公園を訪れて知りました。
トキの保護活動は、人間が健康に暮らしていける環境づくりでもあり、持続可能な社会を実現するSDGsの取り組みです。トキの森公園にも世界的な価値があると強く感じました。