誰が世界遺産を守り、活かす

1992年に日本が世界遺産条約を批准してからしばらくの間、文化庁が世界文化遺産の選定や登録作業を担っていました。21世紀に入ると、都道府県や市町村が世界遺産の登録作業に深く関わるようになりました。現在では、国や地方自治体の取り組みだけでなく、地域コミュニティが世界遺産を活かした持続可能なまちづくりを進めることも重要だと考えられています。世界遺産を守り、活かす中心的な担い手が地元住民であることは疑いのない事実です。そのことを強く認識させたのが、百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録でした。

都市のなかの世界遺産

百舌鳥・古市古墳群は、4世紀後半から5世紀後半にかけて築造された49基の古墳からなり、大阪府の堺市・羽曳野市・藤井寺市に分布しています。大仙陵古墳(仁徳天皇陵)は世界最大級の墳墓で、その価値が高いことは言うまでもありません。
この古墳群の世界遺産登録にあたって、日本国内の世界遺産登録関係者は、大きな不安を感じていました。古墳のまわりに広がる都市では、たえず都市開発が進められています。それが古墳群の世界遺産登録の支障となるのではないかと感じていたのです。彦根城についても他人事ではありませんでした。
2019年の6月末から7月初めにかけてアゼルバイジャンのバクーで開催された第43回世界遺産委員会で、百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録が満場一致で決定されました。その会議に参加したある委員国が、「墓を大切に感じ自主的に守ってきた地域社会の存在がすばらしい」と評価しました。日本国内で不安視されていた都市の存在が高く評価されたのです。百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録を機に、地元住民が世界遺産を守り、活かしていくことの重要性が強く意識され、世界遺産と都市生活の調和の仕方についての検討が盛んになりました。

堺市役所展望ロビーから見た大仙陵古墳

遠くから世界遺産を支える

今年の夏、百舌鳥・古市古墳群の近くにある高島屋堺店で、彦根城の世界遺産登録を応援する催し物、「『彦根城を世界遺産に』ひこにゃんともへろん展」が開催されました。高島屋は、その名が示すように、近江国高島郡にゆかりのある百貨店です。滋賀県に関わりのある企業として彦根城の世界遺産登録を応援したいという思いから、この催し物が開催されました。

高島屋堺店での催し

近年、総務省が、そのまちに住む「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、「関係人口」の存在に注目しています。関係人口とは、その地域にルーツがある人、かつてその地域で勤務したり、住んだりしたことがある人など、その地域に日常的なかかわりを持っていない人たちです。そうした人たちであっても、その地域に関心があれば、地域づくりに参画できるのです。
彦根城の世界遺産登録については、彦根市民だけでなく、県内・県外の多くの方々から応援していただいています。彦根市の近隣地域や遠くに住んでいる方々の思いも受け止め、連携して、彦根城の世界遺産登録に取り組むことが大切だと思います。