約3年にもわたるコロナ禍からようやく脱却しようとする社会情勢のなか、依然として続く中小企業の厳しい経営環境の一要素として「人手不足」や「賃上げと価格転嫁」が挙げられています。彦根商工会議所では、管内企業様のこれらの現状を把握させていただくとともに、集計・考察したうえで国・県・市などへの要望等にも活用するべく、下記により緊急調査を実施させていただき、その調査結果を報告させていただきます。本調査にご協力いただきました会員企業様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

調査対象:当所会員企業245社
調査方法:メールでの一斉送信後、メールまたはFAXで回収
調査期間:令和5年2月23日〜3月8日
回答企業数:97社(回答率39.6%)
集計・分析(委託先):中小企業診断士 田中和男氏

全体概要

「人手不足」「賃上げ」「価格転嫁」のいずれも半数以上の企業で問題になっていることが確認された。業績好調や競争力・交渉力のある企業では対策が進んでいることも確認されたが、引き続き人材確保に向けて、生産性向上と取引価格適正化による賃上げ原資の確保や、労働環境の改善、魅力ある職場環境の整備など、自己変革に挑戦することが不可欠と言える。

人手不足について

人手不足の状況(図1参照)について、「人員が不足している」と回答した企業割合は60%を超えている。業種別でもほぼ全業種で「不足している」との回答が「過不足はない」「過剰である」を上回っており、人手不足が見て取れる。特に「運輸業」100%、「建設業」76.5%と高く、また「宿泊・飲食業」も66.7%と2/3の企業が不足していると回答しており、極めて不足している状況にあることがわかる。

人手不足への対応方法(図2参照)として「正社員を増やす」が76.7%と最も高く、次いで「非正規社員を増やす」58.3%と直接的な対応が上位となっているが、「従業員の能力開発による生産性向上」36.7%、「多様人材の活用」36.7%、「IT化、設備投資による業務効率化」36.7%など人材活用や生産性を向上させるための取り組みも一定の割合で検討されていることが見て取れる。
人材の確保には、働く人にとって魅力ある企業・職場となることが必要であるが、人材の確保を目的とした取り組み(図3参照)としては、「賃上げの実施、募集賃金の引上げ」を検討する企業が60.0%と最も高く、人材確保のために賃上げが必要と考える企業が多いことがわかる。その他対応策として「ワークライフバランスの推進」43.5%、「人材育成・研修制度の充実」42.4%、「福利厚生の充実」36.5%、「オフィス・工場等、職場環境の整備」29.4%など労働環境や待遇改善などに取り組むとの回答が続いている。

「人手不足」の状況に関する個別の意見として、「若手社員の確保。」(製造業)、「高齢化が進んでいる、若年層の応募者がいない。」(建設業)、「既存社員の高齢化に伴う若手人材の募集を実施しているが、若手の応募者がいない。」(製造業)など、特に若手社員の確保に苦慮していることが伺える。一方「退職された方を再度受入れ時間短縮で採用している。」(製造業)、「社内公募」(製造業)、「子育て世代の子連れ出勤を許可。」(宿泊・飲食業)といった取り組みは参考になる。

賃上げについて

来年度の賃上げ予定(図4参照)について、「業績が好調・改善しているため賃上げを実施予定」とする企業の割合が21%であるのに対し、「業績の改善は見られないが賃上げを実施予定」も25%回答があり、併せて約半数の企業が賃上げ予定であると回答している。一方、現時点で「賃上げを見送る(引き下げる)予定」と回答する企業は7%にとどまっているものの、「未定」と回答する企業の割合が43%と最も高く、賃上げに慎重な状況がうかがえる。業種別では「建設業」70.6%、「宿泊・飲食業」50.0%と、業績が厳しい中でも積極的に賃上げすることを予定されている。前述の通り人材不足が顕著な業種であり、賃上げによる人材採用に取り組まざるを得ない状況がうかがえる。また取引環境別では「BtoC取引」が賃上げ予定の割合が少なく(37.5%)、後述の「価格転嫁」でも苦戦しており、賃上げの原資の確保が困難となっていると推察される。

賃上げを実施予定の従業員の属性は、「正社員」との回答が90.9%とほとんどの企業が対象とするものの、「フルタイム・有期契約社員」38.2%、「パートタイム労働者」40.0%と半分以下にの回答を得ている。人手不足の対応方法において「多様な人材の活用」が上位に挙げられているが、非正規労働者に対する賃上げは一部にとどまることがわかる。また賃上げ率の見通しは近年の中小企業の平均的な賃上げ率(2%弱)をやや上回る「2%台」が25.0%と最も高く、「5%以上」と高い賃上げ率を予定している企業も9.6%あった。
賃上げを予定している理由(図5参照)では、「従業員のモチベーション向上」が88.8%とほとんどの企業が回答しており、次いで「人財の確保・採用」66.0%、「物価上昇への対応」56.0%であった。一方「業績が好調・改善」を挙げた企業は20.0%にとどまった。物価上昇が続く中、従業員の採用だけでなく、定着に向けた継続的な賃上げに踏み切らざるを得ないことが推察される。また賃上げを見送る理由として、回答いただいた企業(8社)のすべてが「自社の業績低迷・手元資金の不足」を挙げており、業績が改善しない状況では賃上げは難しいことがうかがえる。

賃上げ原資を確保するための取り組み(図6参照)は、「売上増に向けた新たな販路の拡大」58.7%と売上拡大の取り組みが最も回答率が高いが、次いで「従業員の能力向上」52.0%、「コスト削減」46.7%、「新製品・サービス開発」44.0%、「設備投資、IT活用による業務効率化・生産性向上」37.3%と回答が続いている。従業員の能力向上や生産性向上の観点からも改善に取り組む企業が見て取れる。

「賃上げ」の状況に関する意見として「賃金を大幅に引き上げる大企業のニュースを最近よく耳にするが、人件費の引き上げを実施できない中小企業との格差が大きくなり、人材確保が更に困難な状況になるのでは」(製造業)、「少しくらいの経済の上向きでは賃上げは程遠い。」(製造業)、「生産コストの上昇分を販売価格に転嫁することが非常に難しく、賃上げしたいが簡単ではない。」(その他)と厳しい状況にある意見が寄せられた。

価格転嫁について

価格転嫁の状況(図7参照)について、「すべて転嫁できている」との回答は15%にとどまっている。「半分程度しか転嫁できていない」31%と併せても回答者の半数に満たない状況であり、価格転嫁が進んでいないことが分かる。業種別では、半分程度以上転嫁できているのは「製造業」58.3%、「卸・小売業」55.6%、「宿泊・飲食業」55.6%であった。一方「建設業」29.4%、「その他(サービス業など)」18.8%は価格転嫁が進んでいない。取引環境別では、「転嫁できていない」とする回答が「BtoB取引業者」が12.2%なのに対し、「BtoC取引業者」が44.4%と厳しい状況にあることが分かる。

価格転嫁できている理由(図8参照)として「自社に価格決定権がある」57.1%、「今までに価格転嫁の実績がある」57.1%が上位となっている。逆に価格転嫁できない理由(図9参照)は、「自社に価格決定権がない」37.1%、「価格転嫁のルールがない」37.1%が上位となっており、価格決定権の有無が大きく影響していることが確認された。また「取引先と交渉したが価格転嫁できなかった」にも13社(18.6%)から回答があった。取引先との交渉で価格転嫁できた例が1社しかないことと併せ、発注元の理解が十分でないことがうかがえる。

今後の価格転嫁に取り組む予定(図10参照)については、半数以上(55%)の企業が価格転嫁に「取り組む予定がある」と回答があり、「取り組む予定がない」(6%)を大きく上回っている。業種別では「製造業」の約7割(74.3%)が取り組むと回答している一方、「不動産業」20.0%、「その他(サービス業等)」14.3%と低い回答となった。

従業員数が20名以下の小規模な企業では、価格転嫁に取り組むと回答する企業の割合(43.2%)は全体平均(55.2%)以下であり、小さな企業ほど価格転嫁に苦慮していると読み取れる。また「BtoB取引企業」の65.9%が価格転嫁に取り組むと回答しているのに対し、「BtoC取引企業」は28.6%とかなり乖離が見られる。約65%の「BtoC取引企業」が「未定」と回答していることから、価格転嫁の意向はあるものの実施できない状況と推察される。
「価格転嫁」の状況に関する意見として、「価格転嫁すると注文が入らない」(製造業)、「転嫁していては競争に打ち勝てない」(建設業)、「値上げによって得意先が消える心配がある」(製造業)、「客足が遠のくのではないかという不安」(宿泊・飲食業)など、顧客や取引先との関係悪化の懸念から価格転嫁が進まないという切実な意見が寄せられた。

中小企業相談所から

今回の調査で、管内における 「人手不足」「賃上げ」「価格転嫁」の現況をつぶさに把握させていただくことができました。ただ、それぞれの課題解決には、個々の企業様の状況に応じたきめ細かな対応が必要ですので、支援施策を取り揃え、職員による相談者様に寄り添った相談対応に努めたいと思います。また、新規事業の「(仮称)労働・労務環境改善推進事業」では、人手不足対策としての労務環境改善や、賃上げ・価格転嫁等につながる自社の生産性向上、従業員の資質向上、育児休業をはじめとする諸規程の見直しなどについて、各種セミナーや個別相談で会員の皆様のサポートをいたします。詳しくはお気軽に彦根商工会議所までご連絡ください。