天秤櫓前のオオトックリイチゴ

彦根城の天秤櫓前で育っている彦根市指定天然記念物の「オオトックリイチゴ」が見頃を迎えた。NHKで放送中の朝の連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデル・牧野富太郎(1862年~1957年)が発見した固有種として知られていて、今年は特に注目されている。
オオトックリイチゴは、日本の山野に自生しているナワシロイチゴと、中国大陸および朝鮮半島が原産で庭園の植栽に用いられるトックリイチゴとの自然雑種。日本の植物学の父と称される牧野が明治27年(1894年)11月、伊吹山の植物採集の途次に彦根城に立ち寄った際、表御殿跡(現・彦根城博物館)で発見した。
この時は茎葉だけだったため、明治34年(1901年)7月と翌年6月に、当時の彦根尋常中学校(現・彦根東高校)に在職中の平瀬作五郎(1856年~1925年)が、牧野の依頼で果実および花のついた標本を牧野に送付。牧野は自身で作成した標本と、平瀬から送られてきた標本を基準に新種と判断し、学名に平瀬の名を入れて明治35年(1902年)の「植物学雑誌」第16巻に記載した。
オオトックリイチゴはバラ科キイチゴ属の一種で、彦根城以外には知られていない固有種。春に直立する茎を出し、茎の高さは2~2・5㍍に達する。6、7月に側枝を伸ばすようになると横臥(おうが)状になり、枝の先端が地につくと発根して株になる。葉は全長20~25cmになり、5枚ものと7枚ものの葉がある。6月上旬か中旬に開花し、紅紫色の5枚の小さな花弁をつけ、7月になると淡紅色に熟した果実ができる。
彦根城では平成元年(1989年)に天秤櫓前に株分けされて以降、観光客に公開され、同時に絶滅しないよう育成管理されている。平成19年(2007年)1月25日に彦根市指定天然記念物になった。昨年は実が育たなかったが、今年は6月末から赤い実ができ始め、今月7日以降から見頃を迎えている。