我が国においては採用難が深刻化している。特に産業界を大きく揺るがす危機的状況として「2024年問題」が挙げられ、今年4月から物流、建設業界等の時間外労働の上限規制が課されるなど、今後、さまざまな課題に直面することとなる。
県内の小規模事業者・中小企業者を対象とした令和5年度滋賀県中小企業アンケート調査では自社の課題について、「人材確保」「人材育成」と人材不足に関する回答が70%以上にのぼった。また、自社で「今後強化したいもの」という設問では「人材育成・確保」が首位を占め、続いて生産効率や販売力、DX化といった省人化、効率化によって人手不足の解決を目指す企業も多いことが読み取れる。
本稿では人材確保・育成、業務の効率化など、課題に立ち向かうべく、現状や採用におけるコツなどを紹介していく。

人材不足の原因と課題解決に向けて

人材不足の原因として、少子高齢化による「生産年齢人口の減少」と「企業と求職者のミスマッチ」が挙げられる。人口減少によって求職者数が減少する一方で、企業数は増え続けている。企業と求職者の要望や条件が合致しないまま採用を続けても離職者が増え、双方にとって良い結果にはならない。
求人企業側としては、まず求める人材像を明確化することから始め、その人材が採用できるような求人活動の実施や、自社について、事業内容や企業理念などを改めて整理し、アピールすることがポイントとなる。採用活動においては、計画・戦略をたて、手法を決めて実行していくという綿密なフロー策定が必要なのである。
では、具体的にどのように採用を実施していけばよいか、一例を紹介する。

求める人材像の明確化

例えば求める人材像が《ITスキルを持った人材》の場合、次のような点が予想でき、それぞれ具体的に明確化していくことができる。

  1. 将来を考えて一から育てても良い場合
    *育成のための時間やお金がかかる⇨新卒などの若年層の採用も狙える
    *自社の社員に学んでもらうことも一つ(リスキリング)
  2. 即戦力(経験者)が欲しい場合
    *経験者が転職を考えるきっかけをリスト化する⇨働き方、給与、人間関係などが、転職を検討する理由として多いため、自社でその問題が解決できる環境を整える

採用の幅を広げてみる

では、明確化した人材像に対し自社に応募がくるような条件は何だろうか。
福利厚生、働き方改革、休日・時間外労働等について、OJT・OFF‐JTの取り組みなどを見直すハードルは高くない。合わせて時短勤務やフリーランス・副業、在宅ワーク、ジョブ型採用などの多様な働き方に合わせて、柔軟な発想で仕事を創出していくことができれば採用の幅はぐっと広がる。
また、採用というと春の新卒一括採用といったイメージが強いが、卒業後3年以内も新卒として扱い、採用サイクルを通年化する企業が増えている。年間を通してしっかりと人材を採用していくスタイルがスタンダートとなる未来も遠くないのかもしれない。

採用周知の方法

次に求職者へのアピールとして周知方法を紹介する。
周知には求職者の目に留まってから訴求できるもの、ダイレクトにアピールができるものがある。前者は無料、後者は有料であることが多く、どれかを選ぶというより、理想の人材像の目に留まるように上手く組み合わせて実践する。
一般的に多く実施されている方法としては、自社サイトに採用ページを開設し、SNSで自社の魅力のほか、求職者に訴求したいことを投稿する。そしてハローワークや有料の求人サイトに掲載登録することで、求職者が詳細情報を得ようとしたとき、会社サイトやSNSで確認できるようにしておくことが必要だ。周知では、仕事内容・職種・給与・休日数など基本的な情報だけでなく、求職者に働くイメージが浮かぶように具体的に(詳細に)伝えることが肝要である。
例えば営業職の募集において「ルート営業(飛び込み営業なし、決まった20社に毎月定期訪問、ノルマはありません)」と書くだけでもどんな仕事かがわかる。扱う商材を記しておくと、なお良いだろう。

自社についての情報を整理し、自社ならではのポイントを見つける

会社経営をしていく上で鍵となる「自社の強み」を改めて理解することは、採用活動においても重要なポイントである。BtoCの企業では日頃から自社商品のPRをよく目にするが、BtoBの企業も積極的に世の中に知ってもらうことはプラスとなる。会社の製品・サービスや、働きやすさへの取り組み、地域への貢献が見えることは、会社のイメージアップとなり採用率も向上する。
不易流行では2023年12月にマイスター・ハイスクールについて紹介したが、生徒からは「地元にこんな良い企業があることを知らなかった」「もっと知る機会があればよい」という声も多かった。当事業など、学生のインターンシップの積極的な受け入れは、自社を知ってもらうよい機会となり大きなアドバンテージとなるのではないだろうか。
また、新卒の就職活動においては親に就職先を相談する、親が知っていて勧める企業を選ぶといったケースも多い。年末年始に建設や製造系といったBtoBの企業CMが多くなる。帰省する社員に対し、自分の仕事だと胸を張って自慢してもらいたいという狙いがあり、会社の存在と自社の強みを知っていただくということは重要なポイントとなる。

人材=人財、継続的な取り組みを

人材採用については他にもさまざまな手法が存在するが、どれも手段でしかない。自社が「求職者に求めること」「求職者に求められていること」の合致点を見つけていくことが必須となる。そのためにはまず、自社が求職者に求めることの優先順位は何なのかを明確にしておく必要があるのは言うまでもない。
また、求職者ファーストで全ての要望を受け入れるのではなく、どんなポイントを求職者に提示できるのかを、世の中の求職者動向(ニーズ)を見ながら常に判断していかねばならない。
そして採用をゴールとせず、内定者はもちろんのこと、在籍する社員のフォローなど、人材への対応は多岐にわたる。給与の引上げや職場環境の改善などの魅力向上に関する取り組みや、従業員を多能工化することで、子育て世代の休暇取得や勤務時間の短縮・変更など柔軟な働き方を実現するなど継続的に取り組んでいく必要がある。


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