人類は新型コロナウイルスと共存する「ウィズコロナ」、自粛をできるだけ影響のない範囲で続けていく「New Normal(ニューノーマル)」という道を選択せざるを得ない。「ウィズコロナ」と「ニューノーマル」の先に「アフターコロナ」がある。
世界では感染者が2000万人を超えた。足元の実質経済は冷え切り、見かねた各国政府は見切り発車の緊急事態宣言解除に踏み切った。日本でも6月19日には東京の休業要請が全面解除されたが、滋賀県の状況は7月25日現在152例の感染症患者が発生。7月23日から29日の1週間で人口10万人あたりの感染者数は2.48人(厚生労働省の発表に基づいた数値からJX通信社 / FASTALERTが提供するデータ)となり、これは政府が緊急事態宣言解除の目安としていた0.5人程度以下という値を大きく上回っている。融資や給付金、補助金にも限界がある。経済活動を再開せねば、経済停滞による人命リスクは高まる一方だろう。ニューノーマルの営業スタイルに切り替え、全業種が再起動し、経済を循環させていくほか道はない。それには各自が危機を乗り越え、利益を生み出す構想が必要だ。
リーマンショックの時に注目された「地域経済循環」という考え方がある。不易流行5月号の柴山桂太氏連載「コロナ禍の中の希望 新たな時代の胎動」でも触れられているように、このフレームワークは、県外移動の自粛を要請された場合、人口密度が低く、比較的感染者の少ない地方都市においては、今世紀最大のチャンスとなる。今回の不易流行Webでは、地域経済循環の考え方を整理し、次回後編として彦根における地域経済循環を検証したい。

地域経済循環とは

2015年12月に環境省がまとめた資料によると「地域の経済循環構造の適正化は、閉鎖構造を目指すものではなく、地域間のゼロサムゲームでもない。地域が地域の特徴や遊休資源を有効に活用し、地域間の交易を活発化させることで新たな需要(付加価値)を創出し、全ての地域において経済循環の流れを太くするものである」としている 。これは、新たな需要(付加価値)の創出により所得を獲得し、地域内の家計や企業に分配して消費や投資を行い、所得を循環させることに他ならない。
環境省「循環型地域づくりに向けた検討会」の日本政策投資銀行資料の中では、当該地域の地域経済循環の状況を整理するために5つの視点が提示されている。

  • 視点1(生産):地域で強みのある産業は何か
  • 視点2(分配):域内の所得はどこに分配されているか
  • 視点3(消費):住民の所得はどのように消費されているか
  • 視点4(投資):域内に投資需要があるか
  • 視点5(エネルギー収支):エネルギー代金が域外に流出していないか

これらの数値を解釈することで、域内の循環を促す地域経済の「強み」と、逆に循環を遮る「弱み」を導き出せるという。内閣府「まち・ひと・しごと創生本部」の地域経済分析システムRESASでは、2010年と2013年の2回にわたり、全国の市町村の地域経済循環図を公開している。もちろん彦根市のデータも見ることができる。ちなみに2013年時点の彦根市における地域経済循環率は112.5%で地域外からの流入超過となっている。
彦根市の地域経済循環図を見る限り、視点2(分配・所得)に関しては、雇用者は16億円の流入、その他所得は614億円の流出となっている。つまり、雇用されている人は彦根市外で働き、彦根に帰ってくる人が多く、事業主のように雇用されていない人は彦根に事業所があり、彦根市外に住んでいる人が多いことを示している。
視点3(消費)・4(投資)に関しては、民間消費は505億円の流出、投資は163億円の流入、その他支出が941億円の流入となっている。つまり、彦根市民が彦根市外で買い物する方が、彦根市外の人が彦根で買い物をするよりも多く、工業製品など、彦根で生産して彦根市外へ売るモノがその逆に比べて大幅に上回っている。彦根市の地域経済収支は主に第2次産業に支えられていることがわかる。バルブや仏壇等の地場産業や大手工場などで生産されたモノが一役買っているということだ。逆に、力を入れているはずの観光業は民間消費収支に起因し、まだまだ地域経済へのインパクトが小さいことがわかる。

ニューノーマルの潮流

前述したように、地域経済循環が盛んに言われ始めたのは、過度のグローバリゼーション、資本主義の拡大成長路線のひずみが明らかになったリーマンショック直後からだった。状況は異なるが、コロナ禍が教えてくれた事は、グローバル社会からローカル社会へ、東京一極から地方分散へ、大量生産遠隔物流から地産地消へ(他にもあるが)、ニューノーマルの時代は「ローカライゼーション」が重要であるということだ。
リーマンショック後、地域経済の持続可能性というキーワードが多く用いられ、SDGs(持続可能な開発目標)との関連性も高い。コロナ禍の現在と最も異なる点は、「自粛」というレギュレーションがあることだ。「自粛」という制限がライフスタイルの変化を促し、Society 5.0の実現へ向けてイノベーションを加速させる結果となった。このことは、リーマンショック以降に構想された地域経済循環も加速すると予想できる。
現在、各自治体は地域内で使用できるプレミアム商品券やカタログチョイスの発行など地域経済循環を促す直接的な支援を行っているが、同時に、ニューノーマルの社会における、SDGs・ESG投資に配慮した新たな持続可能な地域経済循環を構想する必要があるだろう。

次回は彦根ローカルに視点を移し、彦根の地域経済循環とその可能性について検証する。