2020年10月6日に公開した特集「New Normal Standard Vol.2 飲食業編」の中で突如登場したキーワード「SDGs」。特集の中では、コロナ禍を乗り越えるためには本質・本物の価値を見直し、再評価することがポイントで、その要素が詰まっているのが、実は「SDGs」である、と説いた驚きの事例を紹介した。SDGsに関しては2019年9月の紙面版「不易流行」の特集で一度紹介をしている。特集「New Normal Standard Vol.2 飲食業編」ではそのアーカイブのリンク先を紹介するに留まった。しかしWeb版の読者で紙面版のアーカイブにまで目を通した方は少ないのではないだろうか。そこで今回はあらためて、紙面版不易流行2019年9月号特集の「今さら聞けない「SDGs(Sustainable Development Goals)」‐持続可能な「彦根の」開発目標‐」のリマスター版をお送りする。

近年あらゆるメディアにおいて「SDGs」を標榜するものを目にする機会が多くなった。「SDGs=持続可能な開発目標」と聞いてもテーマが大きすぎて何をしようとしているのか、何をしたらいいのか、戸惑う人も多いことだろう。今回は、SDGsの17のゴールとは何か、彦根地域や当所の取り組みにどんな関連があるのか整理していきたい。

SDGsとは

気候変動、自然災害、感染症、紛争など、地球規模の課題が経済・環境・社会に重大な影響を及ぼしている。ニュースサイトを検索するまでもなく、暮らしのなかで何かしらの不安を感じていることはたしかだ。更に、急速な都市化や超高齢化問題などの課題が山積している。これらの課題の解決に向けて、地球規模での取り組み(国際社会の協調した取り組み)の必要性が強く認識されてきた。
こうしたなか、持続可能な開発目標(SDGs:エス・ディー・ジー・ズ)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月に「国連持続可能な開発サミット」が開催され、その成果文書として、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(「2030アジェンダ」)が採択された。日本を含めた先進国と開発途上国(国連加盟の193ヶ国)が共に取り組むべき国際社会全体の普遍的な目標である。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。SDGsはすべての国に合意された、すべての国に適用される目標なのである。
日本では、SDGsの実施を総合的かつ効果的に推進するため、内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を2016年5月に内閣府に設置、12月に「SDGs実施方針」を策定。「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」ことをビジョンとし、国内での実施と国際協力の両面で率先して取り組むこととしている。

※MDGs

2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットにて採択された国連ミレニアム宣言と、1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたものである。2015年までに達成すべき目標として8つのゴールと21のターゲット項目を掲げている。

MDGsの8つのゴール

  1. 極度の貧困と飢餓の撲滅
  2. 普遍的初等教育の達成
  3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
  4. 幼児死亡率の削減
  5. 妊産婦の健康の改善
  6. HIV/エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止
  7. 環境の持続可能性の確保
  8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進

SDGsの17のゴール

SDGsのプロセスは「SDGsのローカライズ」とも呼ばれる。地球上のすべてにおいて、あらゆる種類の人々、大学、政府、機関、組織は、ともにいくつかの目標に取り組む。各国政府は、目標を国の法律に落とし込み、行動計画を立て、予算を設定すると同時に、パートナーを積極的に募らなければならない。貧しい国は豊かな国の支援を必要とし、国際的な調整が重要である。SDGsの17のゴールは以下の通りである。

  1. 貧困をなくそう(貧困の撲滅)
  2. 飢餓をゼロに(飢餓撲滅、食料安全保障)
  3. すべての人に健康と福祉を(健康・福祉)
  4. 質の高い教育をみんなに(万人への質の高い教育、生涯学習)
  5. ジェンダー平等を実現しよう(性差別廃絶)
  6. 安全な水とトイレを世界中に(水・衛生の利用可能性)
  7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに(エネルギーへのアクセス)
  8. 働きがいも経済成長も(包摂的で持続可能な経済成長、雇用)
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう(強靭なインフラ、工業化・イノベーション)
  10. 人や国の不平等をなくそう(国内と国家間の不平等の是正)
  11. 住み続けられるまちづくりを(持続可能な都市)
  12. つくる責任つかう責任(持続可能な消費と生産)
  13. 気候変動に具体的な対策を(気候変動への対処)
  14. 海の豊かさを守ろう(海洋と海洋資源の保全・持続可能な利用)
  15. 陸の豊かさも守ろう(陸域生態系、森林管理、砂漠化への対処、生物多様性)
  16. 平和と公正をすべての人に(平和で包摂的な社会の促進)
  17. パートナーシップで目標を達成しよう(実施手段の強化と持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップの活性化)

以上のゴールの中から各々の組織で取り組むことができるものを取捨選択し、行動に移そうということだ。企業や組織は好きなアイコンを選択して取り組み内容を添えて宣言するだけでクリーンなイメージをPRすることができる。どのテーマもゴールというよりは永遠に取り組むべき課題なのである。
1〜6は貧困、飢餓、健康、教育、安全な水など開発途上国に対する支援のようだが、日本の子どもの7人に1人が貧困(絶対的貧困ではなく相対的貧困)だといわれている。ジェンダー平等に関しては、2018年の世界経済フォーラムで発表された数字によると149カ国のうち110位。日本国内の課題でもある。7〜12はエネルギー、経済成長、まちづくりなど、経済界に密接な関係がある。13〜17は、気候変動や環境、包括的で地球規模のゴール設定になっている。
どのような取り組みが可能なのかについては、「国際連合広報センター」のSDGsを17の目標ごとにわかりやすく紹介したチラシ、『SDGsシリーズ「なぜ大切か」』が役立つ。
例えば、1に関して、「民間企業で働いている場合:経済成長の原動力として、民間セクターは、自らが作り出した成長が包摂的なものであり、貧困削減に貢献できるか否かを決定づけるうえで、大きな役割を果たす。また、貧困層のほとんどが活動する経済分野、すなわち零細・中小企業とインフォーマル・セクターの企業に焦点を絞ることで、貧困層にとっての経済的機会を増やすこともできます」など、各ゴールに関して詳細な説明がある。SDGsの理解の良い手助けになるに違いない。

日本版SDGsモデル

日本政府は「SDGs」が国連サミットで採択されたことを受け、日本版SDGsモデル『SDGsアクションプラン2019』を策定。3本柱を核として、8つの優先分野を盛り込んだ実施方針を示している。今回は3本柱を紹介する。

1. SDGsと連動する「Society5.0」の推進

1のテーマは経済、ビジネスの観点である。インパクトがあった出来事は、2017年11月に経団連が7年ぶりに行動企業憲章を改定し、その中でSociety5.0のコンセプトのもとSDGsに本気で取り組むことを宣言した。日本商工会議所も三村会頭によるコメントを発表した。

「商工会議所は、商工業の総合的な改善発達を図り、社会一般の福祉の増進に資する活動を行う地域総合経済団体です。現在、全国515の地域に設置され、その活動を通して、国民経済の健全な発展と国際経済の進展に寄与することを使命としています。商工会議所が提示している意見や実践している活動の多くは、政府のSDGs実施指針に示された具体的施策と重なります。140年前に日本で初めてとなる商工会議所を創設した渋沢栄一翁は〝企業は、利益を追求することは当たり前だが、同時に公益にも心を用いなければならない〞として『私益と公益の両立』を唱えました。この考え方を精神的支柱とする商工会議所の活動は、SDGsの理念を体現したものであるといっても過言ではありません。」

ビジネスの力を使い企業の文脈からSDGsを推進していくことができるのである。

2. SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり

SDGsが合意されて以来、地方創生の観点から各地域ではSDGsを活用して地方創生を実現していこうという流れになっている。
2019年7月1日に発表されたSDGs未来都市はその1つの象徴的な動きだ。31の都市が選ばれ、10都市には推進のための予算が割り振られている。この取り組みは2018年から実施されており、持続可能な都市・地域づくりを目指す自治体をSDGs未来都市として選定し、政府としてサポートしていこうというものである。「経済」「環境」「社会」の3つの観点とそのバランスから持続可能性を見ているところがポイントだ。なお、登録を受けている滋賀×SDGsのテーマは「未来との約束」である。

3. SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント

SDGsはあまりにも広い範囲を包括している。③は、①の経済・ビジネス、②の地方創生において及ばない部分、特に人にフォーカスした内容になっている。③のキーワードは「働き方改革」「女性の活躍推進」「ダイバーシティ・バリアフリーの推進」「子供の貧困対策」「次世代の教育振興」「健康経営の推進」「感染症対策等保健医療の研究開発」など各々のボリュームが大きい。
この日本版SDGsモデルを見ると、より具体化されたことでわが国の現状や地域経済に関連する身近な目標となっている。政府の主要政策と関連付けたことが要因だろう。

SDGs×ESG投資、その規模が膨大に

持続可能な世界を実現する動きは、世界の投資家を中心としたビジネスの観点からも加速している。世界の解決すべき課題を環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの観点からの取り組みは、その頭文字をとってESGといわれている。ESGに配慮した責任ある投資を「ESG投資」という。投資家が、短期的な収益だけではなく、中長期的企業価値、つまりSDGsの達成に貢献している企業がESG投資の対象になるという考え方が浸透しつつある。
世界全体でみるとESG投資は2016年に2660兆円。日本の国家予算が100兆円だとすると、その26倍以上の資金がSDGsを実践する企業に投資されている。投資家は儲けの手段としてESG投資を行っている、ということになる。
世界最大手の投資運用会社のひとつが2019年2月に2012年から2018年までの投資リターンにおいて、ESGファンドが従来型ファンドを上回ったと発表した。つまり、持続可能な世界に考慮していない企業に投資するよりも、持続可能な世界に貢献している企業に投資したほうが儲かるようになった、ということだ。それは消費者が持続可能な世界に考慮していない企業の商品は買わなくなり、持続可能な世界に貢献している企業の商品を好んで買うようになった、と言い換えることができる。
例えば、スターバックスのコーヒー豆は99%がフェアトレード(発展途上国で作られたものを適正な価格で取引することによって持続的な生活向上を支えるための仕組み)、ナイキやGAPは綿製品を数年以内に100%オーガニックコットン(従来のコットンは大量の枯葉剤が使われ、大気汚染、土壌や水質汚染で大きな問題になっていた)で製造する。このような活動により企業のブランドイメージが向上し、消費者から支持され、売上が増加、株が上がり、投資家が儲かるという循環が生まれている。
経済産業省は、2019年5月に「SDGs経営ガイド」を公表した。大企業・ベンチャー企業の経営者、機関投資家、アカデミア、国際機関から出された6回にわたる「SDGs経営/ESG投資研究会」の議論を整理し、企業が本業を通じてSDGsに取り組む「SDGs経営」のエッセンスや投資家がこれを評価する視座等をまとめている。ガイドの中身は次の骨子となっている。

  1. 世界中の企業が新たに、さらに「SDGs経営」に取り組む際の羅針盤を提示するとともに、投資家が「SDGs経営」を評価する際の視座を提供すること
  2. 日本企業の「SDGs経営」の優れた取り組みを世界にPRすることで、海外から日本企業への投資を促すこと

彦根商工会議所版SDGs

では以上の背景を踏まえて、当所の取り組みはどうだろう。
当所では2019年度に「IT推進研究会」「スタートアップ研究会」「地域交通研究会」「彦根城世界遺産登録推進委員会」の4つの委員会を発足し、イノベーションに取り組み始めた。2019年秋には、それに準ずる形で2020年度の国・県への要望を提出する。各々の取り組みをSDGsの観点から見てみよう。

「IT推進研究会」「スタートアップ研究会」×SDGs

  

滋賀県の人口は2014年から減少局面に入った。特に生産年齢人口と年少人口の減少推計に加え、廃業率が開業率を大きく上回り、全国平均からも開業率が極めて低位にある。このような現状から、スタートアップへの大胆な政策は急務となっている。滋賀県は、良好なアクセスと防災面から恵まれた立地にあるため、高度先端技術を有する大手工場や研究施設が立地し、マザー工場として拠点化が進んでいる。加えて、データサイエンティストの育成を目指す滋賀大学データサイエンス学部・研究科の設置により、正に起業家を輩出するに相応しい環境が整いつつある。STI(科学技術イノベーション)やスタートアップをはじめとした「彦根版Society5.0」を加速させるためには、民間活力を最大限に活用しながら、起業家を育成する体制とアクセラレーター機能などの環境整備が不可欠だ。
政府は、統合イノベーション戦略(2019年6月21日閣議決定)において、拠点都市を中心に起業家や投資家が集うエコシステムの形成を目指し、起業家育成から起業、事業化、成長段階まで、一貫した支援環境を実現するための施策を展開しようとしている。この統合イノベーション戦略は前述の日本版SDGsを推進するためのSTIやSociety5.0の推進を内包しており、更には人材育成改革(初等・中等教育からリカレント教育)、地方創生の実現(人口減および雇用対策)、起業家の集積による持続的な地域経済の発展という観点からも、彦根版Society5.0の推進のコンセプトと合致する。
いわば当所の「IT推進研究会」「スタートアップ研究会」は「彦根版SDGs FOR 彦根版 Society5.0」なのである。

「彦根城世界遺産登録推進委員会」「地域交通研究会」×SDGs

   

世界遺産とは、1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づき「世界遺産リスト」に記載された「顕著な普遍的価値」をもつ建造物や遺跡、景観、自然のことを指す。彦根城の世界遺産登録を目指すためには、遺産の保護・保全だけでなく、世界遺産を保護・保全するためのまちづくりを考え、実行する必要がある。例えば、観光客増加によって車や店舗が増えすぎ、周辺環境や景観を悪化させてしまわないように配慮が必要となる。
当所では彦根城の世界遺産登録を推進するための委員会と同時に、安心安全で便利且つ楽しみがあり整った地域交通を目指す研究会を設置するに至った。こういった登録と同時に保護・保全を念頭に置いたまちづくりは「世界遺産まちづくり」といわれる。このコンセプトは日本版SDGsの2本目の柱である「SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり」に合致しており、「彦根城世界遺産登録推進委員会」「地域交通研究会」はいわば「彦根版SDGs FOR 世界遺産まちづくり」ということができる。壮大に見えるSDGsだが地域経済や地域社会に目をやることで意外と身近に関連付けることができる。

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