新型コロナウイルス感染症の拡大は、首都圏や大阪、北海道などで感染者数が過去最多を更新し「第3波」の到来が顕在化しつつある。
滋賀県の人口10万人当りの累計感染者数は、11月26日の時点で53.8、全国16位となっている。近畿では大阪213(3位)、京都100.6(10位)、兵庫県95.8(11位)、奈良県77.3(12位)、彦根への観光客の多い愛知県は124.7(6位)と、滋賀県を囲むように感染が拡大しているようだ。古来より近江は交通の要衝であり、物流・観光の要であるだけに、いっそうの感染拡大防止に努めなければならない。
「第3波」が顕在化するなかで、「Go Toトラベル事業(サービス産業消費喚起事業・以下Go To事業)の見直しや時短、移動制限など感染拡大防止策が徐々に強化されている。事実27日、Go To事業に関して、到着分の一時停止を決定し、札幌市・大阪市について、出発分も利用を控えるよう呼びかけがあった。
更に感染が拡大すれば、財政支援を続けるにも限度がある。
「経済社会活動を続けながら感染拡大をいかに抑え、事業を成長させていくのか」。New Normalの課題である。

「安心」の確保は大きな差別化の手段

「New Normal Standard」とは、清潔と安全を保障する「安心」の確保が当たり前になる状態である。地域間競争においてもビジネスにおいても「安心」の確保は今後大きな差別化の手段となるだけでなく、ダイレクトに集客に影響する要素となる。
(株)MS&Consultingは「緊急事態宣言解除後の消費動向」として、緊急事態宣言が最後に解除された一都三県の小売業(スーパーマーケット・ドラッグストア・食物販)について、消費者モニターの来店調査を行った。その一部を承諾のもと紹介する。

調査概要

調査期間:2020年5月30日~6月10日
調査件数:42件
調査エリア:首都圏近郊(一都三県)
調査方法:一般消費者モニターによる店舗来店型調査
調査票:入店から退店までのコロナウイルス対策に関する53設問

「安心感」に大きな差

法人別「コロナウイルス対策調査」は、感染防止策への評価(100点満点)を、業種別、企業別に表した結果である。「スーパーマーケット業界」で評価が最も高かったA社が79.7、最も低かったE社が56.5と約23ポイントの差があり、同様に「ドラッグストア業界」「食物販業界」においてもジャンルに関わらず企業ごとに評価点に大きなばらつきがみられる。
各社それぞれに感染防止策を行っているにも関わらず、消費者が感じる「安心感」には大きな差があるという結果だ。

「再来店意向」にも大きな差

「安心・安全に利用できると感じましたか?」の問いの回答では、「とても安心できた」28%・「問題ない」56%・「不安を感じた」15%であった。「とても安心できた」と「問題ない」を合わせると約84%となり、多くの消費者が小売店舗の感染防止対策に不安を感じていないということがわかる。ところが、「とても安心できた」という回答と、「問題ない」という回答では、次に記す「再来店意向(またこの店舗を利用したいかの意向)」に大きな差を及ぼすことが明らかになった。

感染防止策に、「とても安心できた」「問題ない」「不安を感じた」と回答した調査モニターに、「調査店舗をまた利用したいか」と質問した結果、「とても安心できた」と感じた調査モニターの82%が「絶対利用したい」と回答しているのに対し、「問題ない」と答えた調査モニターでは14%であった。感染防止策が「とても安心できた」と評価されるのと、「問題ない」と評価されるのでは、「再来店意向」に約68%も差がある。

感染防止策により、安心・安全を十分に感じるかどうかが、利用店舗を決める理由となっているといえる。加えて「不安を感じた」店舗では当然ながら「また利用したい」という調査モニターは0%だった。

感染防止策が「不安に感じる」理由

どんな時に消費者は、「この店舗の感染防止策は不安だ」と感じるのか。以下7つの対策に不備があると消費者は感染防止策が不十分であり不安を感じるということがわかった。

  1. 入口に消毒液がない、もしくは見当たらない
  2. マスク着用のバラツキ(着用している、していない、着用しているが鼻がでているなど)
  3. 手袋着用のバラツキ(着用しているスタッフと、着用していないスタッフがいる)
  4. 飛沫シートの隙間
  5. スタッフ同士の私語
  6. 手渡しによる金銭授受
  7. だらしない身だしなみ

「問題ない」から「とても安心できた」に高めるステップとは?

「不安を感じる」という状態から「不安はない」と感じる段階に上るためには何が必要なのか、「不安を感じる」時と「不安はない」という時でどのような違いがあるのか調べてみた。そこからわかった不安撲滅の鍵は「レジ周りの感染防止策」にある。

  1. レジ待ち時の並ぶ間隔を示す印について、設置の有無
  2. レジ待ち時の並ぶ間隔を示す印について、適切な間隔での設置
  3. レジ待ち時の並ぶ間隔を示す印について、十分な量の設置
  4. 売場にてキャッシュレス決済を推奨するPOPや案内の有無
  5. レジにて非接触での金銭授受の推奨POPや案内のわかりやすさ

次のステップとして「不安はない」から「とても安心できた」に上るためには何が必要なのか。ポイントを5つにまとめた。

  1. 全ての入口に分かりやすく消毒液を設置
  2. 安心安全対策のPRはボリューム多く(特に入口付近は)
  3. 手に触れるものへの除菌度合いをPR
  4. ソーシャルディスタンスを意識した売場接客
  5. 飛沫シート越しでも伝わる感じの良いレジ対応

消費者の感染防止策に対する意識はコロナ禍を通して非常に敏感になっている。利用店舗を選ぶ基準においても優先順位の高い項目であることがわかる。 小売業(企業)における「感染防止策」はスタッフも安心して働くことのできる環境づくりである。「安全・安心」の担保は、人材確保の視点からも「New Normal Standard」なのである。

小売業の店舗における新型コロナウイルス感染症 感染拡大予防ガイドライン

但し、形式的な対応ではなく、消費者側の視点、働くスタッフ側の視点での感染防止策でなくてはならない。また、小売業にとっては「入店者の制限」も課題であろう。

小売業とデジタルシフト

コロナ禍は、Society5.0が加速し、小売業もデジタルシフトが課題となっている。DX(digital transformation)とは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」だった(不易流行4・5月号特集)。不易流行6月号では、New Normalに、次の一手を打つことができるかどうか、CXを取り上げている。CXは「Customer Experience」の略で「顧客が体験する価値」のことを意味する。
具体的に商品やサービスの物質的・金銭的な価値だけではなく、商品やサービスの購入前の販促・購入後のサポートなど、関連する顧客体験すべてをいう。
CS(Customer Satisfaction:顧客満足、顧客満足度)を、マーケティング・営業・物流・Webの設計、コンテンツ、デザインまで含めた全体で実現する。顧客目線で、現在・過去・未来を通しての「おもてなし」=「顧客が体験する価値」と考えれば理解しやすいかもしれない。
また、SNS・ブログなどで商品やサービスに関して、顧客自らが情報発信できるようになった。インターネットネイティブ・SNSネイティブと呼ばれる世代は、SNSを経由して目的のお店や商品、サービスに到達する。気に入れば、顧客みずからSNSで拡散してくれる。言い換えれば、顧客が商品やサービスを購入するということは、実際にはそれ以上の価値を企業にもたらすことになる。故に、「CXの向上が企業(商品)の差別化」を生み出す残された可能性なのである。
DX・CXに関して、なんとなく理解し、Web会議を経験し、自社の販売サイトをオープンしたり、リニューアルした事業所も多いだろう。今からでも遅くはない。補助金の活用とともに当所までお気軽にご相談いただきたい。
ただ、販売サイトができただけではモノは売れない。Webでの販売テクニックやデータの活用法は学ばなければならない。
コロナ禍で注目されたのが、ビデオチャットを通してスタッフが商品を見せながら説明したり、顧客の質問に答えながら商品案内やコーディネイトの提案をおこなうサービスだ。オンライン接客アプリ、リモートショッピングアプリのアップデートが盛んに行われている。
事実、三越伊勢丹は11月25日、「リモートショッピングアプリ」を本格始動した。今後、顧客一人ひとりのパーソナル情報に基づいた双方向コミュニケーションができる仕組みを構築していくという。非接触で対面販売を実現し、最適なタイミングでレコメンドを提供するNew Normal時代の新しい接客スタイルだ。

究極のリアル店舗

無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」は、JR山手線・京浜東北線の新駅「高輪ゲートウェイ」駅構内に本年3月にオープンした。既に周知のことだが、利用客が欲しい商品を手に取った後、「決済ゾーン」に立つと、ディスプレー上に商品と合計金額が表示され、Suicaなどの交通系ICカードをタッチするだけで決済、退店が可能となる。クレジットカードや各種電子マネーなど決済手段が拡大される予定だ。「アマゾン・ゴー」と異なり専用アプリをダウンロードする必要がなく、交通系ICカードさえ持っていれば誰でも使うことができる点だ。
「非対面・無人決済」であるためNew Normal時代の究極のリアル店舗である。近い将来「TOUCH TO GO」の店内に入ると、スマートフォンがブルブルと震え、レコメンドを表示してくれるようになるのかもしれない(なるに違いない)。

SDGsとエシカル消費

「考え方」が重要である。「考え方を述べること、あるいは考え方を売ること、これらが強く求められる時代がやってきた。企業も商品サービスも、明快な差別力とコンセプトがなければ売れない時代になったのである」。1989年に出版された『時の料理人』(谷口正和著)の一文である。考え方が最初にあり、表現はその次であると言っているのだ。必要だから購入するモノもあるだろうが、興味がなければ消費者は何の反応も示さない。リアル店舗での販売とWebでの展開は全く違うのである。
繰り返すが、デジタルシフトで最も大事なのは、「何を実現したいか」である。コロナ禍においてDXの手段ばかりが注目され、「何を実現したいか」「どんな商品をなぜ売るのか」という、根っこにある考え方(コンセプト)が重要なのである。
SDGsとともに、「エシカル消費」という言葉もよく聞くようになった。環境や社会に配慮した商品を選択する消費活動をいう。SDGsの「持続可能な開発目標」にあてはめれば、12番「つくる責任つかう責任」、そのほか1番「貧困をなくそう」、10番「人や国の不平等をなくそう」、13番「気候変動に具体的な対策を」、14番「海の豊かさを守ろう」、15番「陸の豊かさも守ろう」である。これらの目標をカバーするのがエシカル消費となる。「フェアトレード」とともに、Webでの表現を考えてみてはどうだろう。

もうひとつのリアル

V-RESASによると、10月第4週の宿泊者数(前年同週比)はプラス36%増だが、滋賀県はプラス193%。2位の神奈川県プラス119%、3位の長野プラス112%となっている。交通の便がよく、森林に囲まれ、琵琶湖が真ん中にある滋賀は、風通しがよく安全なイメージがあるのだという。
観光立地の小売店はこの地の利を活かさない手はない。来訪者の目線で安全・安心の感染防止対策を施し、SDGsやエシカル消費を意識した地場産の商品展開など、大移動時代ではなく、New Normal時代の観光消費を予測し備えておく必要はあるだろう。
人に会わない非接触の時代、実際に人と出会いたいという気持ちもより強くなるだろう。無人店舗も増えていくだろうが、人と出会えるもうひとつのリアル店舗が求められる時代でもあるのだ。