タブレット学習に取り組む様子

GIGAスクール構想

文部科学省は、2019年12月に「GIGAスクール構想」を発表した(GIGA:Global and Innovation Gateway for All / すべての人にグローバルで革新的な入り口を)。施策の中核となるのは、全国の小中学校の児童・生徒への「1人1台」の学習用端末の配備と、高速大容量の学校内無線LANの一体的な整備だ。萩生田光一文部科学大臣は、1人1台端末環境は、もはや令和の時代における学校の「スタンダード」であり、特別なことではないとした上で、「忘れてはならないことは、ICT環境の整備は手段であり、目的ではないということです。子供たちが変化を前向きに受け止め、豊かな創造性を備え、持続可能な社会の創り手として、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成していくことが必要です。」と述べている。
当初のGIGAスクール構想では、「1人1台端末」は2023年度までに整備予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大で全国のほとんどの学校でオンライン授業への移行が急務になったことを受け、「1人1台」を整備するための予算は2020年度補正予算に前倒しされた。全ての子どもが家庭でも授業を受けられるようにするための通信環境整備にも予算が充てられ、学校のICT導入を技術的に支援する専門知識を持った「GIGAスクールサポーター」を配置する費用も盛り込まれた。
また、2020年度から小学校では「プログラミング教育」が必修化された。AIに代表される急激な社会の変化に対して、職業に関係なく一定のIT知識が必要となることや、国内のプログラマー不足解消により国際競争力を高める必要があることが必修化の背景である。「プログラミング的思考」を身に付けるための教育が行われることにより、子供たちに深く考える力や的確に指示を出す力、論理的な思考力が身につき、将来、プログラマーだけではなく様々な職業で役立つことや、国内のITリテラシーの向上が期待されている。

彦根市の導入状況

彦根市においても国の方針に基づき、2021年度を「GIGAスクール構想活用元年」と位置付けて現在準備を進めている。彦根市教育委員会においては、市内小・中学校の全員分となる9,833台のタブレット端末の配備や、各学校のLAN整備、児童・生徒の家庭のインターネット環境を整えるためのモバイルWi-Fiルーター貸与準備はおおむね完了し、現在は新学年に移行した後の機器設定等の年度次更新作業中とのことである。(4月22日現在)
これまでの紙媒体・黒板を使った授業から、タブレット端末や授業支援ソフトを活用する授業への子どもたちの「学び方改革」によって、様々な効果が期待されている。例えば、「一斉学習」において写真等の拡大・縮小や画面への書き込み等を活用して説明することで子どもたちの興味・関心を高めることができる。また、双方向型で一人ひとりの考えを把握でき、学習履歴を確認し、理解度に応じて「個別学習」の可能性も広げることができるなど、きめ細かな授業ができるようになる。さらには、「1人1台端末」の活用により全員の意見を共有して多様な意見に即時に触れながら進めていく新たな形の「協働学習」も可能になる。このように、子どもたち一人ひとりの資質・能力をより確実に引き出す効果が期待できるのである。
彦根市では、今年度の5月をICTを活用した学習の試行期間、6~7月を活用初期、9月からは「主体的・対話的で深い学び」に基づく学びや授業での活用期、1月以降を活用定着期とするなど、それぞれの期間の目標を定めて計画を進めていく考えだ。この計画を進めるためには、教員がタブレット端末や授業支援ソフトの取り扱いに習熟することが必要となる。彦根市では各学校でICT推進リーダーの教員を中心に研修を行うことや、民間の専門家であるICT支援員の学校派遣等により、全ての教員が授業においてICTを使いこなすスキルを身につ付ける支援体制を整えていく予定である。
また、昨年度から校務端末への「校務支援システム」の導入を進めており、学校教育のICT化より業務効率が向上し、教員の「働き方改革」につながることへも期待されている。

タブレットドリルへのログインの様子

市内学校間をつなぐ遠隔通信の様子

彦根商工会議所のIT人材育成事業

当所においても、地元大学と連携し、地域の未来に向けた人材育成を目的として、市内小学生を対象としたIT教育事業「ひこね Kids プログラミング事業」を実施し、着実な成果をあげている。小学校におけるプログラミング教育の必修化を受け、2017 年から短期集中型プログラミングワークショップ「Tech Kids CAMP in 彦根」を開催。小学生向けのプログラミング事業を展開する(株)CA Tech Kids 監修のもと、学習用プログラミング言語「Scratch」でオリジナルゲームを開発する講座・世界的人気ゲーム「マインクラフト」(通称マイクラ)の世界でプログラミングを体験する初級・中級講座を開講している。指導者(メンター)は滋賀大学データサイエンス学部の学生が務め、基本的なプログラミング学習に加え、最終日には学んだ成果をステージで披露する発表会を開催している。
また、「ジュニアITスクール」は、パソコンに興味を持つ小学生を対象に、継続的に学べる常設のプログラミングスクールで、2019年10月に開講。小学生向けオンラインプログラミング学習サービス「QUREO(キュレオ)」を使用し、少人数制で、メンターには研修を受けた滋賀大学の学生を起用。受講者は、授業内でタイピング練習やプログラミング能力検定にもチャレンジし、楽しくプログラミングの概念を学んでいる。
一方、彦根商工会議所IT推進研究会では、より多くの市内小学生にプログラミングに興味をもってもらうことを目的として、今年も彦根の小学生を対象に「ひこねKidsプログラミングコンテスト」の開催を予定している。このコンテストは、全国大会「Tech Kids Grand Prix」(2018年より全国の小学生を対象に開催されているプログラミングコンテスト)の地方版で、コンテストへの参加は、期間内(7月1日~9月24日)にオンライン上でエントリー・作品提出を行う。作品のテーマ・ジャンルは自由、プログラミング言語も指定なしで、子供たちの自由な発想で作られたオリジナル作品を募集し、優秀な作品の応募者を表彰する。

今後の展開

当所では、2020年11月に滋賀大学と包括的連携協定を締結した。地域の未来に向けた地元経済界と滋賀大学の連携深化を目的とするもので、今後この協定を契機に、子どもプログラミング教室や寄附講座「世界遺産学」、大学発ベンチャーのスタートアップ支援に加えて、長期有給インターンシップの推進やアドバンスAIプログラミング教材やデータサイエンス教育プログラムの共同開発等を推進することになっている。次世代の人材育成を見据えた、産学連携の取り組みである。
今後、企業などが自敷地内という限られたエリアで5Gを使った通信環境を構築して活用するローカル5G(ローカル第5世代移動通信システム)の普及により、IoTや重機遠隔操作、スマートファクトリーなどを可能とするICTインフラの整備が進むことが予想されている。また、急速な少子高齢化により将来の労働力人口減少が懸念されると同時に、健康寿命が延びることで「人生100年時代」がやってくると言われている。このような中、全ての人に開かれた教育機会を確保し、何歳になっても学び直しができるリカレント教育についての議論が活発になっており、これまでの産学連携の取り組みをジュニア世代・シニア世代を含めた全市民型の人材育成プログラムの構築に繋げていくことが重要である。
政府のデジタル庁が主導して進められるDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が地方にも押し寄せてくることは確実である。DXにより生産性を向上させ、地方創生につなげる地域だけが生き残ることができる時代はすぐそこまで来ているのである。
GIGAスクール構想によるデジタル・ICT教育を受けた世代が、DX後の社会を切り開いていけるよう当所会頭方針にある「夢と未来を語れる人づくり」を産官学が協力し、先駆的な取り組みを積極的に行っていかなければならない。