地域経済分析システム RESAS・V-RESAS

新型コロナウイルス感染症の影響で経済が激変し、地方創生や企業の戦略策定にビッグデータを活用して地域の経済状況を読み解くことが求められている。RESAS(リーサス)・V-RESAS(ブイ-リーサス)は、インターネット上で誰でも簡単にマクロな分析ができる。どちらもWebサイトにアクセスするだけで利用できる(無料)。いずれもデータの収集・分析・視覚化の一連の作業が一つのプラットフォームの上で行われるので、データ分析の初心者でも地域の強み・弱みなどの現状を容易に把握できる。
RESASは地方創生の様々な取り組みを情報面から支援するために経済産業省と内閣府まち・ひと・しごと創生本部が、官民ビッグデータを集約し、「可視化」する地域経済分析システムである。公的なデータに基づきデータの収集方法が明らかで信頼性が高く、二次利用が容易である。政府統計であるため更新頻度が低く、直近でも1~2年前のデータとなる。
「可視化」の地域単位が粗く、コロナ禍において、詳細な最新データが欲しいというニーズに応え、2020年6月30日より運用が開始されたのが、V-RESASである。
V-RESASは様々なデータを週単位で可視化し、人流・消費・飲食・宿泊・イベント・雇用などの詳細な推移データの把握を助けるシステムである。データの更新頻度が高く、調査項目も豊富だが、民間データであるため、データの収集方法などが公表されていない。
RESASは長期的な傾向の把握に適し、V-RESASは直近のデータ把握に適している。それぞれの項目により確認できる地域単位や期間が異なるため、目的に応じて使い分けることが必要である。

RESASの活用

地域経済分析システム RESAS

RESASの分析項目は「人口」「地域経済循環」「産業構造」「企業活動」「消費」「観光」「まちづくり」「医療・福祉」「地方財政」の全9項目(簡易解説書・概要もダウンロード可)。地域経済循環図では、地域内経済の全体像を把握し、「生産→分配→支出」と流れる地域の経済循環が分かる。
「生産」は地域産業がどの程度所得を稼いでいるか、「分配」は地域で稼いだ所得は、地域の住民や企業にどの程度分配されているか、「支出」は地域の住民や企業が得た所得は、消費や投資にどの程度支出されているかを示している。生産・分配・支出の三側面のGDPは同額になる「三面等価」が3つのグラフでビジュアル化される(※2015年彦根市の地域経済循環図)。

2015年彦根市の地域経済循環図

2015年彦根市の地域経済循環図 -【出典】 環境省「地域産業連関表」、「地域経済計算」(株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)受託作成)

この図に追加し、2010年や2013年のデータを取得することで、企業の利益のうち、その他所得(起業所得、財産所得など)の流出が拡大していることや、その他の支出が増加していることから輸出拡大の傾向があり、地域住民の消費は域外へ流出し続けていることを読み取ることができる。

2015年の分析だが、彦根市経済循環の概要を把握し大まかな傾向を知ることは可能である。
更に、滋賀県の「付加価値額」「所得」「支出流入率」のデータから、2次産業の付加価値額、雇用者所得、民間投資額は全国的にもかなり上位であるが、民間消費の流出がかなり大きいことも分かる。

また、複数のマップを組み合わせることで、より深い分析が可能となる。例えば、「産業構造マップ」で地域産業の強みを把握したうえ、「観光マップ」「まちづくりマップ」で地域内の人の移動や集中状況を知ることで、マーケティング戦略などに活用できる。 訪日外国人に関する観光データの分析も可能である。RESASの「観光マップ」には、国籍別や訪問目的別の外国人訪問者数(都道府県単位)がわかる「外国人訪問分析」や、月別の昼間・夜間の外国人滞在人数がわかる「外国人滞在分析」、外国人の滞在状況が地図上に可視化される「外国人メッシュ」機能もあり、インバウンドの取り組みへの利用が想定される。

V-RESASの活用

V-RESAS

V-RESASは、まずトップ画面の「全国サマリー」で日本全体の主要な指標を折れ線グラフで表示しており、全国の状況を一目で確認することができる。提供データは、「人流」「消費」「飲食」「宿泊」「イベント」「雇用」の全6項目。「解説コラム」では、データの見方や分析方法を解説している。
新型コロナで打撃を受けた宿泊業だが、「湖東地域の宿泊者数」データから、3月~7月は壊滅的な状況だったが、9月~12月は劇的に回復し、2021年1月には再び落ち込んだことがわかる。これはGoToトラベルの影響と考えられる。
更に、湖東の「予約代表者の居住地ごとの宿泊者数」データは、2020年6月以降、県内からの宿泊者数の伸びが大きく、前年比で最大3,000%を超えている。
新型コロナ以前にインバウンドが急増していた地域の観光戦略も、コロナ禍で大きな変更を余儀なくされているが、「県内居住者の観光による消費額向上に資する戦略の構築が持続的な観光に繋がる」ことを読み取ることができる。

湖東の宿泊者数(2019年同週比)

湖東の宿泊者数(2019年同週比) - 出典:観光予報プラットフォーム推進協議会(事務局:日本観光振興協会)

アフターコロナに向けて

このようにビッグデータに基づいて地域経済の状況を分析できるRESAS・V-RESASは、中小企業の経営計画の策定や補助金申請の際にも活用が期待されている。彦根商工会議所中小企業相談所の担当者は、「経営者の経験や思い込みではなく、客観的なデータに基づいて現状を把握し、将来の姿を予測することができるRESAS・V-RESASは、商圏分析やマーケティング戦略の策定において説得力のある資料の一つとなるのでは」と話している。
今後、地域の実情・特性に応じた施策の検討と実行が不可欠である。アフターコロナに向けて、地域でできることは地域で担うローカルファーストの取り組みや、地域にヒト・モノ・カネを呼び込むマーケティングを進めていくために、ビッグデータを読み解くことはさらに重要になるだろう。
Web上には膨大なオープンデータが存在している。例えば、日本経済新聞(7月21日)に、「多様な働き方できる自治体『10万人都市』上位占める」という記事が掲載され「多様な働き方が可能な条件がそろうトップ10」の9位に彦根市がランキングされていた。日経と東京大学が各種都市のデータを集計し、多様な働き方が可能な特徴を点数化したものだ。記事で活用しなかったデータを含む調査結果が、閲覧しやすいように表形式で可視化し公開されている。

主要都市(10万人以上の市区)の潜在力データ - 日本経済新聞社・東京大学越塚登研究室共同研究

記事と調査結果を見ればデータをどのような視点で読み解くか、課題の持ち方次第で未来が見えてくることがわかるに違いない。