近江三社寺ものがたり

2022年6月20日午後7時から彦根商工会議所4階大ホールで、 多賀大社・西明寺・金剛輪寺の歴史と遺産(宝物)を学ぶヒストリア講座「近江三社寺ものがたり」が2時間にわたり開催された。後述する「世界遺産でつながるまちづくりコンソーシアム」の第1回目の事業である。新型コロナウイルス感染拡大防止対策を施した会場には134名(定員150名)が参加しほぼ満席となった。
各社寺のPVが流れた後、片岡秀和多賀大社宮司・中野英勝西明寺住職・濱中大樹金剛輪寺住職から直接、伝承や歴史と国宝・重文・名勝などの文化遺産についてお話いただいた贅沢な時間となった。
参加者アンケートに78名の回答があり、「講座の感想」(抜粋)は次の通り。

  • 地元彦根にある名勝、文化財にもかかわらず知る機会がなく、大変興味深く参考になった
  • 書物でなく直接宮司様や住職様直々に生のお話をお聞きできたことは大変有意義であった
  • 各社寺が地域にあり、参ったこともありながら、縁起や所有する国宝等について何も知らず大変よかった
  • 近くの寺社仏閣が非常に由緒正しく、歴史的価値の高い貴重なものであることに改めて気づいた
  • 今回の様な講座は珍しい企画で、なかなか実現しない企画でよかった
  • それぞれのなりたちのみならず、神社やお寺の楽しみ方、坊人の存在、思想の深さ、大変興味深かった。滋賀の地域にますますワクワクした
  • 着席位置が前列から後半であった事が影響したのか、マスク着用で話された影響か、今迄に無く最初から最後迄、言葉が大変聞き辛かった
  • せっかくのプロモーションビデオが周りが明るすぎてか? よく見えなかった
  • 近江三社寺と国宝彦根城との関連した内容も話してほしかった

「講演会にはどのくらい満足されましたか」の設問に対しては、大変満足59・7%、満足36・4%、不満3・9%という結果だった。講座の感想を参考とし、新たな「愉しみ」の要素を付加しながら、講座開催の改善に努めなければならない。

彦根商工会議所が開催する講演会等の受講は今回で何回目ですか?

講演会の開催をどこで知られましたか?

講演会にはどのくらい満足されましたか?

 

世界遺産でつながるまちづくりコンソーシアム

コンソーシアムは、湖東湖北5市4町(彦根市・長浜市・近江八幡市・東近江市・米原市、愛荘町・豊郷町・甲良町・多賀町)の商工団体、観光団体など23団体で構成する「彦根城の世界遺産登録」の実現を目指す共同事業体である。2024年の世界遺産登録に向け、「登録への機運醸成のための啓発活動」「彦根城世界遺産登録に関する広報活動」「デジタルシステムを活用した情報発信」「世界遺産に関する学習機会の提供」などを実施していく。
湖東・湖北は彦根城を代表とする「文化遺産」と「歴史」、恵まれた「自然環境」、日本の中心に位置する「地勢」など、潜在的な可能性を有する地域だ。2025年、「国民スポーツ大会滋賀」「大阪関西万国博覧会」が開催され、2024年に彦根城が世界遺産として登録されたならば、湖東・湖北地域活性化の起爆剤となる。彦根城の世界遺産登録の実現は、他都市には持ち得ないアドバンテージなのである。

ヒストリア講座「近江三社寺ものがたり」小出会頭の挨拶

コンセプトは「LAYERED」

「LAYERED」(レイヤード)は重層的な重なりを意味する言葉だ。「layer」=層、 積み、 重ねと訳されている単語の過去形・過去分詞である。コンピュータで作業する際にも「レイヤー」というように一般的になっている。
2007年国宝・彦根城築城400年祭のとき、当所はわがまちの隠れた魅力を再発見しようと「彦根まちなか博物館」事業に取り組んだ。 橋爪紳也氏(当時 大阪市立大学都市研究プラザ教授・工学博士 / 現 大阪公立大学研究推進機構特別教授)は、「彦根まちなか博物館」コレクションブックに次のように記している。
「琵琶湖を望む湖東の地に城塞と市街が築かれた日から今日にいたるまで、この城下でどれほどの人が生まれ、育ち、そして生き抜いてきたのだろうか。誰もがあの天守を仰ぎながら、日々の暮らしを積み重ねてきた。世代を越えて蓄積された人々の営為が、この町にしかない生活文化として結晶、彦根城下に固有の習俗や生業として継承されている。しかしその本質的な意味を、私たちは見落としがちだ。もういちど身近な歴史と文化の鉱脈を探索してみよう。
歴史が幾重にも層をなしている城下町には、これまで多くの人が気づいていなかった魅力が随所に隠れている。歴史都市とは、地域づくりの素材が無数に眠る宝庫といって良いだろう。今、私たちは先人への尊敬の想いを抱きながら、自身が立つ足元をまず探り、有益な文化の断片を堀りだし、文化的な土壌を耕し直す時期にある」。
「LAYERED」というコンセプトはここに集約されていると言ってもいいのではないだろうか。

鉱脈の探索と発掘

「LAYERED」は歴史都市の魅力のひとつである。では、どのような歴史が重層的に存在しているのだろうか……。まず歴史を紡ぎ新たなコンテンツを創造するためには、鉱脈を探索し発掘しなければならない。
ヒストリア講座は主催者と参加者が情報を共有することができるひとつのインキュベーションの手法である。今後、長浜、米原、近江八幡、東近江(順不同)とエリアを移しながら、探索と発掘、そしてキュレーションが行われる予定だ。
「近江三社寺ものがたり」においては彦根城築城以前から続く歴史の「LAYERED」を学ぶことができ、そこにはミステリアスな謎が今も説き明かされず眠っていることがわかった。更に、西明寺・金剛輪寺の紅葉は世界的に有名だが、青紅葉の季節もこの上なく美しいことも伝えたい。

コンソーシアムの事業

コンソーシアムでは、幾重にも連綿と積み重なった歴史の物語を活かしながら、グローバルな目線で評価され、歴史を知るキッカケになるコンテンツを制作し、近江エリア全体を面で捉え、世界遺産登録後の世界を描こうとしている。
現在、海外に多くのファンを持ち、Instagramのフォロワーは26万人を超えるフォトグラファー保井崇志(やすいたかし)氏に依頼し、湖東・湖北エリアのスチルとショートムービーの撮影が行われている。9月には「LAYERED」のウェブサイトが公開される予定だ。
現代の世界では、「機能的価値=役立つ」から「情緒的価値=意味がある」という流れがあり、価値の軸足の大きな変更が必要になってきている。このサイトは、テキスト情報で魅力を伝えるのではなく、スチルとショートムービーで、世界遺産が存在する湖東・湖北のニュアンスを伝えようとするものだ。彦根城、多賀大社、西明寺、金剛輪寺、竹生島などは既に撮影済みで順次エリアを拡大していく。勿論、インフルエンサーの協力により一気に拡散できるよう計画している。

ニューノーマル時代の世界遺産

新型コロナウイルスの感染拡大は、我々をとりまく様々な環境(国家・社会・ビジネス・生活)に激変をもたらした。アフターコロナ、ウイズコロナのニューノーマル(新しい生活様式)が声高に叫ばれているが、その本質は価値の変化への対応である。
例えば、加速度を増すDXの潮流は不可逆で、世の中は全く異なるOSで動き始めている。キーワードは、デジタル・リモート・シェア(共有)・ブロックチェーン・非接触・安全安心、5年後、10年後の未来予測を語る各分野の専門家の共通する見解である。彦根城の世界遺産登録を機に、ニューノーマル時代への対応をどのように進めるのか、5市4町の民間団体の大きな課題であることは間違いない。
ヒストリア講座以外の事業にも取り組み、課題の解決に挑まなければならない。