小出英樹会頭は2013年に就任されてから、近江ツーリズムボード(OTB)の設立、近江テック・アカデミー(OTA)の設立、JETROの誘致、ひこねkidsプログラミングコンテスト(地域連携の推進と教育プログラムへの取り組み)、インターネット投票の仕組みづくり、彦根プレミアム塾として彦根ヒストリア講座・書道塾、国宝・彦根城築城410年祭、国道8号線 【バイパス計画】(彦根〜東近江)事業化推進、世界遺産検定、世界遺産でつながるまちづくりコンソーシアム設立など、数多くの事業に取り組んでこられました。2022年10月で退任されるにあたり、在任期間を振り返りながらお話しいただきました。
先を見据えて動くための情報
書籍、雑誌、Web、様々な情報源がある現代で、ときどきピンとくるものがあります。例えば、スポーツなどの大きな大会があると、経済も大きく動きます。こういった情報からマーケットを知っておくことは重要です。また、様々な業界と繋がりをもつ金融機関の方からのお話はいつも興味深く聞いています。
何事も好奇心をもってアンテナを高く張り、その上で情報を掘り下げ、動きながら考えてビジネスをつくっていくことが大切だと考えています。
私の場合は食器のビジネスに限界を感じていたときに、映画や恐竜が好きだったことから着想を得て、夢のある未知の世界、空想力の世界をビジネスにしてみてはと思いました。そこから映画「ジュラシック・パーク」で造形作家を務めたマイケル・ターシックさんを訪ね、契約をさせていただきました。天文学や恐竜学はアマチュアがプロフェッショナルと肩を並べることができる世界だというのも魅力的でした。実は地域の歴史は歴史学者より郷土史家の方がより深く情報をもっています。
商品もサービスも、付加価値をどのように創造していくかが重要だと考えています。
未来を考えつくる事業
商工会議所という組織は、地域においては非常に大きな団体です。会議所が動けばイノベーションを興すことができます。しかし、事業を継続し定着させるためには、参加することのメリットが必要です。
会議所の事業は、相談や補助金・経営セミナーなどメリットを実感できるものと、地域の課題解決を目指し未来を創造するまちづくりに取り組むものがあります。後者はハードルが高く、困難さを感じていましたが、議員の皆様や行政、関連団体の方々にご理解いただき、取り組むことができました。
どの事業も中長期の計画で、成果が出るまでに時間がかかるものばかり、成果はまだこれからというのが正直なところです。
JETROは海外戦略を志すときに大きなサポートを期待できる機関です。人口減少が予想される国内マーケットと比較して、海外マーケットには大きな可能性があります。国際ビジネスに中小の事業所で取り組むにはJETROのお力を借りたほうがいい。滋賀県への誘致の気運があり、投資効率からもメリットがあると考え、会議所で受けさせていただきました。
国道8号線バイパスの計画は30年以上前からありましたが進みませんでした。「国道8号バイパス彦根・東近江間整備促進連絡会」(事務局:彦根商工会議所)を設置、「国道8号バイパス建設促進期成同盟会」(事務局:彦根市)と連携し早期実現に向けて要望活動に取り組みました。2024年か2025年には事業化の予定です。バイパスが完成すれば、「産業振興の促進」、「渋滞の緩和」が期待できるだけでなく、国道307号線の彦根〜東近江間の歴史観光に新たな展開も期待できると思います。
文化事業にも積極的に取り組んできました。ビジネスの本質は商品やサービスの付加価値の提供です。付加価値をつくる大きな部分は芸術や文化、伝統のキュレーションによって生まれるものだからです。
そして、常に意識してきたのは、大学との連携です。プラットホームはできてきたように思います。
彦根の未来を創造する事業のスタートを切ることはできました。走り出した事業は時代の変化とともに見直しが大切だと思っています。うまくいったものも、うまくいかなかったものも、しっかりと検証し、柔軟に変化していくこと、常にイノベーティブであってほしいと願っています。
尖った人財を育てる
大学もスペシャルな分野がないと生き残ることができない時代です。行政だけでなく企業においても、冒険や挑戦は二の次になっている気がします。
日本の企業は安定重視で、「尖った」企業や人財が育たない環境にありました。尖っているところが少ないように思います。「尖る」というのは簡単にいえば、「好奇心をもって挑戦する気持ち」=「もっと何かを変えたい、動かしたい、自分を表現したい、そのために頑張って冒険・挑戦する」というイメージです。
これからの時代、尖る人財教育として、国際化=語学力、情報化=IT力、この2つの「力」を子どもの頃から身につけることが、地域教育においてとても重要なことだと思います。英語、IT、勉強、スポーツ、チャレンジ精神をもった子どもたちが育てば、地域の企業も伸びていきます。
昔に比べると行政ができることが少なくなってきました。これまでも行政と連携しつつ様々な事業を進めてきましたが、人口の減少や東京一極集中による資金不足、人手不足により行政だけで進めていくには限界があると考えています。正しいかどうかは判りませんが、民間が資金面でもアイデア面でも積極的に取り組む時代ではないかと思っています。もちろん地域での取り組みも大切ですが、ひとりよがりではなく、行政・関連団体や企業と連携をしながら、これら支援の中心を会議所をはじめとした経済団体が担い、牽引していく必要があると常に感じていました。
彦根のまちに期待すること
今後の課題のひとつに「公共空間のデザイン(交流の場の創造)」があります。大阪府・市の特別顧問として2025年の大阪万博の誘致活動に尽力された橋爪紳也氏(大阪府立大学特別教授)も幸せを生む秘訣として「交流拠点をつくること」と述べられています。社会全体として交流の場は重要なポイントです。ビジネスだけでなく、社会問題全体について、自分のもつ知識や技術だけでなく人との関わりの中で解決の糸口や革新的な成果を見いだすことができ、全ての人が参画し、自分ごととして捉える。こうしたオープンイノベーションに向けた場づくりはネットでもリアルでも必要となります。
また、SDGsやCSRは日本の企業でも当たり前になってきました。ただし、前提として企業が収益をあげないことにはSDGsやCSRに取り組むことはできません。そして収益をあげるためには資金・仕組み・人財が不可欠です。
しかし、2019年度の中小企業庁のデータよると廃業率3・4%、2030年には3割程度の事業所が廃業するといわれています。開業率は4・2%。欧米諸国は10%前後だったと思うのですが、日本の場合は特に低いです。
地方には高齢化と人口低減、東京一極集中などハンディキャップがあります。マーケットが縮小し消費が減っていくのは明らかです。IT化が進みハンディキャップは少なくなってきているとはいえ、そこを打開していくためには、個性的な商品やサービスを生み出し、提供する人財こそが鍵となります。そういう尖った存在(イノベーティブな起業家)を育て、サポートしていく仕組みづくりが重要です。政府や行政によるスタートアップ支援を受けるには決まったルールに従わなくてはなりません。スタートアップ企業を伸ばそうと思えば、インフラはもちろんですが、マインドやノウハウをもった民間団体が可能性のある事業に投資していくカタチがベストではないでしょうか。
世界でいうと今後のマーケットの拡大は1番が化学産業、2番がエネルギー産業、3番は観光産業だといわれています。彦根城の世界遺産登録は他都市にはないアドバンテージです。そして都市の課題解決には不可欠となったシビックプライド(Civic Pride)は、「都市に対する市民の誇り」や「地域に対する愛着」だけでなく、自分自身が関わって地域を良くしていこうとする自負心をも示す言葉です。未来を想うとき、シビックプライドはSDGs・CSRと同じように、これからますます重要なキーワードになってくるように思います。湖東・湖北の広域での観光連携の実現と、シビックプライドの育成とともに近江の未来に期待したいと思います。