(株)滋賀銀行のシンクタンクである(株)しがぎん経済文化センターでは、四半期ごとに「滋賀県内企業動向調査」を実施している。今回「2022年第3四半期(7-9月期)」の調査では、888社を対象に291社から回答を得た。このうち、湖東地域(彦根市・愛荘町・豊郷町・甲良町・多賀町)からの回答は36社だった。

「製造業」の景況感は大幅回復し、2四半期連続のプラス水準

今回の調査期間(2022年7-9月期)での湖東地域の自社の業況判断DIは+3で、前回(4-6月期)のもちあい(0)から3ポイントの上昇となり、19年10月の消費税率引き上げ(+8%→+10%)前の19年4-6月期(+7)以来、3年3か月(13四半期)ぶりのプラス水準となった。県全体(▲12→▲11)はほぼ横ばいながら依然マイナス水準が続いており、湖東地域の水準は4四半期連続で県全体の水準を上回っている。
県内を地域別にみると、最も水準が高いのは湖東地域(0→+3)で、県内で唯一のプラス水準となった。次いで、南部地域(▲18→▲2)、東近江地域(▲13→▲8)、湖西地域(+13→▲13)、甲賀地域(▲18→▲17)、大津地域(▲19→▲18)、湖北地域(▲3→▲26)の順となり、多くの地域が前回から回復したが、湖西地域はプラス水準からマイナス水準に転じ、湖北地域ではマイナス幅が拡大した(図表1、図表2)。

湖東地域の業況判断DIを業種別にみると、製造業は+18で前回の+8から10ポイントの大幅上昇となり、2四半期連続のプラス水準となった。一方、非製造業は▲4で前回の▲6から2ポイントの上昇にとどまり、依然としてマイナス水準が続いている。製造業(+18)は県全体(▲8)を26ポイント上回り、非製造業(▲4)も県全体(▲12)を8ポイント上回っている(図表3)。
湖東地域の業況判断の個別コメントをみると、「主要先からの受注増加により、7~8月の売上が計画対比120%で推移している」(金属製品)、「新型コロナが常態化してきて、人の動きが活発になったため、前年に比べ20%の増収となった」(サービス)、「お客さまからの受注が順調に増えてきている」(その他非製造業)など、プラスのコメントが多くみられた。一方、「仕入価格のアップ」(繊維)、「電気代が前年比30%の高騰となり、経費が増加している」(小売)、「物価上昇の影響で、仕入価格や光熱費などが上昇し、営業利益が20~30%減少した」(サービス)など、物価高騰に関連するマイナスのコメントが散見された。
3カ月後(10-12月期)は8ポイント上昇の+11となる見通しで、製造業(+18→+27)は9ポイント上昇し、非製造業(▲4→+4)も8ポイント上昇し、プラス水準に転じる見込み。県内の他地域では、湖西地域はマイナス水準からもちあいに回復し、東近江地域は依然マイナス水準ながら横ばいとなるが、その他の地域ではマイナス幅が拡大する見通しである。(図表2、図表3)。

仕入価格DIは過去最高水準を更新

湖東地域のその他のDI項目をみると、売上DI(+23→+23)は横ばいにとどまったが、経常利益DI(▲3→+17)は20ポイントの大幅上昇となった。また、販売価格DI(+32→+39)と仕入価格DI(+79→+86)は、ともに7ポイントの上昇となり、特に仕入価格DIは、湖東地域での地域別分析を開始した15年以降で最高水準を更新した。これは、原材料やエネルギー価格などの高騰に、急速に進む円安の影響が加わったためとみられる。製・商品の在庫DI(▲7→+17)は24ポイント上昇し「過剰」に転じ、生産・営業用設備DI(▲7→▲8)は1ポイント低下し「不足感」がやや強まった。また、雇用人員DI(▲33→▲33)は横ばいとなったが、「不足感」が強い状態が続いている(図表3)。
3カ月後は、売上DI(+23→+14)と経常利益DI(+17→0)がいずれも低下。販売価格DI(+39→+42)が上昇し、仕入価格DI(+86→+86)は横ばいとなるが、いずれも高水準が続く見込み。

設備投資実施割合は5年ぶりに県全体を下回る

今回の調査期間(7-9月期)に設備投資を実施した(する予定)企業の割合は、湖東地域では46%で、前回調査(4-6月期)から7ポイント低下し、県全体(47%)を17年7-9月期以来、5年ぶりに下回った。
湖東地域の設備投資実施・予定(未確定を含む)の主な内容をみると、「生産・営業用設備の更新」(59%)が最も高く、次いで「生産・営業用設備の新規導入」(35%)となった(図表4)。

来期(10-12月期)に設備投資を実施する企業の割合は、湖東地域では52%と上昇し、再び県全体(40%)を上回る見通しである。

6割で「正社員」不足し、その9割で「若い世代」が獲得難

今回調査の特別項目として「雇用人員」の現状と課題について調査した。
現在の正社員の過不足感についてたずねたところ、湖東地域は「大幅に不足」が14.3%と7地域中で最も高くなった。「やや不足」(45.7%)と合計した[不足]も60.0%と、7地域中で唯一6割に達し、最も高かった(図表5)。

前問で[不足]と回答した先に、人員不足の理由をたずねたところ、湖東地域は「若い世代の人材獲得が困難」が90.0%と突出して高く、全体平均(73.9%)を超えて、7地域中でも最も高くなった。次いで「専門性の高い人材の獲得が困難」(60.0%)となった。
人口減少などによる将来的な労働力不足への対策についてたずねたところ、湖東地域は「中途採用の強化」(69.4%)が突出して高く、県平均(61.6%)を上回って7地域中でも最も高くなった。次いで「正社員の賃上げや賞与の引き上げ」(44.4%)となった。

「人的投資を行う」方針は約8割で、7地域中最も高い

今後の人への投資(人的投資)※についてたずねたところ、湖東地域は「積極的に人的投資を増やす」が48.5%と、7地域中最も高く、2番目に高い南部地域(43.8%)とともに、県平均(32.3%)を大きく上回った。「現在と同程度に人的投資を行う」(30.3%)と合計すると、湖東地域は78.8%と7地域中で最も高くなった(図表6)。

今回の調査では、湖東地域は多くの設問で7地域の中でも高い数値を示した。他地域と比べて人員不足や若い世代の雇用難が強く、その分、中途採用の強化や人への投資などで対応しようとする割合も高くなっている。地域企業の切迫した課題が表れた結果といえよう。

※人への投資(人的投資)… 個人がもつ知識やスキル、特性などを、新たな価値を生み出す「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すために費用や時間を投じること。具体的には、従業員のスキルアップや多様な人材が活躍できる環境の整備など。人材の確保や生産性の向上等の効果が期待できる。

【分析方法】DI(ディフュージョン・インデックス)

  • 質問の「増加(かなり良い・やや良い・上昇・過剰等)」の回答割合から「減少(かなり悪い・やや悪い・低下・不足等)の回答割合を引いた指数を採用。
  • 各項目の水準や方向性を示す。

寄稿:(株)しがぎん経済文化センター