11月より、沼尾護氏(滋賀中央信用金庫理事長)が当所第17代会頭に就任された。10月3日、滋賀中央信用金庫本部(小泉町)応接室において、会頭就任にあたっての思いや今後の展望について話を聴くことができた。


「不易流行」を考える

私の座右の銘は「不易流行」です。会議所会報名と同じです。周知のこととは思いますが、この四文字熟語は松尾芭蕉が「奥の細道」の中で見出した俳諧の理念です。「不易」は時を超えた不変の真理あるいは変わらないもの。「流行」とは時代や環境の変化によって革新されていくものをいいます。
私は、「流行」は「不易」を成し遂げるための方法・手段だと考えています。現代社会では「流行」のサイクルは3年程で変わりますので、臨機応変に対応していく必要があります。
2024年を目途に発行される新一万円札の肖像画として採用された渋沢栄一(東京商工会議所初代会頭)が、『論語と算盤』で書き記した正当な利益の追求と公益を第一とする「道徳経済合一説」、「士魂商才」の精神は現代の商工会議所にも脈々と受け継がれ、SDGsの目標達成には欠かせない理念となっています。言うまでもなくSDGsは「Sustainable Development Goals」、持続可能な開発目標です。
商工会議所のサステナブル、或いはサステナビリティを考えたとき、「会員を始めとした商工業者や、彦根にお住まいの人々のために発展的な未来を築くこと」が「不易」だという思いに至ります。
9月21日、小出英樹前会頭から「彦根城世界遺産登録の推進とまちづくり」「地域経済振興と中小企業対策」「大学、高校との連携」など9項目について引き継ぎました。これまでの会議所としての歩みを大切に、今まで以上に「不易流行」を大切にしながら、今後は「不易」の部分に力を入れていくつもりです。会員事業所の声を聴き、課題解決に尽力できる会議所を目指したいと思います。
まずはアフターコロナや円安、物価高、事業承継の悩みなど、課題を解決するためにはどんな方法があるのかということ、「流行」を捉え、サポートしていくことができる会議所を目指したいと思っています。

地域経済活性化に向けての課題と会議所の使命

現在の地域経済について

2020年1月より世界に広がった新型コロナウイルス感染症の影響により、世界経済は大恐慌以来の大きな打撃を受け、更に、物価高により中小企業はいっそう苦しい状況に追い込まれています。今年8月の時点で、消費者物価指数(前年同月比)はアメリカで8.3%、イギリス9.9%。対して日本は3.0%と驚くべき数字となっています。
この数字は中小企業が価格転嫁できず自らが吸収している状態です。さらなる値上げが今月にも実施されますので、価格転嫁ができなければ、今まで以上に多く中小企業は倒産の危機に直面するしかありません。
また、人材にも影響があり、従業員の給与アップは喫緊の課題で、上げていかないと物価上昇には追いつきません。給与を上げて人材を確保することが、これから企業にとって必須になってきます。そうなると、いかに企業価値を高めていくかが大きなテーマとなります。
経営に小回りが利き、果敢に挑戦し易い中小企業・小規模事業者が持つ役割・特徴に着目し、成長志向にしていくことが、「成長と分配の好循環」の実現のためにも必要であると考えられています。
会議所として、会員事業所の声をとりまとめ、適切に支援していく活動を積極的に行いたいと考えています。  

彦根の豊かな発展的未来の創造のためにできること

地域がより活性化していくためには、しっかりと経済の循環を促していく必要があります。豊かな発展的未来を考えていく上では、働く場所(事業所数)を減らさず増やしていくことが重要です。働く場所が彦根に増えれば、住む人も増えていく。それができれば、結果として、より良い経済循環を生みだすことができるのではないでしょうか。そのために「企業」をしっかりとサポートすることが大切です。
具体的には、創業(スタートアップ)支援、企業の成長の見守り、企業の発展、課題解決(ソリューション)、事業承継やM&Aにも力を入れていく。課題解決に繋がるのであれば、アライアンスの支援などもこれからの難しい時代に最も必要なことだと思いますし、会議所も真剣に取り組んでいかなければなりません。
創業とスタートアップの違いを整理すると、創業とは「事業を始めること、会社や店を新しく興すこと」です。その担い手が、起業家(アントレプレナー)です。ベンチャーとは和製英語で、英語ではstartupまたはstartup companyと呼ばれています。日本においてスタートアップは「新しいビジネスモデルを開発し、従来にない新しい事業を起こす」という意味で使われているようです。
私は会議所が取り組む「起業塾」にはもっと力を入れていった方が良いと考えています。起業塾を充実することで、地域の企業数を減らすことなく増やす。その継続が、やがてスタートアップ企業の芽吹きにもつながるのではないでしょうか。
また、彦根の企業を学生やUターンなどの若者に知ってもらうPRが必要だと思います。18~24歳の若者が都会へ出ていきますが、大凡5年でUターンしたいと考えているそうです。Uターンしたいと思いつつも地元にどんな企業があるか判らないから帰れないという意見も多く聞いています。会議所が中心となり、もっと県外に向かって地元企業をアピールし、大学生だけではなく、高校生に対しても授業の一環として地元企業インターンシップなどに取り組むことができないかと思っています。
昨年9月、日本経済新聞が人口10万人以上の285市区を対象に、テレワークに適した環境が整っているかどうかを分析・採点したところ、首位は滋賀県彦根市でした。「自治体が自らの潜在力を認識し、テレワーク環境の整備を強化すれば、地域経済にプラス効果をもたらしそうだ」と報じられたことは記憶に新しいところです。彦根に住みながら実現できる新しいワークスタイルの提案も交通至便の立地とともにPRに最適なコンテンツです。

会報誌「不易流行」の重要な役割

これまでの話でも統計情報を踏まえた話をしましたが、統計を活用したコンテンツを発信していく必要があると考えています。
例えば、昨年、彦根市は人口が長浜と東近江を抜いて県下3位になりました。彦根市の人口が増えたわけではなく2市の人口が減った結果でした。この背景のひとつに、彦根は企業数が減っていないということが考えられます。2市は企業数が500近く減っているのに対して、彦根はその半分ほどでした。
この統計から時代の動きが読み取れるように、働く場所を減らさず増やしていくことが重要だということがわかると思います。
会員の皆さんへの情報の発信ツールである会報に、統計データを活用した、時代を読み解くコンテンツの必要性を感じています。
彦根の企業数、その増減、GDP、企業の納税額などの統計を様々な角度から分析し発信していくことは、彦根で商売する事業者だけでなく、彦根市外の方々にも商売を始めるきっかけとなるのではないでしょうか。

会員の本業支援

私が身を置く金融機関の業界では、資金繰りだけでなく「本業支援」にシフトして5年ほどになります。 本業支援は、売上の増加や経費の削減にとどまりません。ニーズに応え、経営の意思決定を後押しする。先ほどいいました事業継承やM&A、アライアンスなど、中小企業の一生をサポートしようとするものです。DXや省エネルギー相談などサポート内容は多岐にわたっています。中小企業の振興は地域経済活性化の原動力となります。
商工会議所の会頭就任にあたって、会議所の「不易」も言い換えれば「本業支援」、どちらも同じ方向を目指していると思っています。いかにサステナブル(持続可能)であるかを考え、常にアップデートを試みたいと思います。
中小企業にとっては当面円安はマイナスです。1ドル150円代に突入すれば中国に進出した企業は為替メリットがないといわれています。インバウンドは増えますが、この危機的な状況が長引きます。私たちが経験したことのない困難な時代ではありますが、精一杯努めさせていただきますので、会員の皆さまのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。


今、このタイミングで金融のプロが会頭に就任されたことは、彦根にとって幸運なのかもしれない。「不易」という新たなサスティナブルを目指す会議所(時代)に期待したい。

沼尾護氏 プロフィール

1952年3月生まれ
1976年旧彦根信用金庫に入庫、情報システムの業務を16年間務めた後、営業職に就き、市内や近隣町の支店長を務める。現在の滋賀中央信用金庫になって以降は常務や専務などを歴任し、2014年6月に理事長に就任。2019年黄綬褒章(業務精励・金融業)を受章。
2020年より彦根納税協会会長も務める。