私たちの生活環境は、デジタル化による「新たな日常」の加速により、ネット上を流れるデータの流通量が急増している。テレワークやオンライン授業、ウェブ会議、自動運転、遠隔医療、遠隔教育、無人工場、農業、自治体業務システムなど、デジタルは苦手だという人でも想像できるだろう。
例えば、自動運転の実装では、自動車1台で1日映画1000本分ものデータを収集し、その処理に数十万台のPCが必要と想定されている。あらゆる場所で収集されたデータが、データセンターで処理された上で、また現場に戻っていくという「データの循環」が必要となる。応答速度の遅延は致命的となり、多数同時接続の普及は絶対条件となっている。
インターネットをバックグラウンドで支える存在が「データセンター」である。現在、その7割が東京近郊に集中しているが、国では、新たに最大5か所程度の中核拠点と、最大10か所程度の地方拠点を今後5年程度で整備し、国内における最適配置に向けて地方分散を支援している。
データセンターとは
データセンターは、サーバーやネットワーク機器を設置・運営することに特化した施設であり、データの収集・伝送・接続・蓄積・処理・発信のうち、データの「蓄積・処理」の役割を担っている。これまでのデータセンターは、「デジタル産業事業者が自らのビジネスを行うための施設」と位置づけられていたが、「社会生活を支えるデジタルインフラ」としての位置づけとなり、他のインフラと同様に、その安定的な運営に国としても責任を持つとしている。
デジタル化の進展に伴い、公共・事業者などが保有する個人情報・機微情報がデータセンターに格納されるとともに、交通・医療・教育等の社会活動もデータに依存するようになっている。さらに、5Gに代表される通信の高度化で、将来的には人に依存しない通信が増加することが見込まれ、これまで以上にデータの蓄積・処理を行うデータセンターの役割が安全保障の観点からも重要になる。
データの量から質へ《新たな価値創造》
データセンターの重要性はデータ量の変化にもあり、将来的な試算では、今後10年間でデータ流通量は30倍に増加すると見込まれている。自動運転の際に、自動車が衝突・渋滞回避のためにカメラ・GPS等で収集したデータのやり取りを行ったり、自動工場において、産業用ロボットがコンベアで流れてくる製品の組立・溶接等を行うために、カメラ等で収集したデータを通信したりするなど、データ流通の主体が「人による指示・管理」から「人以外」に広がっていくと考えられている。量的な増加と共に、データの質的な重要性が高まっており「新たな価値創造」が可能と考えられている。
分散配置の重要性
しかし、日本では、データセンターの約7割が東京近郊に存在している。さらに、活発なデータセンター投資の流れを受け、投資額1000億円超のデータセンター新設計画は、いずれも東京近郊が中心となっている。地方で生まれ、その地方で利用されるデータでも、データセンター、インターネットエクスチェンジ(*1)の集積する東京で処理される場合が多いのが現状である。集積による効率向上を受けた市場原理によるが、災害時のリスクが大きく、改善が必要と考えられている。
災害時には、東京だけでなく地方のデータ処理も滞る可能性が高く、日本全体の通信が困難になるリスクや、金融、医療、交通、行政サービス等の重要インフラが正常に機能しなくなるリスクが存在する。通信の安定の重要性が高まる中、災害時のレジリエンス(*2)強化のためにも、データセンターの分散が必要と考えられている。
(*1) 複数事業者の経路接続点
(*2) 災害に対するリスク対応能力、復元力
データセンター整備の最適化
(1) 事業者目線から
災害の強さ、 電源確保、データ需要地からの距離、ネットワーク(海底ケーブル・光ファイバー) の充実等が候補地選定の要件となっている。
(2)公共の立場から
- 災害時でも国全体の通信途絶が最小限に抑えられること
- 地方の再生可能エネルギー等を効率的に利用できること
- 地方で生まれるデータを「地産地消」で処理できるよう、通信ネットワーク等が効率化されていること
- 24時間365日の安定的な運営が求められるデータセンターにおいて、太陽光・風力発電等の自然変動電源により供給される電力を、より安定的に最大限活用する観点から、蓄電池の導入についても検討を行う必要があること
- 広域災害時に「共倒れ」とならないだけの距離を設ける
- 将来的な拡張可能性も含め、1つの地点に単独又は複数の事業者が共同で出資を行い、10ヘクタール程度の面積を占めること
- 再生可能エネルギーが大量に生産される地域への設置や、自家消費型や長期契約による調達など、追加性のある再生可能エネルギーの活用を行うこと
- 地方で生まれるデータが地方で処理されるよう、海底ケーブル等が地方に立地して「拠点」となること
- インターネットサービスプロバイダの相互接続、及びそこに接続するインターネットプロバイダやコンテンツプロバイダが複数存在すること
- ビジネスベースで運営が可能であること
まちづくりとの連携とアクションプラン
世界の各国は自国内で発生するデータの保管義務の規律を強めるなか、日本は信頼によってデータの自由な流通を促進するDFFT(Data Free Flow with Trust)を推進している。政府による民間事業者のデータの扱いについて、法的規制は行っていないが、海外のデータ管理の動きに対し、国や自治体、事業者が保有する機微情報・個人情報を国内で適切に管理可能となるだけのデータセンターの量的確保が必須と考えられている。拠点データセンターの新規設置にあたっては、許認可や住民への理解等において、地方自治体の役割は重要であり、まちづくりとの連携も重視されている。
政府は事業者がビジネスベースで運営可能であることを前提としながら、設置に前向きな地方自治体の募集、意見交換が行われ、拠点立地の考え方を取りまとめた上で、設置事業者を募り、新規拠点の整備を行うとしている。
経済産業省において、彦根市を含む78の立地候補地がリストアップされ、150以上の地方自治体と意見交換を実施している。令和3年度国補正予算では、データセンター事業実施可能性調査(経産省所管)の補助事業者として、甲賀市など10都市が採択されている。
デジタル田園都市国家構想
彦根商工会議所では、昨年から知事要望において、次世代データセンターの県内誘致に向けた研究と対策を提案している。滋賀県からは、「企業立地の方向性検討調査を実施した上で、データセンターの立地動向や可能性、経済波及効果等の結果を踏まえ、県内立地の可能性について研究する」との回答を得ている。直接効果だけでなく、関連企業の誘致やメンテナンス、雇用の受け皿など、関連産業における経済効果も大きいとされている。
デジタルの力で地方の個性を活かし、社会課題の解決を目指す「デジタル田園都市国家構想」実現に向けて、有識者会合等の情報と可能性に注目したい。
参考資料
- デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合(中間とりまとめ)
- 成長戦略実行計画