メタバース観光とは

「メタバース」はインターネットを利用した3D仮想空間で、ユーザー同士がアバター(自分の分身)でコミュニケーションができる活動空間である。また、仮想空間で提供されるサービスを受けることもできるのが「メタ(超)バース(世界)」なのである。場所や時間に捉われず、オンライン環境さえ整えば誰でも利用が可能になり、世界中の注目を集めている。
「メタバース」は、XR(クロスリアリティ:現実世界と仮想世界を融合し、新しい体験を作り出す技術の総称)の延長線にある。専用ゴーグルなどのデバイスを使用するVR(仮想現実)と異なり、機器の有無に関係なくインターネット上に存在する活動空間だが、その定義は明確に定まっていない。
コロナ禍で国内外問わず人の移動が制限され、観光業は経済的に非常に大きなダメージを受けた。しかしながら、観光地に足を運ぶのと同じように、豊かな旅行体験や観光体験ができるオンライン上の「メタバース観光」は、ビジネスの継続手段としてではなく、新たなビジネスとして注目されるようになった。
前述の通りオンライン環境さえ整えば、メタバース観光は場所や時間に捉われず、誰でも容易に利用できる。実装にはある程度大きな初期投資が必要だが、交通費・宿泊費は不要で、ユーザーの金銭的負担が少なくてすむ有効な観光(旅)手段である。
「メタバース観光」の最大の特徴は、空の上や海中、危険な場所といったリアルでは体験することができない観光も可能になるところにある。更に、アバターでコミュニケーションをとるため、国籍や性別・身体的特徴などを気にせず、観光体験ができる。「メタバース観光」に対する期待は大きい。

  • AR(拡張現実)…「Augmented Reality」の略で、現実世界に仮想世界を重ね合わせて体験できる技術。
  • VR(仮想現実)…「Virtual Reality」の略で、仮想世界を現実のように体験できる技術。
  • MR(複合現実)…「Mixed Reality」の略で、現実世界と仮想世界を融合させる技術。ARよりも現実世界と仮想世界をより密接に〝複合〟していく。
  • XRは「Cross Reality」の略で、現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称。AR・VR・MRの技術は、いずれもXRに含まれる。

参考: KDDIトビラ

メタバース観光の例

実は、「メタバース観光」の取り組みはコロナ禍以前より実施されている。沖縄では2019年10月31日に発生した火災で焼損した首里城を、沖縄発のメタバース「バーチャルOKINAWA」上で復元した。首里城の他、沖縄国際通りも仮想空間上で歩ける仕組みを作っており話題を呼んでいる。
他にも国土交通省と観光庁が連携し、メタバース観光を実証実験として行った例もある。オープントップバスに乗って観光する乗客がXRデバイスを身につけることで現実世界と並行してメタバース内でも移動するというオンラインバスツアーが人気を博した。


彦根市内のXRの取り組みとしては次のものがある。NPO法人彦根景観フォーラムと彦根辻番所の会は、「江戸時代から続く、足軽組屋敷のまちを未来につなげるため、「旧彦根藩足軽組屋敷バーチャル資料館」をクラウドファンディングを利用し立ち上げた。𠮷居家住宅、旧磯島家住宅など7軒の足軽組屋敷のムービーをYouTubeで紹介し、「3Dウォークスルー」では、旧磯島家住宅と辻番所の内部を現場にいるかのように、ブラウザで内覧することができるようになっている。

「3Dウォークスルー」NPO法人彦根景観フォーラムと彦根辻番所の会

旧彦根藩足軽組屋敷バーチャル資料館


一般社団法人近江ツーリズムボードではインバウンドをターゲットとし、彦根城に関する動画、彦根城が舞台となるゲーム、井伊直政公の兜をかぶれるARなどを盛り込んだ「体感 国宝彦根城」というアプリケーションを製作し、好評を得ている。
このアプリでは、実際に彦根城に行くことで彦根城の攻略の難しさを利用者に体験してもらう要素を盛り込んでいる。アプリを通じて利用者に彦根城を認知してもらうことで、実際の誘致を促すことが目的であるといえるだろう。

「体感 国宝彦根城」 一般社団法人近江ツーリズムボード

体感 国宝彦根城


更に、視野を広げると、2021年12月に横浜で開催された「お城EXPO 2021」では、最新のVR技術で創建当時の「彦根城」「安土城」「肥前名護屋城」「和歌山城」の4城を再現し、「時空を超える メタバース城郭ツアー」が実施された。オンライン上の空間を通じて来場者に4城の歴史を感じてもらう画期的なアイディアが人気を博した。
民間の取り組みだけではなく彦根市は、2022年11月に株式会社ウインライト(元素騎士プロジェクトチーム)と協力し、オンラインゲーム「元素騎士Online-Metaworld」に関するパートナーシップを締結している。このゲームは、MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game:大規模多人数同時参加型オンラインRPG)のメタバース空間において、ブロックチェーン技術を用いたNFT(非代替性トークン)を活用したオンラインゲームである。

  • NFT……Non-Fungible Token。「代替不可能なトークン」という意味。偽造や改ざんが難しいブロックチェーン技術によって、デジタルデータに資産的価値と売買市場が形成された。

彦根市は当ゲーム内において「バーチャル彦根城」を実現し、メタバース空間において彦根城観光との紐づけに着手している。

メタバース観光の未来

NFTを活用することで安全に所有や売買ができるようになり、メタバースでの経済活動も可能だ。
観光振興において「観光はXR・メタバースで代替可能か」という問いがある。メタバース観光の進化と普及で、観光地を訪れる人々が減少するのではないかと懸念する人もいるが、現時点では観光体験の全てを代替するのは不可能であり、XR・メタバースによってリアルの価値を高め観光を振興すると結論づけられている。多様化した観光ニーズに対応するコンテンツを充実することで、観光地としての魅力が増すということである。
旅行前、滞在期間中、旅行後の一貫したプロモーションが求められるのもそのためである。各フェーズに対応したXR・メタバースコンテンツが観光の楽しみを拡張するからだ。
旅行前、観光地を訪れようとしている人には、よりリアルに魅力を知ってもらう試みが必要であろう。メタバースでイベントを開催しクーポンを発行するのも有効だ。滞在期間中には、近隣の観光地や施設を紹介したり、唯一無二の体験を提供する。旅行後には、旅の思い出を振り返り、リピーターとなってくれるようなコンテンツを用意しておくこともホスピタリティーと考えることができるだろう。また、観光体験を他者共有するメタバースコンテンツも必要だろう。
しかし、現状はメタバース関連の事業への参入に関心が集まっているが、マネタイズ(収益化)ができず事業化が頓挫する事例も多い。事前に課題を解決し取り組む必要があることはいうまでもない。  

彦根城の世界文化遺産登録とメタバース 

地域ブランディングや6次産業化による地域やコミュニティ活性化、そして「シビックプライド(Civic Pride)」。シビックプライドは「地域をより良い場所にするために、自分自身が関わっている」という、当事者意識や自負心を指す言葉として使われるようになった。周知のようにこれらは全て観光に関わっている。そして、地域の課題解決の手段として観光産業を捉え、様々な取り組みが行われている。
「メタバース観光」をかけ合わせた観光誘致は、彦根城の世界文化遺産登録への取り組みにも追い風となるだろう。他の地域にはないアドバンテージである。彦根の暮らしそのものがコンテンツとなる未来を期待したい。