遊休地から生まれた一筋の光
彦根麦酒の設立は2019年。そのルーツは彦根麦酒があるあたり、曽根沼周辺の土地活用を目的としたプロジェクトにある。
小島さんは「もともと、長年活用法が決まらなかった干拓地でした。そこを何とか活用できないかと、地元の農産物を活かした加工施設を作る構想が始まりです。そこに滋賀県立大学や地元の有志団体、そして橋本グループが連携し彦根麦酒は誕生しました」と話す。福井県出身の小島さんは、大学時代から彦根のまちづくり活動に参加していた縁で、このプロジェクトに加わった。別業種の仕事を志していたものの、地域への想いもあり、県外の醸造所で修業を経て醸造家としての道を歩み始めた。
彦根のテロワール(風土・土地、個性)を味わう
テロワール(terroir)は、フランス語で「土地の個性」を意味する言葉だ。彦根麦酒が大切にしているのは〝飲みやすさ〟と〝彦根らしさ〟の追求。お酒がそれほど得意でない方でも楽しめるよう、軽やかで香り豊かな味わいを意識している。
地元産酵母の開発の他、こだわりの核となるのが豊かな地元の素材だ。醸造所に隣接する畑で栽培されたホップや大麦をはじめ、彦根梨や紅茶・蜂蜜といった様々な素材を積極的に取り入れている。
地域との連携においては、彦根東高校の生徒と取り組む麦芽カスを使用したピザの開発や、地域の企業や道の駅へオリジナルビールをOEM供給したりと、その活動は多岐にわたる。 設立当初からの「地域と共に」という精神が、今も事業の隅々に息づいているのだ。
「農産物なので、その年の出来具合によって味わいも変わります。素材と向き合いながら配合を微調整するのもこの仕事の面白いところです。ビールを造るときは、お客さまが飲むシーンを想像しています。一日の終わりにホッと一息ついたり、大切な人へのギフトで贈って喜んでもらえたり。ビールをきっかけに彦根の風景や人の温かさを思い出してもらえたら、こんなに嬉しいことはありません」
小島さんの言葉からは、ビール造りへの真摯な姿勢と、彦根への深い愛情が伝わってきた。その想いは、地域との活発な連携にも繋がっている。彦根の風土と人の想いが溶け込んだ一杯。 そこには、ただ美味しいだけではない、心温まる物語が詰まっている。