長谷川林材は、今年9月に滋賀大学の短期集中授業「地域課題プロジェクト」に協力した。フィールドワークや展示発表会を含むユニークな授業に企画段階から全面的に関わった取締役の角佳宣さんに、改修工事を終えたばかりの同社でお話を伺った。
明治38年創業の長谷川林材の歴史は、地域との共存そのもの。かつては近江鉄道の敷設に必要な栗材を供給し、また大工、家具、建具、仏壇、バルブの木型……と、地域の得意先とともに時代を歩んできた。昭和時代に現在の社屋1階部分に設けていた「日曜大工センター」は、地域の人たちが気軽に立ち寄り、木の良さに触れ、ものづくりに親しめる店舗だった。この場所は、創業120周年となる今年“Re Start”として改修し、今回滋賀大学の授業の展示発表会場として使われる運びとなった。
2年前、家業の長谷川林材に5代目として佳宣さんが入社。「私たちのミッションは、〝居場所をつくり、一人ひとりのやりたいことを叶える〟ことです」と佳宣さんは語る。彦根の城下町に根ざし、地域との繋がりと得意先一人ひとり顔の見える関係性のなかで、同社は仕事をしてきた。そうした地域社会の一層の充実を願い、昔から大切にしてきた「木使い・気遣い」を、今あらためて合言葉として掲げ、長谷川林材は次の一手を考えている。
滋賀大学経済学部科目「地域課題プロジェクト」:経済学部とデータサイエンス学部の学生たちが「彦根のまちの『良いところ』と『課題』」をテーマにフィールドワークを実施。最終日には、長谷川林材の社屋を会場に、展示発表会が開催された。そこに並んだのは、学生たちのフィルターを通して切り取られた彦根のリアルな姿だった。参加した学生9名のうち、ほとんどが県外出身。自らが暮らす地域を自分事として考える貴重な体験となった。
このミッションのもと佳宣さんが中心となって始動した新事業が「misekko」だ。滋賀県産木材を使用し、仏壇づくりの木工技術を生かした組み立て式のマルシェ屋台を企画・製作し、全国に販売。また、県内限定でレンタルもしている。飲食店等の店頭やマルシェイベントでの使用はもちろん、ある心療内科クリニックでは心地よいコミュニケーションを促す場づくりのアイテムとして使われているという。「自分たちの仕事で、誰かの居場所ができて、その人の〝やりたい〟が後押しできることが何よりの励みです。きっとその先に居心地の良い未来があります」と佳宣さん。
今回の大学との連携も、学生一人ひとりと向き合い、一緒に展示発表の場を作り上げた。展示発表会当日に集ったのは、近所の主婦や市役所職員まで様々。現社長である父の卓明さんは「滋賀大学の授業に協力したことで、当社と地域との新たな関わり方を実践することができた。これからも長谷川林材と地域とのより良い関係を築いていきたい」と話す。
「木使い」と「気遣い」を胸に歩み続ける老舗企業の挑戦から、これからも目が離せない。